著者
樋口 収 道家 瑠見子 尾崎 由佳 村田 光二
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.148-157, 2011
被引用文献数
1

他者との良好な関係を維持したいという欲求は,根源的なものであるとされる。先行研究では,そのような動機から,被害者は時間の経過とともに加害者を許すことが示されている(Wohl & McGrath, 2007)。このことから,本研究は重要他者との葛藤を思い出したとき,被害者は加害者よりも当該出来事を遠くに感じる可能性について検討した。実験1では,参加者に重要他者との間に起きた過去の葛藤を被害者あるいは加害者の立場から想起させ,当該出来事をどの程度遠くに感じるかに回答させた。その結果,被害者は加害者よりも当該出来事を遠くに感じていた。実験2では,参加者に重要他者あるいは非重要他者との間に起きた葛藤を被害者あるいは加害者の立場から想起させ,当該出来事をどの程度遠くに感じるかに回答させた。その結果,重要他者との葛藤を思い出した場合には被害者の方が加害者よりも出来事を遠くに感じていたが,非重要他者との葛藤を思い出した場合には被害者と加害者の間で有意な差はみられなかった。これらの結果は,仮説と一貫しており,他者との良好な関係を維持したいという欲求が自伝的記憶の再構成に及ぼす影響を議論した。<br>

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