- 著者
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三宅 弘
- 出版者
- The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
- 巻号頁・発行日
- vol.72, no.4, pp.876-883, 1969
咽喉頭部異常感を有する女性患者では, その異常感が更年期障害によるか否かを明らかにするため先づ996名の患者の統計的観察を行なつた. その結果は, 更年期ばかりでなく, 更に若年の, 30才以後の女性にも異常感患者が多いことを知り, またmenopauseを過ぎた患者について異常感の発生とmenopauseが一致したかどうかを調べて僅か15%のものに一致を認めた. しかしその中には単なる偶然の一致によるものも含まれているであろうから, 咽喉頭異常感と更年期とは余り関係が無さそうと先づ考えた.<BR>そこで次に咽喉頭異常感患者の尿中のestrogen, pregnanediol, gonadotropinの量を測定して, 更年期との関係の有無を確実にしようとした. そしてその測定結果に見出された特徴の一つには尿中のgonadotropinの低下があつた. この現象は更年期のホルモン異常とは全く相反する現象であるので, 咽喉頭異常感は更年期とほとんど関係がないだろうと判断した.<BR>而してこのgonadotropinの低下は咽喉頭異常感の原因となりうるものと考える. 何故ならば, 一般的に立つて, ホルモン異常は多くの臨床的症状を呈するのが普通であり, 同時にpsychoneurosisやvegetative Stigmataを伴うものであるから. 而してこのgonadotrpin量の低下の原因としては, estrogenの濃度の上昇や, 視床下部のneurosecreetionの異常や, 下垂体前葉機能障害が考えられるが, emotionが形成されるlimbic syatemからの影響も見逃すことは出来ない.<BR>以上の諸成績から私は結論的に, 咽喉頭異常感は更年期とは直接関係がないが, 尿中ホルモンに異常があることから, 咽喉頭部異常感の治療には, 局所的治療, 自律神経系に対する治療や, tranquilizerなどのほか, ホルモン療法も必要だと主張した.