著者
佐藤 宏子
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.67-67, 2000

本書は、「21世紀の日本の最も大きな社会問題は、若年・中年・老年という三世代の金銭的・物質的・サービス的・情報的・愛情的な交流がうまくいくか、それとも逆に世代間の対立が激化するかの点にあると信じて疑わない」と考える著者が、16名の共同研究者と共に3力年にわたって行なった「世代間交流」の研究成果をもとに、1989年から1998年の間に執筆した「世代間交流」の理論化に寄与する6編の論文を集めたものである。<BR>本書の構成は、第1章 : 高齢化社会における世代の問題、第2章 : ボランティア活動の意味、第3章 : 長寿社会の生涯学習、第4章 : 意味の深みへ-方法論によせて、第5章 : 白秋・玄冬の社会学、第6章 : 家族の来し方行く末を考えるとなっており、薪しい研究分野である「世代間交流」が非常に幅広い視点から論じられている。内容を簡単に紹介すると、長寿化しつつある先進諸国では世代相互間の断絶・抗争が発生しやすくなっており、顕在化した「世代の断絶」や「世代間抗争」に対処するためには、家族を超えた社会的レベルで三世代間の交流システムを再構築する必要があり、全体社会的レベルの世代間交流としてボランティア活動の重要性、生涯学習の意味や必要性などが述べられている。また、エリクソンが老年 (成熟) 期への移行過程の発達課題としたインテグリティ (「充全性」) に到達するためには、高齢者が自分と同じ老年の世代と接触するだけでなく中年や若年の世代と接触し、それらの人びとのために働くという手立てが有効であり、さらに「長寿社会」から「成熟社会」に達するためには、すべての世代がすべての世代と接触し、損得を離れて相互に奉仕し合う「世代間交流」が「必要条件」の一つであると指摘している。また、本書の後半では著者自身の老後感、ライフパニック、臨死体験、参禅における悟りの境地、遺伝子操作が論じられたり、現時ヒト科の古生物学・考古学的研究・霊長類の動物生態学的研究・狩猟採集民の人類学的研究の成果から、ヒトにとって言語の獲得と家族の形成が不可欠なものであったことが導かれており、経験と学識の豊かな著者ならではの示唆に富んだ良書である。ただ、私は著者らのライフパニック調査における有配偶男性の身の回りのことや家事に関する生活自立能力の低さは、著者の言葉を借りるならば「健常者の平和時の日常生活世界」の問題であって、危機管理としての問題ではないと感じること、「夫婦が負担を平等に分け合いながら共生しようとしたときの二つの生き方」には共感しかねることを正直に付け加えさせていただきたい。

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