著者
大崎 茂芳
出版者
The Japan Society of Applied Physics
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.406-410, 1989

クモのけん引糸を開発した自動糸巻き器により採取し,その光学的性質を, 400~700nmの波長域で調べた.メスのジョロウグモのけん引糸は,夏には全波長領域にわたって均一な反射を示すが,秋には450nm付近の反射強度の低下を示すこと,すなわち自色から黄色へ色変化すること見いだした.この黄変の理由として,昆虫捕獲用と外敵防衛用の機能としての保護色化の可能性が考えられる.また,赤外線二色性から,たんぱく質分子鎖はけん引糸の方向に配向していることがわかり,この配向性が強さの秘けつと思われる.けん引糸の荷重一伸長曲線は完全破師に至る前に.段階的な荷重の低下を示すこ'とから,何本かの繊維からなるけん引糸は,たとえ一本の繊維が切れても,命綱としての役割を果たすことが示唆される.けん引糸は. 100km程度は垂らせる.こうした糸の物理・化学的な特性を明らかにすることが,巧妙で不思議なクモの生態を解き明かす手がかりになるであろう.

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