著者
大橋 力
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.466-472, 1990-04-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
25

「筑波病」は筑波研究学園都市における自殺症候群である.現代精神医学では,自殺はうつ病・分裂病に深くかかわるとされ,これらの精神病は脳内神経伝達物質の代謝活性異常を反映する病気であることが解明されている.実験動物へのある種の化学物質の投与でうつ病・分裂病症状が導かれ,同じく,ある種の情報の入力・遮断によってもほぼ同質の症状が発現される.これは,脳が物質的環境入力と同様に情報的環境入力の影響を受けることを示す.このことからみても,これまでの環境を物質・エネルギーという尺度でとらえる態度から,それらに情報を加えた総合的な視座で環境をとらえる態度に早急に切り換えねばならない.この観点から,著者らは情報環境学の体系化を進めている.
著者
三上 直彦
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.802-812, 1980-08-10 (Released:2009-02-09)
参考文献数
35
被引用文献数
1

A supersonic free expansion of polyatomic molecules seeded in an inert carrier gas has been regarded as an excellent technique to produce the isolated and ultracold molecules which satisfy the requirements of an ideal spectroscopic sample. The cooling effects in the supersonic molecular beam are briefly summarized. An experiment on aniline with a simple pulsed supersonic nozzle combined with a pulsed tunable UV light source is described as an example of the fluorescence excitation spectroscopy. Recent progress on the optical spectroscopy of polyatomic molecules by use of the seeded supersonic free jets is reviewed from the photochemical and the photohysical point of view. The molecular structures and the dynamical behaviors in the excited states of the stable molecules and the van der Waals complexes are discussed.
著者
東 照正 竹内 徹也
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.1142-1145, 1998-10-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
13

正常な赤血球の静磁場(最高8T:テスラ)での配向を顕微鏡観察と光学的測定でとらえた.“生の赤血球”はその円盤面を磁場に平行に配向する.これはおもに細胞膜の脂質二重層や膜貫通タンパク質の反磁性磁気異方性によるものであり,細胞内のヘモグロビンは関与しない.一方,タンパク質分子間の架橋剤であるグルタルアルデヒドの作用で“硬化した赤血球”は円盤面を磁場に垂直に配向する.これは細胞膜にわずかに結合しているメトヘモグロビンの強い常磁性磁気異方性のためと考えられる.赤血球の動きは磁場に印加後5秒以内で平衡に達するが, 1Tの磁場強度で影響を受け始め, 4Tでほぼ完全に配向する.
著者
菅原 良孝
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.530-535, 2001-05-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
12

SicパワーデバイスにはSiの物性限界を打破した飛躍的な高性能が期待でき,電力変換装置に適用した場合について試算すると,電力損失と体積の大幅な低減が図れる.この結果,装置の大幅な省エネ化や省資源化が期待できる.開発レベルでは,すでにダイオードやFETでは,おのおの19kVや6kVの高耐圧が達成されるとともに, Siの性能限界もはるかにりょうができており,実用化の機運も高まりつつある.実用化にあたっての主要な課題は,コストに直接影響する歩留まりの向上と高温高信頼稼働の実現である.特に,前者に関してはSicウエ八一とエピタキシャル層の結晶品質の問題が深刻であり,実用レベルの電流容量を実現するうえで大きな障害になっている.
著者
中村 泰信
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.209-220, 2021-04-05 (Released:2021-04-05)
参考文献数
158

昨今,量子技術への関心が高まり,ニュースでもしばしば量子コンピュータや量子インターネットなどの話題が取り上げられる.中でも超伝導回路を用いた量子コンピュータの研究開発は,米国Google社やIBM社といった大企業が先頭を切って取り組んでいることもあり,大きな注目を集めている.その背景には,超伝導量子コンピュータの核となる要素回路であり,その誕生から20年を経てもなお進化し続けている超伝導量子ビット研究の進展がある.本稿では,超伝導量子ビット研究の最近の進展を紹介し,今後の課題について議論する.長い歴史をもつ電気回路工学やマイクロ波工学の研究分野も,「量子」という新しい視点で捉え直すと,また違った世界が開けてくる.
著者
寺倉 清之
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.965-970, 2000-08-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
50
被引用文献数
2

20世紀における科学技術の進歩のうちで,最もめぎましいものの一つが計算機の進歩である.計算機は理論研究における一つの道具としての巨大な算盤の役目から,計算物理という,実験と理論に並ぶ第Bの物理研究手法の基盤の役目へと昇格した.計算物理は解析的に解けない多くの問題への,客観的で近似なしの解を与えるということにより,予想外の結論へと導いてくれることがある.また,自然を解き明かすという立場から,設計し加工するという立場へと変化しっつある今後においては,計算物理がよりいっそうの重要な役割を演ずることになろう.
著者
山本 秀和 小山 浩
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.66, no.7, pp.662-672, 1997-07-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
103
被引用文献数
7

大規模集積回路(LSI)は,シリコン単結晶基板(ウエハー)を用いて製造ざれる.これまで,デバイス特性向上の要求に対し,ウエハーの品質は充分なマージンを持ち,大きな問題は起こさなかった.しかし,近年その状況が大きく変化してきている.シリコンウエハーの製造プロセスは,結晶引ぎ上げとウエハー加工に大別されるが,両者に起因したデバイス不良が発生し始めた.そこで,これらの不良をともに改善できるエピタキシャル成長ウエハーが注目されている.ざらに,マルチメディア時代の半導体デバイスを開発する上で,一つのプレークスルーをもたらす薄膜SOIウエハーも本格的に検討され始めた.ここでは,これらデバイス不良の現状を解説し,次にその解決策としてのウエハー仕様の変更と次世代ウエハーの展望について述べる.
著者
橋本 嵩広 町田 雅武
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.9, pp.568-572, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)
参考文献数
8

光電子分光法は物質の電子状態を直接観測する実験手法です.特に,硬X線光電子分光法(Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy: HAXPES)を用いると,電子デバイスの内部を非破壊で化学結合状態の分析ができます.近年,光源や光電子分析器の開発の進展により,実験室でのHAXPES測定が可能になりました.本稿では,光電子分光法の基礎原理に加えて,Ga線源を用いた実験室系HAXPES装置を用いた深さ分解測定や,データサイエンスを用いた深さ分布の解析手法について紹介します.
著者
前田 弘
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.524-530, 1989-04-10 (Released:2009-02-09)
参考文献数
9

1987年クリスマスイブに,新しいBi-Sr-Ca-Cu-O系高温超伝導体がこの世に現れた.この物質は,超伝導遷移温度, Tcが初めて100Kの大台を超えたため,応用的観点から多くの注目を集めた.と同時に,超伝導を支配するCu-O面を積み重ね,その枚数を増やすことによって処を上昇させることが可能となる,という高温超伝導発現機構に関する理論的展開にも新しい知見を与えたといえよう.さらにこの発見は,当時漂いかけていた「Y-Ba-Cu-O系以上の高温超伝導体はもうないのではないか」という暗雲を払いのけるとともに,「まだまだ高温超伝導体はあるよ」という希望と勇気を多くの人に与えたように思われる.本稿では,この発見に至った経緯とそれに関連して研究に対する考え方,取り組み方について私見を述べる.
著者
松本 元
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.849-850, 1996-08-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
2
著者
大友 明 相馬 拓人
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.340-345, 2022-06-01 (Released:2022-06-01)
参考文献数
40

電気化学反応は,エネルギーの変換や貯蔵に広く用いられている.リチウムイオン2次電池の基本原理は,電極活物質である遷移金属酸化物へのリチウムイオンの脱挿入であり,遷移金属酸化物はそれと同時に大量の電子を授受する.この電気化学なキャリアドープを強相関電子系の物質に適用すると,さまざまな電子相転移を引き起こすことができる.高い結晶性を有する薄膜を用いた場合,それらの電気伝導性,光学特性,結晶構造に関する情報が得られ,電子状態を詳しく調べることが可能となる.筆者らは,バンド絶縁体,モット絶縁体,重い電子系金属,超伝導体を対象に,電気化学セル中で薄膜試料の電子状態を可逆的に制御する手法を確立した.この手法は,単一試料における精密な電気化学ドープを実現し,それによって変調された電子状態をその場で計測するための強力なツールになりうる.超伝導ドームや量子臨界現象の観測にも適用することが可能になりつつある.本稿では,これまでの研究で得られた成果を紹介し,本手法の有効性と適用範囲を明らかにしながら今後の可能性を展望する.