著者
仲谷 一宏
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.35-42, 1993

1992年3月8日午後, 愛媛県松山市堀江沖2.3km, 水深22メートルの海底でヘルメット式潜水器具を用いてタイラギ貝漁をしていた潜水夫が行方不明になった.この潜水漁を支援していた船の船長によると, 作業中の潜水夫から突然「上げてくれ」という救助を求める声を聞き, 20分程度かけてやっと引き上げたが, ズタズタに裂けた潜水服とヘルメットだけを回収したという.潜水夫は行方不明で, その後の捜索にもかかわらず, 結局発見できなかった.<BR>この事故直後に海上保安部などにより潜水服の調査が行われ, その結果サメによる事故とされた.しかし, その後は詳しい調査が行われず, サメ以外の説も出されるようになったため, 佐賀県太良町の潜水士宅に保管されていた潜水服の再調査を実施した.その結果, 潜水服は胸部から脇腹にかけての胴部右半分と右足が切断され, 肩や腕などに多くの咬み傷のあることが改めて確認された.ヘルメットを固定する金属性の肩当て部分には強い力で穿孔されたと思われる穴や細かな平行な曲線からなる傷跡があり, 通信用ケーブルやゴム部の切断面にも細かな平行のすじ状の模様があった.肩当て部分のゴムの深い傷から長さ約5mm, 幅約2.5mmの歯の破片が発見され, これには2個の鋸歯が残されていた.また, 肩当てや潜水服に残された咬み跡を調査して顎の幅を検討したところ, 40cmはあったと推定された.これらの証拠から, この潜水夫を襲ったのは歯の縁辺部に鋸歯をもっかなり大形のサメであったことが明白となった.<BR>これらの歯の破片の特徴, 潜水服などに残された傷跡, 顎の大きさなどに加え, 水温 (当時の付近の水温は水深20mで1L6℃) や四国近海での当時のサメ類の出現状況などを総合的に検討した結果, この潜水夫を襲ったのは全長5m前後のホホジロザメであると結論された.<BR>日本では以前からサメによる被害が新聞などで時々報道されているが, これらの記録は散逸し, 被害の実態を捕らえることが出来ない.従って, 日本のサメによる被害を調査したが, 公認されているものも含め現時点で10数件の被害例を見い出した.しかし, これらの日本の事例においては, 襲ったサメの種類調査など後の科学的調査がほとんどなされていないため, 日本で被害を与えているサメについては種名すら分かっていないのが現状である.将来のサメによる事故を防ぐ意味からも, まだ埋もれているサメ被害例を発見し, 分析してみる必要があろう.<BR>なお, 本研究で集められたサメによる被害にっいては国際サメ被害目録 (International Shark Attack File, 事務局はフロリダ自然史博物館) に載せておいた.

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