著者
仲谷 一宏
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.35-42, 1993-05-15 (Released:2010-06-28)
参考文献数
9

1992年3月8日午後, 愛媛県松山市堀江沖2.3km, 水深22メートルの海底でヘルメット式潜水器具を用いてタイラギ貝漁をしていた潜水夫が行方不明になった.この潜水漁を支援していた船の船長によると, 作業中の潜水夫から突然「上げてくれ」という救助を求める声を聞き, 20分程度かけてやっと引き上げたが, ズタズタに裂けた潜水服とヘルメットだけを回収したという.潜水夫は行方不明で, その後の捜索にもかかわらず, 結局発見できなかった.この事故直後に海上保安部などにより潜水服の調査が行われ, その結果サメによる事故とされた.しかし, その後は詳しい調査が行われず, サメ以外の説も出されるようになったため, 佐賀県太良町の潜水士宅に保管されていた潜水服の再調査を実施した.その結果, 潜水服は胸部から脇腹にかけての胴部右半分と右足が切断され, 肩や腕などに多くの咬み傷のあることが改めて確認された.ヘルメットを固定する金属性の肩当て部分には強い力で穿孔されたと思われる穴や細かな平行な曲線からなる傷跡があり, 通信用ケーブルやゴム部の切断面にも細かな平行のすじ状の模様があった.肩当て部分のゴムの深い傷から長さ約5mm, 幅約2.5mmの歯の破片が発見され, これには2個の鋸歯が残されていた.また, 肩当てや潜水服に残された咬み跡を調査して顎の幅を検討したところ, 40cmはあったと推定された.これらの証拠から, この潜水夫を襲ったのは歯の縁辺部に鋸歯をもっかなり大形のサメであったことが明白となった.これらの歯の破片の特徴, 潜水服などに残された傷跡, 顎の大きさなどに加え, 水温 (当時の付近の水温は水深20mで1L6℃) や四国近海での当時のサメ類の出現状況などを総合的に検討した結果, この潜水夫を襲ったのは全長5m前後のホホジロザメであると結論された.日本では以前からサメによる被害が新聞などで時々報道されているが, これらの記録は散逸し, 被害の実態を捕らえることが出来ない.従って, 日本のサメによる被害を調査したが, 公認されているものも含め現時点で10数件の被害例を見い出した.しかし, これらの日本の事例においては, 襲ったサメの種類調査など後の科学的調査がほとんどなされていないため, 日本で被害を与えているサメについては種名すら分かっていないのが現状である.将来のサメによる事故を防ぐ意味からも, まだ埋もれているサメ被害例を発見し, 分析してみる必要があろう.なお, 本研究で集められたサメによる被害にっいては国際サメ被害目録 (International Shark Attack File, 事務局はフロリダ自然史博物館) に載せておいた.
著者
仲谷 一宏
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.120-122, 1973-09-10 (Released:2010-06-28)
参考文献数
9

1964年1月, インド洋で全長1850mmの白いトラフザメが捕獲された. この個体と正常なトラフザメを比較した結果, この白いトラフザメと正常なトラフザメの間の唯一の差は体色で, 眼の色を含め他の形質にはまったく差異が見られなかった. したがって, 本個体をトラフザメの不完全な白子 (partial albino) と断定した.現在まで板鯉魚類の白化現象は本例を含め10例が報告されているが, 本例のように大きな個体は珍らしく興味深い.
著者
仲谷 一宏 中野 秀樹
出版者
日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3-4, pp.325-328, 1995-11-25 (Released:2010-06-28)
参考文献数
9

南大西洋で漁獲されたツノザメ目ツノザメ科のオジロザメScymnodalatias albicauda の1尾の妊娠個体から発生中の59個体の胎仔を見いだした.胎仔の性別はオス33個体, メス26個体で, オス: メスの性比は1: 0.79, 大きさは全長157mmから192mmであった.本個体はマグロ延縄で漁獲されたが, 捕獲時の記録によると, いくつかの胎仔が総排出腔より海中に落ちたという.したがって, 60個体以上の胎仔をもっていたと推測される.サメ類の1腹の胎仔数は種類や個体の大きさにより様々であるが, ツノザメ類で知られている1腹の胎仔数は36個体までで, 大部分は20個体以下である.本研究ではオジロザメから1腹59個体の胎仔を見いだしたが, これは今までのツノザメ類の記録をはるかに上回る数で, ツノザメ類では最多, サメ類全体からみてもヨシキリザメ (135個体), カグラザメ (108個体) に次ぐ3番目の胎仔数である.なお, 各胎仔は大きな外卵黄嚢をもち, 腹腔内の3分の2の長さにおよぶ内卵黄嚢が形成されていた.内卵黄嚢は腸の始部 (十二指腸部) に直接開口し, 腸内にも卵黄物質が見られた.生殖方法は卵胎生 (卵黄物質にのみ依存する非胎盤性の胎生) であると考えられる.
著者
松本 瑠偉 内田 詮三 戸田 実 仲谷 一宏
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.181-187, 2006-11-25 (Released:2010-06-28)
参考文献数
18

The bull shark, Carcharhinus leucas (Müller and Henle, 1839), previously reported from Japanese waters but without voucher specimens, is herein reported and its status as a Japanese species confirmed, from 33 specimens, including three from a riverine habitat, collected from Okinawa and Iriomote Islands, Okinawa Prefecture, Japan.
著者
仲谷一宏著
出版者
ブックマン社
巻号頁・発行日
2011
著者
仲谷 一宏
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.469-473, 1983-03-10 (Released:2010-06-28)
参考文献数
6

タイワンザメProscyllium habereriは台湾・高雄から得られた成体雄1尾の標本に基づいてHilgendorf (1904) により記載された.その後, Tanaka (1912) は日本からヒョウザメCalliscyllium vemstumを記載したが, この両種の取り扱いは研究者により様々である.今回, タイワンザメの完模式標本 (ZMB16201) を調査し, ヒョウザメの原記載と直接比較する機会を得たが, 現在のところ, 両者のもっとも大きな差異は斑紋であった.しかし, タイワンザメの模式模本の体色, 斑紋は消失しつつあり, さらに原記載が簡単で図もないため, ここに詳細な完模式標本の再記載を行った。なお, タイワンザメととヨウザメの分類学的関係については将来の研究が必要である.
著者
宮原 一 波戸岡 清峰 矢部 衞 仲谷 一宏
出版者
日本生物地理学会
雑誌
日本生物地理学会会報 (ISSN:00678716)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.15-19, 2003-12-12
参考文献数
14

ウツボ科ウツボ属魚類オキナワノコギリウツボGymnothorax elegansが沖縄県の石垣島近海から採集された. 本種はこれまで日本からは, Randall et al. (1997) が小笠原近海から日本初記録として学名と写真を報告, また, 波戸岡 (2000) が沖縄本島近海から尾部が欠損した不完全個体について報告しているが, 詳細な記載はなされなかった. 本研究では新標本に基づき, 形態および体色の記載を行った.
著者
仲谷 一宏 白井 滋
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.37-48, 1992

1978年から3年間, 沖縄舟状海盆, 九州-パラオ海嶺, 茨城県から青森県に至る本州北部太平洋の陸棚斜面 ("東北沖") および北海道のオホーツク海陸棚斜面 ("オホーツク沖") において大規模な深海魚類調査が実施された.<BR>この中で著者らは軟骨魚類の分類を担当し, 水深200-1, 520mで行われた584回のトロール漁獲物から61種の深海底生性軟骨魚類を確認した.また, これら4調査海域に加え, 尾形他 (1973) による日本海でのトロール結果を含めて軟骨魚類相を検討した結果, 各々の海域が極めて特徴的な深海底生性軟骨魚類相を有することが判明した.沖縄舟状海盆は非常に多様性に富んだ海域で, 多くの分類群に含まれる37種が出現し, 中でもツノザメ科, トラザメ科, ガンギエイ科 (ガンギエイ属) の種が優占した.九州-パラオ海嶺には10種が出現し, その構成は比較的単純で, ツノザメ科の種が多く, ガンギエイ科やギンザメ目の種は出現しなかった.東北沖では18種の比較的多様な軟骨魚類が出現し, ガンギエイ科 (ソコガンギエイ属) の種が最も多く, ツノザメ科の種がこれに次いだ.オホーツク沖では軟骨魚類の構成は単純で, 2科9種が見られ, その大部分がガンギエイ科 (ソコガンギエイ属) の種であった.日本海で見られた深海底生性軟骨魚類はガンギエイ科 (ソコガンギエイ属) のドブカスベ1種で, 他の海域に比較して極めて貧弱な軟骨魚類相であることを再確認した.<BR>これらの深海底生性軟骨魚類の分布は琉球海溝等の超深海や対馬海峡等の浅海域の存在により大きな影響を受けているものと考えられる.また, 多くの種が出現した分類群について日本周辺での分布の特徴を調査した結果, 伊豆半島から南下する巨大な七島・硫黄島海嶺が深海底生性軟骨魚類の分布に大きな影響を与えているものと考えられた.すなわち, 中浅海部を黒潮で覆われた七島・硫黄島海嶺は, 特に北方産の深海底生性軟骨魚類の多くにとって越え難い障壁となっており, さらに, 北方深海底生性の魚類一般についてもこの考えを拡大できる可能性が示唆された.
著者
仲谷 一宏
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.35-42, 1993

1992年3月8日午後, 愛媛県松山市堀江沖2.3km, 水深22メートルの海底でヘルメット式潜水器具を用いてタイラギ貝漁をしていた潜水夫が行方不明になった.この潜水漁を支援していた船の船長によると, 作業中の潜水夫から突然「上げてくれ」という救助を求める声を聞き, 20分程度かけてやっと引き上げたが, ズタズタに裂けた潜水服とヘルメットだけを回収したという.潜水夫は行方不明で, その後の捜索にもかかわらず, 結局発見できなかった.<BR>この事故直後に海上保安部などにより潜水服の調査が行われ, その結果サメによる事故とされた.しかし, その後は詳しい調査が行われず, サメ以外の説も出されるようになったため, 佐賀県太良町の潜水士宅に保管されていた潜水服の再調査を実施した.その結果, 潜水服は胸部から脇腹にかけての胴部右半分と右足が切断され, 肩や腕などに多くの咬み傷のあることが改めて確認された.ヘルメットを固定する金属性の肩当て部分には強い力で穿孔されたと思われる穴や細かな平行な曲線からなる傷跡があり, 通信用ケーブルやゴム部の切断面にも細かな平行のすじ状の模様があった.肩当て部分のゴムの深い傷から長さ約5mm, 幅約2.5mmの歯の破片が発見され, これには2個の鋸歯が残されていた.また, 肩当てや潜水服に残された咬み跡を調査して顎の幅を検討したところ, 40cmはあったと推定された.これらの証拠から, この潜水夫を襲ったのは歯の縁辺部に鋸歯をもっかなり大形のサメであったことが明白となった.<BR>これらの歯の破片の特徴, 潜水服などに残された傷跡, 顎の大きさなどに加え, 水温 (当時の付近の水温は水深20mで1L6℃) や四国近海での当時のサメ類の出現状況などを総合的に検討した結果, この潜水夫を襲ったのは全長5m前後のホホジロザメであると結論された.<BR>日本では以前からサメによる被害が新聞などで時々報道されているが, これらの記録は散逸し, 被害の実態を捕らえることが出来ない.従って, 日本のサメによる被害を調査したが, 公認されているものも含め現時点で10数件の被害例を見い出した.しかし, これらの日本の事例においては, 襲ったサメの種類調査など後の科学的調査がほとんどなされていないため, 日本で被害を与えているサメについては種名すら分かっていないのが現状である.将来のサメによる事故を防ぐ意味からも, まだ埋もれているサメ被害例を発見し, 分析してみる必要があろう.<BR>なお, 本研究で集められたサメによる被害にっいては国際サメ被害目録 (International Shark Attack File, 事務局はフロリダ自然史博物館) に載せておいた.
著者
後藤 友明 仲谷 一宏 尼岡 邦夫
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.167-172, 1994-08-20 (Released:2010-06-28)
参考文献数
18

クラカケザメの喉部のひげを詳細に記載した.その結果, このひげが基底軟骨および軟骨性の中軸により支持されること, 顔面神経の舌顎枝の1分枝であるramus mandibularis externusが分布すること, 筋肉がないこと, そして味蕾や他の感覚受容体を持たないことが明らかになった.これらは, このひげが物理的刺激に対する感覚器官の一種であることを示唆している.また, このひげの相同性を推定するため, 他の板鰓類にみられるいくつかの類似した器官と比較したところ, クラカケザメの喉部のひげはこれらのいずれとも相同ではない固有なものであることが明らかになった.
著者
McDowall M. 仲谷 一宏
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:18847374)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.377-383, 1987

以前には分布が確認されていなかったチリ南部からAplochitonidaeの<I>Aplochiton zebra</I> Jenynsと.<I>A. taeniatus</I> Jenynsの2種を報告する.本研究に用いられた最大の標本は以前に知られていた最大の個体 (両種ともに240mmLCF) よりはるかに大きく, <I>A.zebra</I>で304mmLCF, <I>A.taeniatus</I>で384mmLCFであった.魚体の大きさ, 海に極めて近い所からとれていること, 脊椎骨数が多いことなどから彼らは両側回遊型のライフサイクルをもっているものと考えられる.
著者
仲谷 一宏
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

ヘラザメ属の分類について、Springer(1979)などにより分類学的研究が行われ、Meng et al.(1985)などにより、多くの種が記載された。Paulin et al.(1989)やLast and Stevens(1994)は多くの未記載種を分類学的に未整理のまま報告した。したがって、現在ヘラザメ属の分類は著しく混乱した状況にあり、属の分類学的再検討を行った。その結果、世界の模式標本の自らの調査結果に基づき、既知種の再検討を行い、31種を独立種と認めた。また、世界各地からの標本を検討した結果、既知の31種とは一致しない21種を発見した。これらの種は未記載種であると考えられ、一部の種は新種として投稿中で、他の種に関しても更に詳細な検討をし、公表の予定である。現在、本属の種数は50種を越えるが、すべての種の外部形態、内部形態、計測計数形質を検討した。その結果、吻長、口角部の唇褶、らせん弁数の3形質に一定の関係が認められ、このことから本属は少なくとも3群の種から成り立つことが示唆された。すなわち、1)吻が非常に長い群、2)吻が短く、上顎唇褶が短く、らせん弁が少ない群、および3)吻が短く、上顎唇褶が長く、らせん弁が多い群、である。用いられた形質は独立した形質で、それぞれから得られた結果が極めてよく一致したこと、この3形質以外の形質でも3群が支持されたことから、この3群は系統類縁関係を反映した群である可能性が強い。この3群の分類学的な取り扱いに関しては、本属が属するメジロザメ類全体の系統類縁関係に基づいて、統合的な見地から決定されるべきであり、本研究ではこれらの群に分類学的な処理を差し控えた。また、いくつかの分類学的に未解決の既知種に関しては、原記載などを参考にして3群への帰属を検討し結論を得た。
著者
尼岡 邦夫 矢部 衞 仲谷 一宏
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究は1995-1999年に実施された千島列島の生物多様性に関する国際共同学術調査において採集された魚類標本約13,000個体を対象に系統分類学的および生物地理学的に精査し,千島列島に生息する魚類の種多様性の実態を解明する目的で行われた。本研究の結果,以下に示す研究成果を得た。1.千島列島全域にわたる15島で採集された浅海性魚類を分類・査定した結果,未記載種4種,原記載以来初記録種2種および西部北太平洋初記録種2種を含む5目14科60種を確認した。2.未記載種4種(Icelinus sp., Microcottus sp., Porocottus 2 spp.)はいずれもカジカ科魚類であり,前2種については新種として命名・記載種ための論文をすでに学会誌に投稿した。3.千島列島中部で得られたタウエガジ科Alectridium aurantiacumおよびカジカ科Sigmistes smithiを詳細に記載し,西部北太平洋初記録種として学会誌に発表あるいは投稿した。4.千島列島中部で得られたゲンゲ科Commandorella popoviおよびカジカ科Archaulus biseriatusは原記載以来の初めての記録に当たる希少種であることが判明した。5.本研究で確認された千島列島の浅海性魚類について列島内での分布パターンおよび周辺海域での出現状況を基に生物地理学的に解析した結果,千島列島のURUP島以東とITRUP島以西で浅海性魚類の種組成が著しく異なること見出し,この間に生物地理学的境界が創成されているとの結論を得た。6.本研究課題の研究成果をまとめて報告書を作成するとともに,本研究で扱った千島列島産の魚類標本を北海道大学水産学部生物標本館に学術標本として登録し,データ・べース化を図った。