著者
高橋 豪仁
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.60-72,128, 2000
被引用文献数
1

1998年7月4日に実施したオリックス・ブルーウェーブのホームゲーム観戦者を対象としたアンケート調査によると, 被害を受けた人の9割以上が1995年の震災の年に, オリックスの優勝によって勇気づけられたと回答した。この集合的記憶の形成には, メディアの果たす役割が大きいのではないかという問題意識の下に, 1995年と1996年の神戸新聞において, オリックスの躍進・優勝と震災に関して, どのような「物語」がどのような形態で掲載されているかを, メディア・テキストが受け手によって積極的に読解されるという見方に基づいて検討した。そして, この物語が被災経験を有するひとりのオリックスファン (Kさん) の個人的経験の中でどのように受けとめられているかを明らかにした。主要な結果は以下の通りである。(1) 社説などにおいて,「被災地の試練」→「オリックスの躍進と被災地復興との重なり」→「優勝による被災地への勇気・元気」→「ありがとう」→「復興への希望」というモチーフが見出された。(2) 優勝を伝える記事において, ファンや著名人のコメントを載せる記事の構成が見られ, このことによって, 読者がオリックスの優勝に対してどのように反応すればよいかを読者に例示し, 優勝の意味づけの同意を構築することに役立つテキスト構成になっていることが推察された。(3) しかしながら, 面接調査によって, 被災経験をもつ献身的なオリックス・ファンであるKさんは, その物語と実際の生活との間にズレを感じていることが分かった。(4) メディア・テキストの受け手の側には, 自らの生活の延長線上において, テキストが積極的に読解され, 受け手の側で意味が補完・再構成される以上の能動性, すなわち, このメッセージを拒み, 跳ね返す程の能動性があることが推察された。

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