著者
得丸 定子 小林 輝紀 平 和章 松岡 律
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.411-419, 2006

「いのち教育」を展開するための基礎的知見を得るために, 大学生を対象に「死の不安に関する多次元的尺度 (MFODS)」を用いて, 「死と死後の不安」についての意識調査を行い, 結果として以下のことが得られた.<br>(1) 因子分析では「死と死後の不安」について5因子抽出された. この因子分析結果は, 因子数や因子の内容共に, MFODSが開発されたアメリカでの調査及び追試の結果とは異なった. 原因としては, 宗教や文化的慣習の相違が挙げられる. この相違は「いのち教育」を実践する場合, 宗教や慣習を考慮した展開が重要であることを示している.<br>(2) 信仰している宗教の有無については, 本調査でも約60%の学生が無宗教と回答していた. 「いのち教育」は宗教や慣習行事と深い関係があり, 実践に際しては宗教や慣習は考慮する必要がある. 日本の場合, 無宗教と信仰心がないこととは別のことであり, 初詣をする, おみくじを引く, お墓参りをするなどの宗教的慣習行動をとっている. このことは「いのち教育」展開の導入として, 意味は大きい.<br>(3) 「宗教観の低い」学生は「死後の自分の世界と肉体に対する不安」因子が低く, 「死体に対する不安」因子が高かった. 「宗教観が低い」学生は目に見えない世界やことについて価値を置かない結果と考えられる.<br>(4) 性別と「死と死後の不安」の関係では, 女子学生が男子学生に比べてすべての5因子で高い結果を示した. これは歴史的・文化的背景を含んだジェンダーバイアスとも考えられる. 男子学生には「死と死後の不安」が少ないことではなく, むしろ男子学生には無意識的に表現が抑圧されているだけに精神的ストレスが大きいことが考えられる.<br>(5) 抽出された「死と死後の不安」5因子は, 「いのち教育」を展開する際の内容の提示と考えられる. 今後「死と死後の不安」5因子を「いのち教育」の授業内容として具体的に展開する研究や実践がなされることが期待される.

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