著者
林 成之
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.207-229, 2010

人間の脳は脳に障害が起きたとき,人として生きてゆくために必要な気持ちや心や考えの回復を望んでいる。しかし,我々は気持ちや考えや心の発生メカニズムさえ,明らかにすることなく,脳が壊れてゆく脳浮腫,脳圧亢進,脳循環障害の病態を治療の目的にしてきた。このため,気持ちや心や思考能力など人間性の回復を図るために,治療の内容のみならず,その手順や治療の概念において,幾つも正確に対応してこなかったといえる。なぜ人間の気持ちや心や考える脳の仕組みを解き明かすことが難しく,その治療法を確立してこなかったのか,その答えは,外からの刺激を必ずしも必要としない,勉強したい,遊びたい,あの人が好きだといった気持ちや心と密接に関係する内意識を配慮することなく,Glasgow Coma Scaleに代表される外からの刺激に反応する外意識障害を中心に脳蘇生治療を行ってきたからである。はたして,これまでの脳保護治療はこれらの内意識や気持ちや思考の脳機能に対して的確な治療だったのだろうか。その疑問は,幾多の歴史的変遷を経て進化してきた脳低温療法においても同様に問われる。本稿では,感情や気持ち,考え,心の基盤となる本能が,前頭前野-線条体-A10-基底核-海馬-視床-リンビックの連合体からなるダイナミック・センターコアから生まれ,それがどのような仕組みで壊れてゆくかというメカニズムを明らかにし,これから脳低温療法をどのように変えてゆくべきか,その具体的な管理法の治療内容のみならず,治療手順まで明らかにした。脳低温療法の治療目標は,脳に取り込まれた多くの情報が一つの概念にまとまり,それが他の人の脳に伝わる,つまり考えや気持ちを伝えるA10-神経群の同期発火機能を如何に回復させるかである。ここでは,その具体的な管理法のポイントを幾つも明らかにすると同時に,神経内分泌ホルモンや遺伝子修復反応を活用する新しい治療法の可能性についても述べる。

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