著者
櫻井 淳 木下 浩作 守谷 俊 雅楽川 聡 林 成之
出版者
日本蘇生学会
雑誌
蘇生 (ISSN:02884348)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.131-134, 2001-07-20 (Released:2010-12-08)
参考文献数
21

心肺蘇生後に脳低温療法を行った症例の聴性脳幹反応, 脳波と予後を検討した。蘇生後平均3時間の聴性脳幹反応でV波が同定できない群は7例中6例が死亡し, 同定可能群 (生存/死亡=10/3) に比し有意に死亡率が高かった。聴性脳幹反応のV波の同定は蘇生後脳低温療法を行うにあたり生命予後の予測に有用と考えられた。一方, 心肺蘇生後24時間以内の脳波が平坦でもその後に脳波活動が記録され予後良好例が存在した。24時間以内に脳波でBurst suppressionを示した症例は全例が予後不良であった。心肺蘇生後に脳波での脳機能評価による予後予測は有効であるが, 蘇生後24時間以内の平坦脳波においては解釈に注意を要する。
著者
林 成之
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.207-229, 2010

人間の脳は脳に障害が起きたとき,人として生きてゆくために必要な気持ちや心や考えの回復を望んでいる。しかし,我々は気持ちや考えや心の発生メカニズムさえ,明らかにすることなく,脳が壊れてゆく脳浮腫,脳圧亢進,脳循環障害の病態を治療の目的にしてきた。このため,気持ちや心や思考能力など人間性の回復を図るために,治療の内容のみならず,その手順や治療の概念において,幾つも正確に対応してこなかったといえる。なぜ人間の気持ちや心や考える脳の仕組みを解き明かすことが難しく,その治療法を確立してこなかったのか,その答えは,外からの刺激を必ずしも必要としない,勉強したい,遊びたい,あの人が好きだといった気持ちや心と密接に関係する内意識を配慮することなく,Glasgow Coma Scaleに代表される外からの刺激に反応する外意識障害を中心に脳蘇生治療を行ってきたからである。はたして,これまでの脳保護治療はこれらの内意識や気持ちや思考の脳機能に対して的確な治療だったのだろうか。その疑問は,幾多の歴史的変遷を経て進化してきた脳低温療法においても同様に問われる。本稿では,感情や気持ち,考え,心の基盤となる本能が,前頭前野-線条体-A10-基底核-海馬-視床-リンビックの連合体からなるダイナミック・センターコアから生まれ,それがどのような仕組みで壊れてゆくかというメカニズムを明らかにし,これから脳低温療法をどのように変えてゆくべきか,その具体的な管理法の治療内容のみならず,治療手順まで明らかにした。脳低温療法の治療目標は,脳に取り込まれた多くの情報が一つの概念にまとまり,それが他の人の脳に伝わる,つまり考えや気持ちを伝えるA10-神経群の同期発火機能を如何に回復させるかである。ここでは,その具体的な管理法のポイントを幾つも明らかにすると同時に,神経内分泌ホルモンや遺伝子修復反応を活用する新しい治療法の可能性についても述べる。
著者
林 成之
出版者
The Japanese Society of Intensive Care Medicine
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.191-197, 1997-07-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
12
被引用文献数
2 18

脳の低温療法は、強力な脳保護作用を有するが心肺機能や免疫防御系への侵襲が強く,実際の臨床応用は難しいとされてきた。本論文では,その病態機構として下垂体機能低下に基づく細胞性免疫不全が原因であることを報告し,同時に低体温患者の脳温管理法と全身の集中管理法を明らかにした。脳低温管理の脳保護作用は,脳内熱貯留の防止,酸素代謝の低下,フリーラジカル産生の抑制,シナプス興奮の抑制などによって二次的脳損傷機構を防止している間に,障害された神経細胞の修復に必要な酸素と代謝基質を供給し神経細胞内ホメオスターシスの改善を図ることにある。その際,覚醒や知能獲得に機能するA10神経系の興奮性神経細胞死が脳の低温管理によって免れることが,この治療を受けた患者に知能障害の少ない理由であると考えられる。脳低温管理後にA10神経系の賦活療法を併用し,植物状態から脱却せしめた臨床例は,これを逆説的に証明している。