著者
高尾 哲也
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P2231-E3P2231, 2009

【初めに】車椅子を駆動している障害者(車椅子駆動者)にとって、バスやタクシーなどの輸送機関を利用して外出することは必ずしも容易なことではない.しかし、介助者の付き添いにより、輸送機関を利用しての外出が比較的、容易に行われる.また、外出が容易になるか否かは、車椅子駆動者の認識力のレベルにより左右される.今回、日常生活において標準型車椅子を利用し、両手駆動が可能である車椅子駆動者を対象に、障害者の生活状況評価法の1つであるFunctional Assessment Measure(FAM)を使用し、FAMの運動的側面(mFAM)の小項目の1つである輸送機関利用のレベルから、mFAMの小項目の1つである車椅子駆動およびFAMの認知的側面(cFAM)の大項目の1つである認識機能、という2項目のレベルを把握し、車椅子駆動者の外出、認識力について考察した.<BR>【対象】障害者施設に入所中の車椅子駆動者19名である.<BR>【方法】対象を輸送機関利用のレベルにより、最大介助や全介助を要する方々から構成される群(完全介助群)と、完全自立や修正自立の方々や監視、最小介助、中等度介助を要する方々から構成される群(非完全介助群)の、2群に分類し、各群の車椅子駆動と認識機能の各々の中央値を算出し、2群間での有意差の有無を検証した.尚、対象者に今回の調査目的および方法について説明を行い、対象者からの同意を得ている.<BR>【結果】輸送機関利用のレベルによる対象分類では、完全介助群は13名となり、非完全介助群は6名となった.車椅子駆動の中央値は、完全介助群で4点、非完全介助群で5点となったが、有意差は得られなかった.認識機能の中央値は、完全介助群で20点、非完全介助群で29点となり、有意差が得られた.<BR>【考察】mFAMの輸送機関利用とは、バスやタクシーなどを利用して外出する際、目的地までの道程、所要時間、運賃、安全性を認識することであり、車椅子駆動や輸送機関への移乗のレベルを問わない.cFAMの認識機能とは、問題解決、記憶、見当識、注意、安全確認から成り、輸送機関利用の際の基本的な認識力である.よって、車椅子駆動者が基本的な認識力を備えていれば、輸送機関利用は自立レベルに成り得る.車椅子駆動者の基本的な認識力が不十分であれば、介助者が車椅子駆動者に対し基本的な認識力を促し、共有することにより、輸送機関利用が部分介助レベルに成り得る.車椅子駆動者が基本的な認識力を備えていなければ、外出は介助者の完全管理下で行われるため、輸送機関利用は完全介助レベルになる.したがって、完全介助群と非完全介助群との比較で、認識機能で有意差が得られたと思われる.つまり、車椅子駆動技術に比べ、認識力は輸送機関を利用しての外出にとって重要なものである.今後、車椅子駆動者の外出を促していくために、車椅子駆動技術の習得のみならず、認識力に対する適切なアプローチも行っていく必要があると思われる.

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