著者
信太 奈美 古川 順光 池田 由美 来間 弘展
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E2Se2089, 2010

【目的】障害者スポーツには障害の程度を平等化するため競技別に運動能力を評価・分類するクラス分けが適応される.車椅子バスケットボールにおいては機能的クラス分けを採用し,プレー中のパフォーマンスによって選手の持ち点が決定される.持ち点は1.0~4.5まで0.5刻みに8段階に別れており,試合に出場する5人の持ち点が14.0を越えてはならないというルールがある.持ち点1.0・1.5は上位胸椎損傷者,持ち点4.0・4.5は下肢機能が使用できる脊髄損傷者や切断者で構成され,持ち点が高い方が障害は軽い.今回車椅子バスケットボール選手を対象にスキルを数値化し,効果的なトレーニングを行うための基礎的な資料を作成することを目的に,瞬発力,持久力,パスシュート,車椅子コントロール能力を評価するためのスキルテストを行い持ち点とスキルの関係を検討した.<BR>【方法】男性車椅子バスケットボール選手46名(年齢23.9±6.2)を対象に,パスの飛距離,20m走,3分間走,1分間シュート率,反復横移動の測定を行った.すべての測定は本人所有の車椅子バスケット専用車椅子で実施した.方法は(1)パスの飛距離:遠投は助走可能とし,投げ方は指定しない.チェストパスは静止した状態で行った.(2)20mダッシュ:静止した状態から20m区間での疾走タイムをストップウオッチで計測した.(3)シュート成功率:1分間シュート(1分間でできるだけ多くのシュートを放ち,成功したシュートの数を計測),ミドルシュート(指定した5カ所),フリースローの各シュート率を測定した.(4)3分間走:20m間隔に設置されたカラーコーンを往復し,3分間で走りきった距離を測定した.(5)反復横移動:1.2m間隔で3本の線を引き,対象者は車椅子にて中央の線をまたいで位置し,スタートの合図とともにどちらかのサイドの線に対し両キャスターが越すまで移動させ,次にバックターンにより中央線へ戻り反対サイドの線を両キャスターが越すまで移動し,再び中央線へ戻る.この運動を30秒間繰り返し行うことでサイドの線を通過した数を測定した.<BR>【説明と同意】対象者には測定方法といつで測定を中止できることを説明した.また,得られたデータを使用することに同意を得た。<BR>【結果】3分間走とパス項目に関しては持ち点が高くなる程好成績を示す傾向があった.20mダッシュでは持ち点2.0群・2.5群・4.5群が5.5secと最も速く、反復横移動では持ち点3.0群が15.6±0.7回と最も好成績を示したが,持ち点と20mダッシュ,持ち点と反復横移動の間に一定の関係はみられなかった.20mダッシュは持ち点1.0群と1.5群が5.9sec,持ち点2.0群と2.5群が5.5secとそれぞれ同じタイムを示した.また,シュート成功率は持ち点ではなく年齢との間に一定の関係がみられた.持ち点とパス項目について強い相関が見られ(遠投r=0.649,チェストパスr=0.505)、遠投とチェストパスにも強い相関が見られた(r=0.657).持ち点はパス項目の他に3分間走や全シュート率に相関が見られたが,20mダッシュや反復横移動には見られなかった.反復横移動は他の測定項目間との相関が低かった.20mダッシュと3分間走(r=-0.516),20mダッシュと遠投(r=-0.606)に負の相関があった.<BR>【考察】各スキルテスト項目と持ち点との関係においては,3分間走とパス項目に関しては持ち点に応じて運動機能が反映する結果であったが,一方で持ち点と20mダッシュ,持ち点と反復横移動の間に一定の関係はみられなかった.この結果は車椅子バスケットボール経験・練習頻度よる差が現れたこと,また同じ持ち点の選手であってもポジションや使用する車いすの違い(座面の高さや車輪の大きさ)により移動能力に影響を及ぼしていると推測される.20mダッシュは持ち点1.0群・1.5群,持ち点2.0群・2.5群とそれぞれ同じ値を示したことは、持ち点1.0の選手と1.5の選手の能力が近似していることを示しており,持ち点による能力評価の妥当性を示していると思われる.また、全般的なシュート成功率が持ち点ではなく年齢との間に一定の関係がみられたことは、年齢は経験年数を反映していることが予想され,車椅子バスケットボールの経験が長いほどシュート率が向上する傾向にあり,これはバスケットボールの競技特性でもある繰り返しによるスキルの獲得と考えられる.<BR>【理学療法学研究としての意義】スポーツは体力の維持や二次的障害の予防、自己実現など行う意義は大きい.本研究を行うことで障害を持つ人の運動能力を測定し,指導法やトレーニングに活かすことができ,また障害を持つ人のスポーツの普及にも貢献するものである。<BR>

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