著者
大沼 剛 戸津 喜典 阿部 勉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P1223, 2010

【目的】<BR>地域在住高齢者の過去一年間の転倒発生率は本邦では約20%といわれている。一方、パーキンソン病患者の転倒発生率は高く、外来通院パーキンソン病患者の過去一ヶ月間の転倒率が67.7%との報告がある。また、Woodらは転倒率が68.3%であったと報告している。さらに、一週間に13%転ぶといった報告もある。一日に複数回転倒をしているパーキンソン病患者も多く、認知機能障害を併せ持つ患者も多いため、転倒に関する記憶が不明確となっている可能性がある.そのため今回、転倒を高頻度に繰り返すパーキンソン病患者一症例に対し、療養日誌を用いて転倒の詳細について記録した。本研究の目的は、重度パーキンソン病患者の転倒実態について調査することである。<BR>【方法】<BR>対象は訪問リハビリテーションを行っているHoehn & Yahr分類IVの重度パーキンソン病患者一症例(女性、年齢64歳、罹患年数9年)である。ADL状況は、屋内はほぼ自立しており、屋内歩行は四点歩行器を使用し、布団にて寝ている。脊柱変形があり立位は前傾姿勢著明である。服薬状況は、ドーパミンアドニストを5種類朝食後、昼食後、15時、夕食後の4度に分けて服用している。<BR>転倒調査方法はカレンダー式の日誌を用いて転倒の有無について調査した。転倒場所は「居間」「台所」「その他」の3つに分類し調査した。また、自覚的体調を把握するため、「5:非常によい」「4:良い」「3:普通」「2:悪い」「1:非常に悪い」の5段階で自己評価し「朝」「昼」「夕方」「夜」の4回記録した。調査期間は平成21年4月1日から9月30日の6ヶ月間行った。また観察期間として、療養日誌導入前に1ヶ月間、週一回の訪問時に転倒についての聞き取り調査をした。訪問時の介入内容としては、歩行練習として、四点歩行器の操作方法の指導、筋力維持・向上練習、筋ストレッチ、療養指導を行った。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には本研究の主旨を十分に説明し、書面にて同意を得た。<BR>【結果】<BR> 観察期間の1ヶ月では聞き取り調査した当日及び前日に、一日2~3回転倒があったと答えた。調査期間の6ヶ月間の総転倒回数は117回であった。また一日の転倒率は47%で少なくとも二日に1度は転倒していた。一日に最も多く転倒した回数は9回であった。外傷を伴う転倒はあったが、骨折など病院受診を必要とする転倒はなかった。月別の転倒率は7月が58%と最も高く、8月が39%と最も低かった。転倒場所は、居間が35%、台所が54%、その他は11%で、その他の場所としてはベランダが多かった。自覚的体調の平均は「朝:3.1」「昼:2.9」「夕方:2.6」「夜:2.5」であり、朝が最も良く、夜が最も体調が悪かった。<BR>【考察】<BR> 今回、重度パーキンソン病患者一症例に対して療養日誌を用いて転倒に関する調査を実施した。転倒回数は117回であり、1日の転倒率は47%であった。Moritaらは、姿勢調節障害、突進現象、すくみ足、重度のパーキンソン病患者に特徴的なジスキネシアが転倒と関係していると述べている。またパーキンソン病患者の姿勢調節障害やすくみ足は薬物治療などの治療に反応しにくく、転倒の大きなリスクとなる。重度のパーキンソン病患者でベッドからの転倒・転落や移乗動作時の転落事故が多い要因として体幹機能の低下及び姿勢調節障害により、立位のみならず座位でも不安定であることが考えられる。今回対象とした患者は2DKのマンションに居住し、主に居間で生活している。最も転倒が多かったのは台所であり、台所はトイレや浴室、冷蔵庫から物を取る場合などに動線がほとんど台所を通過するため最も多かったと考えられる。洗濯等を自分で行っているためベランダでの転倒もみられた。骨折など病院受診を必要とする転倒がなかったのもパーキンソン病患者における転倒の特徴の一つと考えられる。パーキンソン病患者の場合、体幹機能の低下及び姿勢調整障害により崩れるように転ぶことが多く、今回の対象者も尻餅をついたと後方に転倒することが多かったと述べている。<BR> 転倒を多く引き起こすパーキンソン病患者に対して療養日誌などを用いて、自覚を促すことは必要である。転倒を高頻度に繰り返すと転倒に慣れてしまい、危険性を感じなくなる可能性がある。そのため一回一回の転倒に対して場所や状況を調査し転倒予防に努める必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> パーキンソン病患者は高頻度に転倒を引き起こすため転倒予防をはかる方略は重要である。その方略の一つとして今回の療養日誌の導入は一定の効果を出したと考えている。今後は、対象者数を増やし、パーキンソン病患者の転倒を引き起こす要因を導きだす必要がある。<BR>

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