著者
大沼 剛 橋立 博幸 吉松 竜貴 阿部 勉
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.151-160, 2014 (Released:2014-05-23)
参考文献数
30
被引用文献数
1 4

目的:本研究では,屋内生活空間の身体活動指標home-based life-space assessment(以下,Hb-LSA)を開発し,地域在住の要支援・要介護高齢者を対象にHb-LSAの臨床的有用性を検証することを目的とした.方法:対象は,要支援・要介護高齢者37人(平均年齢78.5±7.0歳)であった.Hb-LSAとともに,身体活動(life-space assessment(LSA)および離床時間),動作能力(bedside mobility scale(BMS)およびfunctional independence measure(FIM)),身体機能(握力,下肢筋力,片脚立位保持時間),認知機能(mental status questionnaire)を調査した.結果:Hb-LSAの成績は平均55.7±24.7点(最小値4点,最大値102.5点)であった.Hb-LSAの信頼性係数を算出した結果,級内相関係数ICC(1,1)=0.986,(1,2)=0.993と高い再現性を示した.Hb-LSAはLSA(r=0.897)および離床時間(r=0.497)と相関を有し基準関連妥当性および収束的妥当性が確認された.また,Hb-LSAは動作能力,身体機能の各指標と有意な相関を認めた.屋内移動自立群と屋内移動非自立群の2群に分けてHb-LSAを比較した結果,Hb-LSAは屋内移動自立群(75.8±18.8点)で,屋内移動非自立群(45.7±20.2点)に比べて有意に高い値を示した.結論:本研究において,屋内生活空間における身体活動の指標であるHb-LSAは,指標の信頼性および妥当性が確認された.また,屋内移動能力と関係する臨床的に有用な評価指標であることが示された.
著者
大沼 剛志 金高 秀和 岩本 俊彦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.241-249, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
27
被引用文献数
5 3

目的:高齢者総合的機能評価(CGA)は高齢者医療・介護に欠かせないものの,評価には多くの時間を必要とする.このため,CGA短縮版「Dr. SUPERMAN」の開発を試みたが,CGAの要素である認知機能の評価には時間的な制約で認知症スクリーニングテストであるMMSE(Mini-mental state examination)をそのまま用いることはできない.そこで,MMSEに先行する認知機能の評価課題を策定する目的で本研究を行った.方法:種々の疾患で外来通院中の高齢者90名(平均年齢82.5歳,男40名)を対象としてMMSE各ドメイン(1「時間の見当識」,2「場所の見当識」,3「即時記憶」,4「計算:注意力」,5「遅延再生」,6「言語機能」,7「視空間認知・構成機能」)およびエピソード記憶課題「昨日の夕食のおかずは何でしたか?」を尋ねた.MMSE総合得点から正常(24点以上),低下(23点以下)に分類し,これをゴールドスタンダードとして各ドメイン,エピソード記憶課題およびその組合せの感度,特異度,陽性反応適中率を求め,最も妥当と思われる課題の組合せを策定した.次いで,策定された組合せを高齢者50名に用いて評価時間,検者間信頼度を検討した.結果:MMSE総合得点は10~30点に分布し,正常は42名,低下は48名あった.各ドメインの感度,特異度,陽性反応適中率は,ドメイン1「時間の見当識」が68.8%,87.5%,78.6%,ドメイン2「場所の見当識」が85.4%,85.7%,87.2%,ドメイン4「計算」が89.6%,54.8%,65.2%,ドメイン5「遅延再生」が89.6%,26.2%,58.1%,エピソード記憶課題が66.7%,76.2%,76.2%であった.各課題の性質を考慮して組合せの簡便短縮化を図ると,エピソード記憶課題とドメイン1,4の課題「今年は何年」,「100から7の引き算を2回」の組合せでいずれかに異常があった場合の感度,特異度,陽性反応適中率は各々93.8%,71.4%,78.9%と高かった.また,「Dr. SUPERMAN」の中で計測された評価時間は32~55秒,評価者間一致係数κは0.861であった.結論:MMSEに先行する認知機能の評価課題には「昨日の夕食のおかずは何でしたか?」,「今年は何年」,「100から7の引き算を2回」の組合せが妥当であり,いずれかに誤・無答があればMMSEで評価すべきである.
著者
牧迫 飛雄馬 阿部 勉 大沼 剛 島田 裕之
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.382-388, 2009
参考文献数
12
被引用文献数
1

【目的】在宅訪問サービスの継続要因および訪問リハビリテーションが要介護高齢者に与える影響について検証することを目的とした。【方法】対象者は,訪問リハビリテーションを利用する要介護高齢者33名(訪問リハ群),および訪問看護または訪問介護を利用しており訪問リハビリテーションを利用していない要介護高齢者13名(非訪問リハ群)とし,3か月間のサービス継続前後で運動機能,生活機能,活動状況の変化を比較した。【結果】30%以上の対象者が3か月後には訪問サービスを中止または終了しており,訪問リハ群では脱落者のvitality indexが継続者よりも有意に低かった。訪問リハ群では運動習慣を有する者が多く,離床時間の増大に対して良好な結果を示した。運動機能や生活機能は,有意な変化を認めなかった。【結論】訪問リハビリテーションの継続には,意欲が関与することが示され,訪問リハビリテーションは運動習慣の確立や離床時間の増大へ良好な影響を与える可能性が示唆された。
著者
牧迫 飛雄馬 阿部 勉 大沼 剛 島田 裕之 古名 丈人 中村 好男
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.12-20, 2009-04-20 (Released:2020-10-20)
参考文献数
26
被引用文献数
3

本研究は,訪問によるリハビリテーションを利用する要介護者の家族を対象として,介護方法や介護に関する情報提供を行い,介護者の介護負担感の軽減や心理状態の向上が可能か検討することを目的とした.介入は,要介護者の介護度を層化して,対象者を無作為に対照群と介入群に分類し,介入群に対して個別介入を3か月間実施した.介入の実施は,訪問によるリハビリテーション時に行い,1回の介入は5分間程度とし,その他のサービスは両群とも継続した.介入後調査を完遂した家族介護者(対照群10人,介入群11人)を分析した結果,介入による介護負担感への効果は認められなかった.一方,介護者の主観的幸福感の指標としたPGCモラール・スケールの得点が,対照群では低下したのに対して,介入群では低下することなく維持されており,有意な交互作用を認めた.この結果は,家族介護者に対する情報提供が,介護者に対する主観的幸福感に良好な影響を与えることを示唆した.
著者
小暮 英輔 原 毅 大沼 剛 森山 隆 阿部 勉
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.435-437, 2020 (Released:2020-06-20)
参考文献数
9
被引用文献数
1

〔目的〕スパイロメーターから得られた換気機能と最長発声持続時間(Maximum Phonation Time:MPT),最長呼気持続時間との併存的妥当性を調査することを目的とした.〔対象と方法〕呼吸器関連に異常がない健常者23名を対象とした.調査項目は基本属性,スパイロメーターから得られた換気機能,MPT,最長呼気持続時間とした.MPTと最長呼気持続時間と各評価指標との関係性を調査した.〔結果〕MPTと最長呼気持続時間は有意に正の相関を認めた.MPTは肺活量,%肺活量と正の相関を認めたが,最長呼気持続時間はどの換気機能とも相関を認めなかった.〔結語〕MPTは,肺活量を簡易的に評価できる測定方法である可能性が示唆された.
著者
牧迫 飛雄馬 阿部 勉 島田 裕之 阿部 恵一郎 小林 聖美 小口 理恵 大沼 剛 木村 英生 中村 好男
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.81-88, 2008-06-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
25
被引用文献数
7

本研究では,重度要介護者を対象としたベッド上,ベッド周囲,居室内での動作および移動能力を定量的に評価する指標を開発し,その信頼性と妥当性を検証した。内容妥当性を満たした10項目からなるBedside Mobility Scale(BMS)を作成し,在宅にて理学療法士または作業療法士の訪問によるリハビリテーションを実施している163名(男性83名,女性80名,平均年齢76.4歳)を対象として,BMSによる動作・移動能力評価を行った。分析の結果,BMSには高い検者内および検者間信頼性が得られた。また,BMSは日常生活活動能力や日常生活自立度と有意な関連を持ち,特に重度要介護者および日常生活自立度の重度低下者の動作能力評価に適しており,臨床的意義が高いと考えられた。
著者
大沼 剛 戸津 喜典 阿部 勉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P1223, 2010

【目的】<BR>地域在住高齢者の過去一年間の転倒発生率は本邦では約20%といわれている。一方、パーキンソン病患者の転倒発生率は高く、外来通院パーキンソン病患者の過去一ヶ月間の転倒率が67.7%との報告がある。また、Woodらは転倒率が68.3%であったと報告している。さらに、一週間に13%転ぶといった報告もある。一日に複数回転倒をしているパーキンソン病患者も多く、認知機能障害を併せ持つ患者も多いため、転倒に関する記憶が不明確となっている可能性がある.そのため今回、転倒を高頻度に繰り返すパーキンソン病患者一症例に対し、療養日誌を用いて転倒の詳細について記録した。本研究の目的は、重度パーキンソン病患者の転倒実態について調査することである。<BR>【方法】<BR>対象は訪問リハビリテーションを行っているHoehn & Yahr分類IVの重度パーキンソン病患者一症例(女性、年齢64歳、罹患年数9年)である。ADL状況は、屋内はほぼ自立しており、屋内歩行は四点歩行器を使用し、布団にて寝ている。脊柱変形があり立位は前傾姿勢著明である。服薬状況は、ドーパミンアドニストを5種類朝食後、昼食後、15時、夕食後の4度に分けて服用している。<BR>転倒調査方法はカレンダー式の日誌を用いて転倒の有無について調査した。転倒場所は「居間」「台所」「その他」の3つに分類し調査した。また、自覚的体調を把握するため、「5:非常によい」「4:良い」「3:普通」「2:悪い」「1:非常に悪い」の5段階で自己評価し「朝」「昼」「夕方」「夜」の4回記録した。調査期間は平成21年4月1日から9月30日の6ヶ月間行った。また観察期間として、療養日誌導入前に1ヶ月間、週一回の訪問時に転倒についての聞き取り調査をした。訪問時の介入内容としては、歩行練習として、四点歩行器の操作方法の指導、筋力維持・向上練習、筋ストレッチ、療養指導を行った。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には本研究の主旨を十分に説明し、書面にて同意を得た。<BR>【結果】<BR> 観察期間の1ヶ月では聞き取り調査した当日及び前日に、一日2~3回転倒があったと答えた。調査期間の6ヶ月間の総転倒回数は117回であった。また一日の転倒率は47%で少なくとも二日に1度は転倒していた。一日に最も多く転倒した回数は9回であった。外傷を伴う転倒はあったが、骨折など病院受診を必要とする転倒はなかった。月別の転倒率は7月が58%と最も高く、8月が39%と最も低かった。転倒場所は、居間が35%、台所が54%、その他は11%で、その他の場所としてはベランダが多かった。自覚的体調の平均は「朝:3.1」「昼:2.9」「夕方:2.6」「夜:2.5」であり、朝が最も良く、夜が最も体調が悪かった。<BR>【考察】<BR> 今回、重度パーキンソン病患者一症例に対して療養日誌を用いて転倒に関する調査を実施した。転倒回数は117回であり、1日の転倒率は47%であった。Moritaらは、姿勢調節障害、突進現象、すくみ足、重度のパーキンソン病患者に特徴的なジスキネシアが転倒と関係していると述べている。またパーキンソン病患者の姿勢調節障害やすくみ足は薬物治療などの治療に反応しにくく、転倒の大きなリスクとなる。重度のパーキンソン病患者でベッドからの転倒・転落や移乗動作時の転落事故が多い要因として体幹機能の低下及び姿勢調節障害により、立位のみならず座位でも不安定であることが考えられる。今回対象とした患者は2DKのマンションに居住し、主に居間で生活している。最も転倒が多かったのは台所であり、台所はトイレや浴室、冷蔵庫から物を取る場合などに動線がほとんど台所を通過するため最も多かったと考えられる。洗濯等を自分で行っているためベランダでの転倒もみられた。骨折など病院受診を必要とする転倒がなかったのもパーキンソン病患者における転倒の特徴の一つと考えられる。パーキンソン病患者の場合、体幹機能の低下及び姿勢調整障害により崩れるように転ぶことが多く、今回の対象者も尻餅をついたと後方に転倒することが多かったと述べている。<BR> 転倒を多く引き起こすパーキンソン病患者に対して療養日誌などを用いて、自覚を促すことは必要である。転倒を高頻度に繰り返すと転倒に慣れてしまい、危険性を感じなくなる可能性がある。そのため一回一回の転倒に対して場所や状況を調査し転倒予防に努める必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> パーキンソン病患者は高頻度に転倒を引き起こすため転倒予防をはかる方略は重要である。その方略の一つとして今回の療養日誌の導入は一定の効果を出したと考えている。今後は、対象者数を増やし、パーキンソン病患者の転倒を引き起こす要因を導きだす必要がある。<BR>
著者
牧迫 飛雄馬 阿部 勉 阿部 恵一郎 小林 聖美 小口 理恵 大沼 剛 島田 裕之 中村 好男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.59-67, 2008 (Released:2008-03-10)
参考文献数
27
被引用文献数
4 7

目的:要介護者の在宅生活継続には,主介護者の身体的および精神的な負担にも配慮が必要である.本研究では,在宅要介護者の主介護者における介護負担感に関与する要因を検証した.方法:在宅で理学療法士または作業療法士の訪問によるリハビリテーションを実施していた要介護者78名(男性40名,女性38名,年齢77.8歳)とその主介護者78名(男性20名,女性58名,年齢66.8歳)の78組156名を分析対象とした.要介護者の基本情報,日常生活動作能力,居室内動作能力を評価した.また,主介護者からは基本情報,介護期間,介護協力者・介護相談者の有無,介護負担感(短縮版Zarit介護負担尺度:J-ZBI_8),視覚的アナログスケールによる日常生活動作における介助負担度,主観的幸福感,簡易体力評価を構造化質問紙で聴取した.J-ZBI_8から介護負担感の低負担群(10点未満:5.0±3.0点)41組と高負担群(10点以上:15.9±5.9点)37組の2群間で比較した.結果:低負担群の要介護者では,高負担群の要介護者に比べ,高い基本動作能力,日常生活動作能力を有していた.また,低負担群の主介護者では,高負担群に比べて,介護を手伝ってくれる人(低負担群65.9%,高負担群40.5%),介護相談ができる人(低負担群95.1%,高負担群75.7%)を有する割合が有意に多く,主観的幸福感(低負担群9.6±3.5,高負担群6.3±3.7)も有意に高かった.また,高負担群では,すべてのADL項目における介助負担も大きかった.結論:要介護者の日常生活動作能力や基本動作能力は介護負担感に影響を与える一因であることが示唆された.また,介護協力者や介護相談者の有無も介護負担感と関係し,介護負担感が高い主介護者では主観的幸福感が低いことが示された.