著者
白石 和也 平林 弦大 高島 恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100293, 2013

【はじめに、目的】 日本理学療法士協会倫理規定基本精神第5項に「理学療法士は後進の育成に努力しなければならない」とある。これは、臨床現場における後進の育成に加えて学生に対する実習指導においても同様であると言える。しかしながら、多忙な臨床業務の中、実習指導に関する十分な教育や自己の指導に関して内省する機会は少なく、日々悩みながら実習指導にあたっている理学療法士が多いのではないだろうか。そこで本研究では、実習指導者の指導に対する評価として指導者による自己評価ならびに学生による評価をアンケート調査にて実施し、指導者と学生間における評価の相違を把握すること、また質の高い実習指導の一つの指標として学生満足度と他項目との関連を検討することで、実習指導者に特に必要となる教育スキルを明らかにすることを目的とした。【方法】 本校理学療法学科2年生(36名)ならびにその実習指導者(36名)を対象とし、6週間の臨床実習終了後にアンケート調査を実施した。アンケート内容は小林らが実施している実習指導者の指導に対する評価を参考(一部改変)に実施し、項目は1)実習要綱2)教育目標3)スケジュール4)指導体制5)態度・資質面6)知識・思考面7)技術面8)熱意9)理解10)雰囲気11)臨床実践12)専門性と論理性13)模範的14)知的好奇心15)チェック16)難易度17)満足度の17項目とした。それぞれの項目を5段階尺度にて、5を「優れている」、4を「よい」、3を「普通」、2を「やや劣る」、1を「よくない」とし点数化した。アンケート調査結果から各調査項目における指導者による自己評価と学生による評価の2群比較を実施した。また、学生による評価において学生満足度と他項目との相関を求め、相関があった項目に関して、学生満足度の高い群(4・5:21名)と低い群(3・2・1:15名)に分け、2群比較を実施した。統計処理はSPSSver16.0にて、Mann-WhitneyのU検定ならびにSpearmanの順位相関係数を用い有意水準はp<0.05未満とした。 【倫理的配慮、説明と同意】 学内承認のもと、対象者には本研究の目的、方法、プライバシー保護等について説明を行い、本研究への参加については本人の自由意思による同意を書面にて得た。 【結果】 アンケート回収率は学生100%、実習指導者75%であった。指導者による自己評価と学生による評価の各調査項目の比較に関しては、指導体制、知識・思考面、技術面、臨床実践、専門性と論理性、模範的、知的好奇心、満足度の項目において学生による評価が有意に高かった。学生による評価における学生満足度と他項目の相関に関しては、指導体制、態度・資質面、知識・思考面、技術面、熱意、臨床実践、模範的、知的好奇心、チェック、難易度の項目と有意な正の相関があり(r=0.415~0.735)、なかでも技術面の項目に関してはかなり強い相関があった。相関のあった項目における学生満足度の高い群と低い群の2群比較に関しては、全ての項目において学生満足度の高い群の評価が有意に高かった。【考察】 指導者による自己評価と学生による評価の各調査項目の比較においては、指導者と学生という立場や自己評価と他者評価の違いから、学生による評価が全般的に高くなったと考えられる。 学生満足度と他項目との相関ならびに学生満足度の高い群と低い群における各項目の評価の比較においては、質の高い実習指導の一つの指標として学生満足度を向上させる指導には、有意差のあった10項目の教育スキルが必要であり、なかでも技術面の教育スキルが特に必要であること、加えて指導者によって教育スキルに差があることが示唆された。技術面の教育スキルが学生満足度とかなり強い相関があったのは、学内教育では十分に学ぶことのできない、個々の対象者に応じて展開される臨床での理学療法技術の指導が満足度に繋がったと考えられる。これらの結果を学校から指導者にフィードバックすることや指導者が評価表を活用し継続して自己評価を実施することで、自己の指導に関して内省することができ、より教育スキルを向上させることができると考えられる。また、個々の指導者による教育スキルの差を埋めるために、実習施設と学校が協力して指導者育成の体制を構築していくことが必要であり、加えて実習要綱、学生評価表等の見直しや効果的な実習指導者会議、実習地訪問実施の為の検討が必要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 実習指導における質の高い教育を検討することは、今後理学療法士として臨床にでる学生の質を高めることに繋がり、結果的に理学療法の対象者に還元できるものと考えられる。また、実習指導者としての教育スキルを高めることは、各施設における効果的な後進の育成にも繋がると考えられるとともに、教育スキルの向上が臨床力の向上に繋がることも期待できる。

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