著者
白石 和也 松岡 俊文
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.261-274, 2006 (Released:2008-08-07)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

本稿では,特性曲線法による音響波動伝播シミュレーションについて論じる。特性曲線法では,物質の移動や流れを表現する一階の偏微分方程式である移流方程式(伝達方程式)を基に物理量の移流または伝播を計算する。移流方程式の計算において CIP(Cubic Interpolated Profile)法と呼ばれる手法が知られている。この手法は,物理量とその空間微分値が共通の特性曲線に沿って伝播するという点に着目し,物理量とその空間微分値を制約条件として格子点間の物理量を 3 次多項式により近似することで,数値分散の少ない高精度で安定した数値計算を実現する差分スキームである。本研究では,まず,移流方程式の解法における CIP 法の原理と特徴について,他の差分スキームとの比較を行う。次に,本手法を波動現象へ適用するにあたり,音響体における運動方程式と連続の式から音響波動伝播を記述する特性方程式を導出する。さらに,CIP 法による数値解法と他の有限差分法による音響波動シミュレーションの比較を行う。安定解析および位相誤差解析と数値シミュレーションの結果から,特性曲線法において CIP 法を利用することで,急峻なエッジを持つ波や,高周波数の波を含む場合について他の差分スキームに比べて精度よい計算ができ,格子数を減らした場合にも安定した解が得られることが解った。これらの特長から,スタッガード格子のような特別な格子を用いなくとも,圧力と粒子速度を同一格子点に配置する単純な直交格子を用いて,数値分散の少ない波動シミュレーションを行うことができた。
著者
白石 和也 藤江 剛 小平 秀一 田中 聡 川真田 桂 内山 敬介
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.75, pp.105-118, 2022 (Released:2022-12-28)
参考文献数
30

沿岸域の海底火山の活動性を評価するために,海底火山下の構造や物性を効果的に調査する地震探査法の確立を目的に,数値シミュレーションによる合成地震探査データを用いたフィージビリティスタディを行った。本研究では,海域と陸域を横断する測線長30 kmの調査を想定し,沿岸域にある海底火山の過去の活動痕跡あるいは現在の活動可能性を示唆する仮想的な構造を持つ深度10 kmまでの地質モデルを対象とした。このモデルでは,地殻内にマグマ溜りを模した3つの低速度体を異なる深度に設定し,その他には側方に連続的な明瞭な反射面が存在せず,一般的な反射法速度解析で地殻内の速度分布を決定するのは難しい構造とした。まず,作成した地質モデルに対して走時および弾性波伝播の数値モデリングを行い,地震探査で得られる初動走時と波形記録を合成した。そして,これらの合成地震探査データを用いて,初動走時トモグラフィと波形インバージョンによる段階的な解析により,低速度体を含む速度構造を推定した。その後,推定された速度モデルを用いてリバースタイムマイグレーションを適用し,反射波による構造イメージングを行った。また,発振点と受振点のレイアウトおよび低速度体の形状の違いについて比較実験を行った。数値データを用いた解析の結果,段階的なインバージョン解析により深度約6 kmまでの2つの低速度体を示唆する変化を含む全体的な速度構造を適切に捉え,深度領域の反射波イメージングによって3つの低速度体の形状を良好に描像することができた。速度構造の推定には探査深度と分解能について今後に改善の余地があるものの,一般的な反射法速度解析が難しい地質構造の場合には,波形インバージョンによる速度推定とリバースタイムマイグレーションによる反射波イメージングを組み合わせることで,地下構造を可視化するアプローチが効果的であることを示した。併せて,効果的な調査を計画するために,想定される地質モデルにおける最適な観測レイアウトや解析手法の適用性などについて,数値シミュレーションを用いたフィージビリティスタディにより事前検討する事の重要性も示された。
著者
白石 和也 平林 弦大 高島 恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100293, 2013

【はじめに、目的】 日本理学療法士協会倫理規定基本精神第5項に「理学療法士は後進の育成に努力しなければならない」とある。これは、臨床現場における後進の育成に加えて学生に対する実習指導においても同様であると言える。しかしながら、多忙な臨床業務の中、実習指導に関する十分な教育や自己の指導に関して内省する機会は少なく、日々悩みながら実習指導にあたっている理学療法士が多いのではないだろうか。そこで本研究では、実習指導者の指導に対する評価として指導者による自己評価ならびに学生による評価をアンケート調査にて実施し、指導者と学生間における評価の相違を把握すること、また質の高い実習指導の一つの指標として学生満足度と他項目との関連を検討することで、実習指導者に特に必要となる教育スキルを明らかにすることを目的とした。【方法】 本校理学療法学科2年生(36名)ならびにその実習指導者(36名)を対象とし、6週間の臨床実習終了後にアンケート調査を実施した。アンケート内容は小林らが実施している実習指導者の指導に対する評価を参考(一部改変)に実施し、項目は1)実習要綱2)教育目標3)スケジュール4)指導体制5)態度・資質面6)知識・思考面7)技術面8)熱意9)理解10)雰囲気11)臨床実践12)専門性と論理性13)模範的14)知的好奇心15)チェック16)難易度17)満足度の17項目とした。それぞれの項目を5段階尺度にて、5を「優れている」、4を「よい」、3を「普通」、2を「やや劣る」、1を「よくない」とし点数化した。アンケート調査結果から各調査項目における指導者による自己評価と学生による評価の2群比較を実施した。また、学生による評価において学生満足度と他項目との相関を求め、相関があった項目に関して、学生満足度の高い群(4・5:21名)と低い群(3・2・1:15名)に分け、2群比較を実施した。統計処理はSPSSver16.0にて、Mann-WhitneyのU検定ならびにSpearmanの順位相関係数を用い有意水準はp<0.05未満とした。 【倫理的配慮、説明と同意】 学内承認のもと、対象者には本研究の目的、方法、プライバシー保護等について説明を行い、本研究への参加については本人の自由意思による同意を書面にて得た。 【結果】 アンケート回収率は学生100%、実習指導者75%であった。指導者による自己評価と学生による評価の各調査項目の比較に関しては、指導体制、知識・思考面、技術面、臨床実践、専門性と論理性、模範的、知的好奇心、満足度の項目において学生による評価が有意に高かった。学生による評価における学生満足度と他項目の相関に関しては、指導体制、態度・資質面、知識・思考面、技術面、熱意、臨床実践、模範的、知的好奇心、チェック、難易度の項目と有意な正の相関があり(r=0.415~0.735)、なかでも技術面の項目に関してはかなり強い相関があった。相関のあった項目における学生満足度の高い群と低い群の2群比較に関しては、全ての項目において学生満足度の高い群の評価が有意に高かった。【考察】 指導者による自己評価と学生による評価の各調査項目の比較においては、指導者と学生という立場や自己評価と他者評価の違いから、学生による評価が全般的に高くなったと考えられる。 学生満足度と他項目との相関ならびに学生満足度の高い群と低い群における各項目の評価の比較においては、質の高い実習指導の一つの指標として学生満足度を向上させる指導には、有意差のあった10項目の教育スキルが必要であり、なかでも技術面の教育スキルが特に必要であること、加えて指導者によって教育スキルに差があることが示唆された。技術面の教育スキルが学生満足度とかなり強い相関があったのは、学内教育では十分に学ぶことのできない、個々の対象者に応じて展開される臨床での理学療法技術の指導が満足度に繋がったと考えられる。これらの結果を学校から指導者にフィードバックすることや指導者が評価表を活用し継続して自己評価を実施することで、自己の指導に関して内省することができ、より教育スキルを向上させることができると考えられる。また、個々の指導者による教育スキルの差を埋めるために、実習施設と学校が協力して指導者育成の体制を構築していくことが必要であり、加えて実習要綱、学生評価表等の見直しや効果的な実習指導者会議、実習地訪問実施の為の検討が必要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 実習指導における質の高い教育を検討することは、今後理学療法士として臨床にでる学生の質を高めることに繋がり、結果的に理学療法の対象者に還元できるものと考えられる。また、実習指導者としての教育スキルを高めることは、各施設における効果的な後進の育成にも繋がると考えられるとともに、教育スキルの向上が臨床力の向上に繋がることも期待できる。
著者
湊 翔平 辻 健 野口 尚史 白石 和也 松岡 俊文 深尾 良夫 ムーア グレゴリー
出版者
物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.509-520, 2009-10

地震波海洋学において,海水中の微細な温度構造を推定するために,高速波形計算法と焼きなまし法を組み合わせたフルウェーブフォームインバージョン手法を開発した。焼きなまし法を利用することで,初期モデル依存の少ないインバージョンが可能となった。このインバージョン手法を,紀伊半島沖黒潮流軸周辺で取得された反射法地震探査データに適用した。この反射法地震探査データは,南海トラフの内部構造の解明を目的とした3次元探査の一部であり,黒潮の流軸を横切るように取得されている。インバージョンで得られた海水中の2次元音波速度構造から,海水中に高速度層と低速度層が互層状に分布し,これらの互層構造が海岸から黒潮の流軸に向かって傾いていることが判明した。経験式を用いて音波速度を温度に変換することで,最終的に海水中の2次元温度構造を得た。しかし結果の一部では,これまで知られている観測結果よりも層厚が薄く,層間の速度変化が大きい構造が卓越した。この原因を調べるために,インバージョンに対するノイズの影響を検証した。有限差分法で計算した擬似観測記録にホワイトノイズを加えてインバージョンを実施した結果,S/N比が小さい場合,速度変化が現れる深度はほぼ正しいものの,その速度コントラストは真のモデルより大きくなる傾向が認められた。シミュレーション結果の検討から,今回の紀伊半島沖のデータをインバージョンして得られた音波速度構造が,ホワイトノイズの影響によって実際の構造よりも音波速度コントラストが大きく解析されている可能性が示唆される。
著者
平林 弦大 真塩 紀人 白石 和也 田口 祐介 神山 真美
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ga0191-Ga0191, 2012

【はじめに、目的】 社会構造の変化に伴い,リハビリテーションの果たす役割は大きくなり,疾病対策・健康増進・介護予防など多分野での活動が求められている.それらに伴いセラピスト養成校も比例的に増加し,現状は需給バランスを欠く状況へと変化しつつある.今後の就業状況は多様化し求人が減少傾向に向くことが予測され,養成施設においても就職活動の方略を見直す必要性がある.そこで今回は,セラピストを目指す学生が現状の就職状況をどのように考え,就職先には何を望んでいるか,就職選定要因を把握するため調査を行ったので報告する.【方法】 3年制専門学校にて,臨床実習を含めたすべての学事が終了した理学療法学科3年生35名,作業療法学科3年生21名,合計56名を対象とした.学生へは今後の就職の見通しと、就職先へ望むものについて質問紙法によるアンケート調査を行った。就職の見通しについては「今後セラピストの就職は厳しくなるか」という問に対し,「かなり厳しくなる」から「かなりしやすくなる」の4段階で回答を求めた。就職先に求めるものについては,就業志向尺度(若林ら,25項目)を用い実施した。この尺度は,仕事に求めるものや結果,期待に関する項目に対し,「普通以下でよい」から「非常に沢山あってほしい」まで5段階で回答するものである.統計処理にはSPSS(Ver.16)を使用し,見通しについてはχ<sup>2</sup>検定,就業志向尺度については因子分析を用い学生が就職先に望む要因について検討を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 対象となる学生へは学内承認のもと,今回の研究について目的・方法・倫理的配慮など口頭および文書にて十分説明を行い,同意を得た上で実施した.【結果】 アンケートの回収率は100%(56名),有効回答率100%であった.1)今後の就職の見通しについて「今後セラピストの就職は厳しくなるか」という問に対し,「かなり厳しくなる」.「どちらかといえば難しくなる」と回答した学生が51名であり,有意に多い結果となった.(p<0.01)2)職業志向尺度因子分析には,一般化した最小2乗法を用いて,因子の回転にはバリマックス回転を用い,因子数は第6因子まで有効であった.なお、抽出された中には単独の変数かつ他の項目との関連性が低い因子があり,24項目の変数から再解析を行った。抽出された因子の命名は過去の研究を参考に行った.第1因子は,「自分の能力が試される,専門性,独創性・創造性」などの因子負荷量が高く,「職務挑戦」と命名した.第2因子は「職場の雰囲気,環境の快適さ」などの因子負荷量が高く,「職場環境」と命名した.第3因子は「福利厚生・昇進の可能性」などから構成され,「労働条件」と命名した。第4因子は単独となり,「高い給与やボーナス」が抽出された.第5因子には「社会の役に立つ,安定した会社」から構成され,「社会貢献」と命名した.第6因子は「仕事の自由度」が抽出され,「自由度」と命名した.なお,上位3因子の累積寄与率は52.8%であった。【考察】 今回の研究から,卒業を控えた学生は就職に対し今後厳しくなると考えており、就職先には因子負荷量から「職務挑戦」「職場環境」「労働条件」を特に重視している結果となった.大多数の学生が今後の就職が厳しくなると感じていることについては,実習や就職活動から現状の需給バランスを欠く状況を認知していることが理由であると考えられた.先行研究と比較し学生が就職先に望むものは,抽出された因子に変化は無いものの,「労働条件」などの外発的報酬よりも「職務挑戦」という内発的報酬に重きを置いている結果となった.このことは,学生は就職に関する現況を正しく理解し,セラピストという職業に対して自己実現や社会貢献という「やりがい」を中心とした職業観を持つためであろう.諸氏らの先行研究では,就職先を決めるにあたり給与や通勤などの労働条件や職場環境に重きが置かれていると報告されている.しかし,今回の研究結果から学生は内発的な要因であるキャリア形成に重きを置いており,近年は現状を反映し選定要因が変化していると考えられた.これら学生が求めているものについては,求人票や施設見学,ホームページから把握することが困難であり,リアリティショックや早期離職が危惧される.養成施設としては他業種同様,より早期からの働きかけを行い,キャリア形成のための専門的人材配置など就職方略を修正することが必要である.【理学療法学研究としての意義】 理学療法士の質の低下が論議される中、現状は需給バランスを欠く状況へと変化し求人が減少傾向に向いている.本研究は近年の学生の職場に対するニーズから,新たな就職指導を検討するために意義のあることと考えられる.