- 著者
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福本 拓
- 出版者
- 人文地理学会
- 雑誌
- 人文地理学会大会 研究発表要旨
- 巻号頁・発行日
- vol.2003, pp.11, 2003
昨今の世界的な移民の急増は,諸外国の,特に非合法な手段による入国者(=「密入国者」)・滞在者に対して,右翼勢力の台頭といった人種主義や移民排斥等の社会問題を顕在化させた。日本でも,いわゆる「ニューカマー」の増加に伴い,同種の事態が見られるようになってきた。しかし日本の場合,「密入国者」を巡る問題は,近年の来日者のみならず,戦前の植民地期から戦後に至る動向の影響を多大に受けている。それゆえ,戦前・戦後を通じた「密入国者」に対する政策・認識の変遷を,政治・経済・社会情勢を踏まえて歴史的な観点から分析する視点は不可欠といえる。 戦前の「密入国者」は,朝鮮の所轄警察署が発行する「渡航証明書」なしの入国者を指す。彼らを管理したのは内務省で,その「密入国者」に対する認識は,国内の失業問題といった経済的問題の悪化を憂慮するものと,治安維持上の問題を懸念するものとに大別される。これに対し,占領期には正規帰還を除く全ての渡航者が「密入国者」とみなされた。この時期の国内の朝鮮人は法的地位が定まっておらず,「密入国者」に関しても,その対応にはかなりの紆余曲折があった。ただし戦前と異なり,「密入国者」を経済的問題と関連させる認識は見られなかった。 この占領期の混乱状況における政策決定過程を明瞭化することが,「密入国者」への認識や政策の変遷を辿る上で重要である。その際,地方における「密入国者」をめぐる議論に着目したい。というのも,彼らを含む在日朝鮮人関連の諸問題への関心は地域的に偏ったものであったからである。そこで,地方の動向と日本政府・占領政府の「密入国者」管理政策の関連に特に焦点を当てて,その背景にあった政治・社会情勢を踏まえながら「密入国者」に対する政策・認識の変化を考察する。