- 著者
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北川 眞也
- 出版者
- 人文地理学会
- 雑誌
- 人文地理学会大会 研究発表要旨
- 巻号頁・発行日
- vol.2003, pp.39-39, 2003
1990年代前半のイタリアは激動のときであった。冷戦期の「第一共和制」と呼ばれる政体が崩壊し、既成政党の消滅や経済危機などに直面した。イタリアはグローバル化する世界において、その位置付けを見失った状況にあったのである。それゆえ「イタリア」をめぐって、さまざまな言説が生み出された。政治のレベルでは、新政党が「第二共和制」を構築していくこととなったが、その中でもっとも「イタリア」を問題化したのは、北部に自治を求める北部同盟という政党であった。北部同盟は、既存の政治システムを批判し、国家の連邦制改革を訴えることで、1990年代前半に躍進した。だが1996年には北部をイタリア内のリージョナルな場所から、それとは異なる「パダニア」というナショナルな場所として表象し、分離を目指した。しかも1996年の総選挙で過去最高の躍進をみせ、中央に対する不満を募らせるイタリア経済の中心である北東部から多くの支持を得た。一方で、1996年はイタリアのEUの通貨統合へ向けての国家改革の端緒とも言える。通貨統合への参加が危ぶまれていたイタリアにとっては、かなりの困難が予想されていた。国内からの北部同盟の分離への訴えと、国外からのヨーロッパ統合の圧力は、いずれもしばしば近代性の欠如として特徴付けられるイタリアを「普通の国」へと適合させていくための挑戦と考えられる。発表では、北部同盟による地理的スケールの政治が、イタリアの政治に及ぼす効果に注目する。なぜならこの表象によって、ユーロをめぐる重要な時期にイタリア北部の意味が問題化されるからである。他の政治勢力が、この北部同盟の「パダニア」・ナショナリズムからどのようなことを読み取ったのか。そしてそれが「イタリア」の言説にどのように節合されたのかということを明らかにする。またここから、グローバル化の中で活躍する「イタリア」へ向けての道のりの困難さが伺えるだろう。