著者
乃田 啓吾 岡根谷 実里 沖 大幹
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.25, 2012

水資源は人間生活にとって必要不可欠なものであるが、将来的な人口増加、生活水準の向上によって、その需要が逼迫すると言われている。特に淡水利用の約70%を占める農業用水の不足は、世界的な食糧問題を引き起こすものと懸念されている。元来、水が時間的・空間的に偏在する資源であることに加え、農業生産システムは気候、作物等によって地域・国ごとに大きく異なる。そこで本研究では、水不足が引き起こす食糧問題に注目し、その影響を受けやすい地域を特定することを目的とする。具体的には、食糧生産のために使用された水の総量を農業投入水量定義し、これと農業生産量に正の相関が認められる国を、食糧生産が水不足の影響を受けやすい国として判別する。人口1,000万人以上かつデータを入手できた155カ国を解析の対象とした。国ごとに各年の農業投入水量と主食作物の農業生産量の相関係数Rを求め、R>0.33の場合に水不足によって食糧生産が減少する国と判定した。ここで、主食作物とは小麦、トウモロコシ、米の三種の穀物のうち、最も生産量の多いものとした。 米を主食作物とする国は、他の二作物を主食作物とする国比べて、水不足により食糧生産が減少する国が少なかった。米は他の二作物と異なり、主に水田で栽培される。水田は貯水機能により、降雨を有効に利用できるため、水不足による農業生産量の減少が生じにくいものと考えられる。日本のように十分な灌漑設備を有する国や東南アジアのように降水量が多い地域では、降水量の多い年には日照が不足し農業生産量が減少することから、農業投入水量と農業生産量の間には負の相関がみられた。また、インドは米を主食作物としながらも水不足の影響を受けやすい国として判定された。インドは将来の人口増加による水需要の逼迫が特に懸念されている国であり、食糧生産が大きな影響を受ける可能性が高いことが確認された。 一方、小麦を主食作物とする国では、先進国・発展途上国問わず多くの国で水不足による農業生産量の減少が生じると判定された。1960年代の緑の革命以降、小麦の単収は、窒素肥料の投入により飛躍的に向上したが、広範囲で渇水が生じた場合、大幅に総生産量が減少する可能性が示唆された。

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