著者
梯 滋郎 中村 晋一郎 沖 大幹 沖 一雄
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学) (ISSN:2185467X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.I_1489-I_1494, 2014 (Released:2015-05-18)
参考文献数
10
被引用文献数
4

In Japan, safety degree against flood is said to have increased by river improvement. However, frequently flooded areas still exist. This means that frequently flooded areas has some characteristics which prevent river improvement. Therefore it is important to clarify the distribution and characteristics of frequently flooded areas for thinking about future river improvement plans.In this research, we clarified the distribution of frequently flooded areas in Japan, using flooded area maps. As a result, it is clarified that most frequently flooded areas exist in narrow valley plains, and the reason why such areas are still flooded is difficulty of embankment.
著者
木口 雅司 沖 大幹
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.231-247, 2010-05-05 (Released:2010-05-25)
参考文献数
77
被引用文献数
9 8

極端な大雨の頻度の増減を議論する上でこれまで観測された雨量極値記録を正しく評価する必要がある.本論文では,世界および日本における雨量極値記録の出典や観測データを遡りその信頼度や不確実性を含め再評価した.世界の雨量極値記録に関しては,WMOやNOAA/NWSによって纏められているが出典が不明確なものが多く含まれていた.また論文内の値が現地気象局のデータと異なる事例や引用論文の記載内容に基づく解釈に問題がある事例も見られ,可能な限り修正・注釈を行った.日本の雨量極値記録に関しては,様々な書籍内で気象庁以外の行政組織や民間会社の観測を含む極値記録が記述されているが,誤記載や不確実性のあるデータが含まれておりその検証・修正・注釈を行った.さらに更新した極値リストを用いて,多くの場合短い(長い)時間スケールの極値は小さい(大きい)空間スケールの気象現象によることが確認されたが,一方で単に起因現象の空間スケールではなく時空間スケールを考慮した豪雨システムに着目すべきであることが示された.現在WMO/CClによって降水量を含めた極値に関する精査が進められているが,本論文で示した信頼度や不確実性を示すことで降水極値に関する精査がより推進されることが期待される.
著者
沖 大幹
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-8, 2023-02-05 (Released:2023-03-31)
参考文献数
24
著者
横畠 徳太 高橋 潔 江守 正多 仁科 一哉 田中 克政 井芹 慶彦 本田 靖 木口 雅司 鼎 信次郎 岡本 章子 岩崎 茜 前田 和 沖 大幹
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.214-230, 2021-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
45
被引用文献数
1

パリ協定における目標を達成するために脱炭素社会を実現し,今後も変化する気候に社会が適応するためには,多くの人々が気候変動のリスクに関して理解を深めることが重要な課題である。このため我々の研究グループは,これまでに気候変動リスク連鎖を包括的に分かりやすく可視化する手法の開発を行った。本論文では,我々が開発した手法によって得られた,水資源・食料・エネルギー・産業とインフラ・自然生態系・災害と安全保障・健康の7つの分野に関連するリスク連鎖の可視化結果(ネットワーク図・フローチャート)について議論することにより,気候リスク連鎖の全体像を明らかにする。また,可視化結果を利用して行った市民対話イベントの実例を紹介することにより,我々の開発したネットワーク図・フローチャートの有用性や,気候リスクに関する市民対話の重要性について論じる。さらに,日本における気候変動リスク評価の概要について紹介し,気候変動リスク連鎖を評価するための今後の課題について議論する。
著者
木口 雅司 井芹 慶彦 鼎 信次郎 沖 大幹
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.I_241-I_246, 2016 (Released:2017-02-20)
参考文献数
8

本研究では、地球温暖化に伴う気候変動が進行して、ある臨界点(ティッピングポイント)を過ぎた時点で不連続のような急激な変化が生じて、大きなインパクトをもたらすような気候変動の要素(ティッピングエレメント)の発現可能性について解析した。先行研究で述べられたティッピングポイントを用いて、4つの排出シナリオや緩和目標としての戦略シナリオと、ティッピングエレメントのうち北極海の夏の海氷の喪失とグリーンランド氷床の融解について関連性を導いた。その結果、ティッピングポイントの不確実性があるものの、各排出シナリオでのティッピングエレメントの発現可能性が示された。一方戦略シナリオでは、複数気候シナリオを用いて検討した結果、気候シナリオとティッピングエレメントの両方の不確実性を組み合わせて議論する可能性が示された。
著者
沖 大幹 芳村 圭 キム ヒョンジュン ゴドク タン 瀬戸 心太 鼎 信次郎 沈 彦俊
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.20, pp.61-61, 2007

地下水、土壌水分、積雪水量などの陸水貯留量の変化は陸域水収支の特に季節変化を考える際には非常に重要である。最新のデータに基づき3種類の独立の手法で推定された大河川の総陸水貯留量の季節変化を相互比較し、それらの間の対応を検討した結果を報告する。
著者
越田 智喜 沖 大幹
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.233-244, 2014-09-05 (Released:2014-12-11)
参考文献数
38
被引用文献数
1 1

本研究では,従来よりも多くの要素が観測できるXバンドMPレーダ(XMP)を用いて,降水量の定量観測に重要な「融解層」を調査した.XMPでは5分ごとに12仰角で上空の3次元観測を完了する仰角運用を行っている.東京大学生産技術研究所から18 km離れた新横浜レーダを使い,高度6 kmに対応する最大仰角20°のデータを用いた.解析対象期間は2010年8月から2011年10月の約1年間のうち,東京大学生産技術研究所において日雨量が10 mmを超えた日とした.レーダの地上に相当する高度でレーダ反射強度因子が25dBZを超えた時間について「融解層」の有無を調べたところ,偏波情報である偏波間相関係数ρHVから算出した「融解層」PMLは反射強度因子ZH から算出した「融解層」RMLに比べ低高度に出現しており,PMLの層厚はRMLより小さかった.PMLとRMLの高度差・層厚差は,レーダが観測する降水粒子の粒径分布に関連していると考え,ZR法の雨量変換係数をRMLとPMLの高度差により変化させてレーダ雨量を算出することを試みたところ,単一の雨量変換係数を用いる場合に比べて雨量推定精度が向上する可能性が示唆された.
著者
乃田 啓吾 岡根谷 実里 沖 大幹
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集 水文・水資源学会2012年度研究発表会
巻号頁・発行日
pp.104, 2012 (Released:2012-12-01)

水資源は人間生活にとって必要不可欠なものであるが、将来的な人口増加、生活水準の向上によって、その需要が逼迫すると言われている。特に淡水利用の約70%を占める農業用水の不足は、世界的な食糧問題を引き起こすものと懸念されている。元来、水が時間的・空間的に偏在する資源であることに加え、農業生産システムは気候、作物等によって地域・国ごとに大きく異なる。そこで本研究では、水不足が引き起こす食糧問題に注目し、その影響を受けやすい地域を特定することを目的とする。具体的には、食糧生産のために使用された水の総量を農業投入水量定義し、これと農業生産量に正の相関が認められる国を、食糧生産が水不足の影響を受けやすい国として判別する。人口1,000万人以上かつデータを入手できた155カ国を解析の対象とした。国ごとに各年の農業投入水量と主食作物の農業生産量の相関係数Rを求め、R>0.33の場合に水不足によって食糧生産が減少する国と判定した。ここで、主食作物とは小麦、トウモロコシ、米の三種の穀物のうち、最も生産量の多いものとした。 米を主食作物とする国は、他の二作物を主食作物とする国比べて、水不足により食糧生産が減少する国が少なかった。米は他の二作物と異なり、主に水田で栽培される。水田は貯水機能により、降雨を有効に利用できるため、水不足による農業生産量の減少が生じにくいものと考えられる。日本のように十分な灌漑設備を有する国や東南アジアのように降水量が多い地域では、降水量の多い年には日照が不足し農業生産量が減少することから、農業投入水量と農業生産量の間には負の相関がみられた。また、インドは米を主食作物としながらも水不足の影響を受けやすい国として判定された。インドは将来の人口増加による水需要の逼迫が特に懸念されている国であり、食糧生産が大きな影響を受ける可能性が高いことが確認された。 一方、小麦を主食作物とする国では、先進国・発展途上国問わず多くの国で水不足による農業生産量の減少が生じると判定された。1960年代の緑の革命以降、小麦の単収は、窒素肥料の投入により飛躍的に向上したが、広範囲で渇水が生じた場合、大幅に総生産量が減少する可能性が示唆された。
著者
内海 信幸 瀬戸 心太 鼎 信次郎 沖 大幹
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学) (ISSN:2185467X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.I_421-I_426, 2012 (Released:2013-03-26)
参考文献数
11

A new method to assess the causes of the changes in the extreme precipitation under changed climate was proposed. Previous methods have not explicitly considered the contribution of changes in the near surface atmospheric humidity to the changes in the extreme precipitation under changed climate, although the changes in the extreme precipitation can be affected by the changes in near surface atmospheric humidity through the changes in lifting condensation level. The new method can consider changes in near surface atmospheric humidity as well as the changes in atmospheric circulation and lapse rate of the ascending air parcel. The new method was applied to atmosphere-ocean coupled model output, provided for the Coupled Model Intercomparison Project Phase 5. It was confirmed that the new method can assess the regional difference of the contribution of the changes in near surface atmospheric humidity to the changes in the extreme precipitation with climate change.
著者
渡邉 悟 沖 大幹 太田 猛彦
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.119-132, 2009

地球表面にある水の97.5%は塩水で、2.5%が淡水である。しかしこの大半が地下水や北極や南極に氷河・氷床として存在し、私たちが身近に使える川や湖の水は全体のわずか0.01%である。UNESCOが発表した「World Water Resources at the Beginning of the 21st Century、2003」によると、1995年(平成7年)における世界の水使用量は約3,750km3/年となっている。また、水使用量の伸びをみると、1995年(平成7年)の水使用量は1950年(昭和25年)の約2.74倍となっており、同期間における人口の伸び約2.25倍より高くなっている。特に生活用水の使用量の伸びは約6.76倍と急増していると報告されている。このような中で、様々な水に関する問題を解決するため、2009年3月には、第5回世界水フォーラムがトルコにおいて開催されたところである。我が国は世界有数の木材輸入国であることから、このような水に関する問題の一環として、木材輸入との関連について理解を深めるため、先に報告されている農産物に関する仮想水(バーチャルウォーター)(以下「バーチャルウォーター」という。)の研究事例を参考として、木材輸入に伴うバーチャルウォーターを算定したので報告する。
著者
遠藤 崇浩 森 吉尚 沖 大幹
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.144-155, 2020
被引用文献数
2

<p> 飲用水及び生活用水の確保は地震災害時の最重要課題の一つである.現在,日本各地で水道施設の耐震化が進められているが,それを補完する手段の一つに災害用井戸の整備がある.災害用井戸に関する既存研究は個別事例の紹介に留まっており,広域的な普及度の調査が不十分だった.そこで本稿では全国20の政令指定都市における災害用井戸の現況を調査したうえで,2016年の熊本地震での経験から仮説的に導出した基準を用いてそれぞれの都市の災害用井戸制度の充実度評価を行った.その結果,災害用井戸が導入されているのは12の政令指定都市に留まっていること,導入済みの政令指定都市のうち千葉市,横浜市,川崎市,相模原市,名古屋市,熊本市の制度が比較的高い充実度をもつことを明らかにした.そしてその現況調査から災害用井戸の更なる普及の必要性,災害用井戸の維持に向けた環境政策統合,他の補給水利との連携強化という新たな課題を提示した.</p>
著者
乃田 啓吾 岡根谷 実里 沖 大幹
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.25, 2012

水資源は人間生活にとって必要不可欠なものであるが、将来的な人口増加、生活水準の向上によって、その需要が逼迫すると言われている。特に淡水利用の約70%を占める農業用水の不足は、世界的な食糧問題を引き起こすものと懸念されている。元来、水が時間的・空間的に偏在する資源であることに加え、農業生産システムは気候、作物等によって地域・国ごとに大きく異なる。そこで本研究では、水不足が引き起こす食糧問題に注目し、その影響を受けやすい地域を特定することを目的とする。具体的には、食糧生産のために使用された水の総量を農業投入水量定義し、これと農業生産量に正の相関が認められる国を、食糧生産が水不足の影響を受けやすい国として判別する。人口1,000万人以上かつデータを入手できた155カ国を解析の対象とした。国ごとに各年の農業投入水量と主食作物の農業生産量の相関係数Rを求め、R>0.33の場合に水不足によって食糧生産が減少する国と判定した。ここで、主食作物とは小麦、トウモロコシ、米の三種の穀物のうち、最も生産量の多いものとした。 米を主食作物とする国は、他の二作物を主食作物とする国比べて、水不足により食糧生産が減少する国が少なかった。米は他の二作物と異なり、主に水田で栽培される。水田は貯水機能により、降雨を有効に利用できるため、水不足による農業生産量の減少が生じにくいものと考えられる。日本のように十分な灌漑設備を有する国や東南アジアのように降水量が多い地域では、降水量の多い年には日照が不足し農業生産量が減少することから、農業投入水量と農業生産量の間には負の相関がみられた。また、インドは米を主食作物としながらも水不足の影響を受けやすい国として判定された。インドは将来の人口増加による水需要の逼迫が特に懸念されている国であり、食糧生産が大きな影響を受ける可能性が高いことが確認された。 一方、小麦を主食作物とする国では、先進国・発展途上国問わず多くの国で水不足による農業生産量の減少が生じると判定された。1960年代の緑の革命以降、小麦の単収は、窒素肥料の投入により飛躍的に向上したが、広範囲で渇水が生じた場合、大幅に総生産量が減少する可能性が示唆された。
著者
中村 晋一郎 佐藤 裕和 沖 大幹
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学) (ISSN:2185467X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.I_1453-I_1458, 2012 (Released:2013-03-26)
参考文献数
10

In this research, we gathered the Historical Maximum Discharge (HMD) of A class rivers in Japan after World War 2nd (1945) and classify these data into the topography-meteorological area. We used Creager curve for analyzing the regional characteristics of HMD. From this analysis, we explained the difference of the flood specific discharge among geographic regions. And we compared the historical maximum specific discharge between as of 1975 and 2009, so we could explain Creager curves in 3 region was updated and the flood specific discharge in most of river converged to Creager curve.
著者
向田 清峻 芳村 圭 キム ヒョンジュン 沖 大幹
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.27, 2014

文化の黎明期から人類は常に洪水に悩まされてきた、我が国日本もその例外ではない。本研究では、全球モデルを小さな領域スケールにおいて適用することによってスケールの違いをシームレスにつなぐ河川流路網のモデリングの枠組みを構築することを目的とする。またダウンスケーリングに従って全球モデルでは考慮されていなかった現実の断面形状を組み込み、水位・流量のモデル内での表現を現実に近づける。本研究に用いるCaMa-Floodという河川流路網モデルを開発したYamazaki(2011)の手法を基に日本域において1/12&deg;格子の解像度で河川流路網を作成しシミュレーションを行った。計算は浅水回水路における一次元サンブナン方程式を採用し、キネマティック波に加え拡散波による水の流れを表現し、かつ拡散方程式では無視れさた局所慣性項を考慮して計算の安定性を確保すると同時に高速化を実現している。その中で高解像度にすることに応じて河道断面形状を考慮するために二つの点を導入した。一点目は利根川流域において国土交通省の水文水質データベースとGoogle Mapを用いて各グリッドに対して河道幅と河道深を一つ一つ手作業で入力した。二点目は矩形の単断面に仮定していた断面形状を2つの矩形を横に連結した形の複断面とし導入した。この二点の導入により現実の河道断面形状をモデルに反映させた。栗橋観測所での水位と流量を比較した結果、流量・水位の変動のトレンドを良く表現できた。また全球モデルのCaMa-Floodのシミュレーションでは河道幅、深さは各グリッドの上流流出量の関数によって推定していたが、その関数を本研究での利根川の実河道幅、深さで補正することで利根川流域における河川断面マップを作成した。利根川流域の検証により流量のトレンドが捉えられた。それを利用し河道幅、河道深を推定し全国の河川でシミュレーションを行い水位流量に関して一定の改善が見られた。これは全球における河道幅、深さのパラメタでは小さいスケールの河川を表現できなかったことに起因する。以上の結果から全球スケールでの再現性が確認されているモデルを用い、日本の河川の流域という領域スケールでの水位・流量の再現性を確認できた。実断面形状を考慮することで結果が向上したことにより、十分な地理的データのある場所で高解像度でのシミュレーションが行えることが分かった。
著者
吉田 奈津妃 キム ヒョンジュン 沖 大幹
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.28, 2015

陸域水循環のモデリング研究において、大気と地表面の間のエネルギー交換(潜熱と顕熱)とそれに伴う水の相変化(蒸発散)は重要なプロセスである。これまで地球規模のエネルギー・水収支の算定をより現実的に行うため、地表面の情報を陸面モデルに取りこむ研究がなされてきた。しかし、地表面情報には異なる手法や元データの時空間的な不均一性等による不確実性が存在することが指摘されている。陸域水文研究においても、気候外力である降水データの持つ不確実性が河川流量に影響を与えることが明らかになっている。しかし、これまで地表面情報の不確実性が全球陸面水文モデルの推定値にどのような影響を与えるのかはほとんど明らかにされていない。そこで、本研究では地表面情報の不確実性が全球陸面モデルによる水収支に与える影響を明らかにすることを目的とする。地表面の情報については、植生被覆・土地被覆・土壌タイプを対象とし、現存するこれらのデータを複数収集し、陸面モデル入力データの整備をした。そして、陸域水文モデルMATSIROを用いたアンサンブルシミュレーションを行った。得られた水文量について、降水が蒸発散量と流出量に分かれる内訳や、蒸発散量の内訳(蒸散・遮断蒸発・土壌蒸発・植生からの昇華、土壌からの昇華)、流出量の内訳(表層流出、深層流出)について、全球やBudyko気候区分による地域ごとの比較を行った。その結果、まず地表面情報の不確実性については、LAIと土地被覆分類は、特に北半球の高緯度地域において不確実性が高いこと、土壌分類は全球的に不確実性が高いことが確かめられた。また、LAIと土地被覆分類の不確実性は、水収支へ与える影響は小さいものの、蒸発散量や流出量の内訳を大きく変えることがわかった。特に半湿潤地域と寒湿潤地域での流出量の内訳を変えることがわかった。土壌分類においては、水収支と蒸発散量の内訳へ与える影響は小さく、半湿潤地域と寒湿潤地域の流出量の内訳を変えることがわかった。本研究は、初めて地表面情報の不確実性が全球陸面モデルに与える影響を明らかにした研究であり、複数のデータセットを収集し、アンサンブルシミュレーションを行うことで不確実性の幅を明らかにした。この成果は、陸域水循環のモデリング研究において、推定値の確からしさを判定する際やモデルの改良点を見つける際に有益な情報となる。