著者
邉見 公雄
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.25-25, 2006

今、地域医療は危機的な状況にある。一つは人的資源の欠乏、つまり医療職の地域偏在、都市集中である。また、小児科や産婦人科、麻酔科などの診療科偏在もある。看護師は救急車の来ない、手術のない病院を目指しビル診療所や介護老人保健施設を選ぶ。地域の中核病院に残るのは馬鹿かロマンチストだけ、と揶揄されるほどの状況である。お産や手術の出来ない地域がどんどん増え、まるで明治初期に逆戻りである。医育制度や医療行政の失敗あるいは不作為の結果と言われても仕方あるまい。 もう一つは医療費抑制という誤った政策を、ここ10年とり続けていることである。医療は教育と並んで我が国の二大基幹産業である。明治維新以来、歴代政府はどんなに財政が苦しくとも、これだけは守り続けて来た。何の地下資源にも恵まれず、狭い耕地しかない東洋の島国が欧米列強に互するには優秀な人材を育てるしかない、と暗黙知していたからである。つまり、医療で健康な心身をつくり、教育で道徳や学問を身につけ、優秀な国民「日本株式会社」の社員を育ててきたのである。もし今の医療政策が、あと10年続けば地域医療、特に地域の急性期医療は壊滅するのであろう。今回の診療報酬改定に関わった者として「これ以上、地方の急性期病院を傷めつけないで」と訴えてきた。「急性期は泣かせません。メリハリを付けます」というのが当局の答えであった。しかし当院の試算ではメリメリであり、最悪4%以上もあり得る。DPCへの高等追い込み作戦か?とも疑いたくなる今回の改定について、少し詳しく報告したい。 次に、私達自治体病院と同じ目的で同じ活動をしている日本農村医学会員の皆様方にエールを送りたい。「病院と学校は、朝に自宅を出たら遅い昼御飯が自宅で食べれる距離になければならない」というのが私の持論である。そうでなければ、ハンディキャップのある病気の方は勿論、学童は悪者に襲われる危険性も増える。先日、テレビで旧山越村の仮設住宅の住民が村の診療所の先生に診察を受けている番組が放映された。この先生に会うだけで安心し、血圧も下がる?程とか。これぞ地域医療の真髄であり、都会のビル診療所との違いである。地域で産まれ、地域で育ち、地域で病み、治し、地域で死ぬ。これこそ我々日本国民の望むライフスタイルであり、基本的な権利である。農村医学会が我々自治体病院協議会や国保診療所協議会と力を併せ、前進していただくことを願っている。 最後に、国や厚生労働省、都道府県が余りアテに出来ない現在、病院自身が自助努力しなければ病院は衰退する。当院のささやかな努力を紹介させていただき、参考になれば幸いである。キーワードは「全員参加」。職員や利用者は勿論、ボランティアなどの地域住民、実習学生や見学者、行政なども巻き込んでの病院づくりである。今、当院のボランティアは犬8頭、鳩2羽を含めて 200人弱である。利用者、見舞い客、職員、業者、その他を加えると1日に約 3,500人の方々が病院を訪れる。18世紀までは大学や協会、寺院が地域のコミュニティセンターであった。19_から_20世紀は市民会館や銀行、生保などのホールが担っていた。「病院こそ今世紀のコミュニティセンター」というのが私の考えである。 "良い医療を効率的に地域住民とともに"皆様方と同じ目線で頑張りましょう!! 震災12年10月13日

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