著者
石塚 達也 柿崎 藤泰 本間 友貴 石田 行知
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0683-Ab0683, 2012

【目的】 体幹は身体質量比の0.479を占めるため、上半身質量中心点を含む胸郭の変位が身体運動に与える影響は大きい。臨床的には前額面上、胸郭が骨盤に対して正中に位置している例は少なく、多くの例で左側に変位している。我々は体幹の形態として胸郭が骨盤に対して左側に変位していることは一般的であると捉えている。そこで今回は胸郭側方変位と座位における体幹の荷重左右差の関係を定量的に示すことができたためここに報告する。【方法】 対象は成人男性13名とした(年齢 21.8±1.0歳、身長 171.2±3.4cm、体重 63.5±9.3kg、座高 92.5±1.9cm、BMI 21.6±2.6)。胸郭側方変位の判定は3DイメージメジャラーQM-3000(株式会社トプコンテクノハウス社製)を用いて行った。2台のデジタルカメラを縦に並列にステレオ配置し、基線長が40cmのステレオカメラを作成した。そのステレオカメラを2台使用した。ステレオカメラの位置は左右50°の角度で撮影距離は2mとした。ステレオカメラの後方にはプロジェクターをそれぞれ配置させた。計測肢位は自然立位とし、上肢はレッドコード(インターリハ社製)を用いてゼロポジションで固定した。身体マーキング位置は、頸切痕、剣状突起、両ASIS、両ASIS間の中点、中腋窩線と腸骨稜の交点、中腋窩線と剣状突起を通る床との水平線との交点とした。写真撮影は、プロジェクターにてランダムドットパターン無と有の光を照射し、2パターン行った。撮影した画像データはPCで読み込み、QM-3000にてポイント計測、ポリライン計測し3次元化を行った。その3次元化データより断面図作成を行った。断面図作成は両側の中腋窩線を通る床との垂線とし、前額面上での胸郭側方変位を判定できるものとした。断面図データはCSVファイルに変換し処理を行った。下限はASISレベル、上限は腋窩レベルとし、両ASIS間の中点をy軸に合わせ骨盤中心線とした。その骨盤中心線により体幹を左右に分け、体幹の右側面積、左側面積を求めた。左右で面積が大きい方を胸郭変位側とした。統計処理は対応のあるt検定を用い、危険率5%未満を有意とした。また椅子に体重計を2つ横に並べ、左右の坐骨結節がそれぞれの体重計の中央に位置するように坐骨支持の端座位をとらせた。レッドコード(インターリハ社製)を用いて上肢と下肢をスリングし、上下肢の質量を除いた条件下で体幹の荷重左右差をみた。統計処理は対応のあるt検定を用い、危険率5%未満を有意とした。そして胸郭の側方変位量と体幹の荷重左右差との関係をPearsonの相関係数にて分析した。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に沿い、各対象者に対して本研究内容の趣旨を十分に説明し本人の承諾を得た後、同意書に署名した上で計測を実施した。【結果】 胸郭側方変位は右側面積410.8±44.0cm<sup>2</sup>、左側面積426.8±43.8cm<sup>2</sup>で左側面積が有意に大きかった(p<0.05)。体幹の荷重左右差は右側体重17.2±4.0kg、左側体重19.3±2.5kgで左側体重が有意に大きかった(p<0.05)。胸郭側方変位と体幹の荷重左右差の間には、胸郭変位側に荷重の偏りがあるという正の相関がみられた(n=13、r=0.59、p<0.05)。【考察】 今回の研究より、胸郭は左側への変位が多いという結果となった。実際の臨床においても胸郭は骨盤に対して左側に変位している例が多く、その臨床像を反映する結果である。また体幹の荷重左右差については、右側に比べ左側が大きかった。これは左側への胸郭変位の存在により、上下肢の影響を除いた条件下では荷重も左側に偏りを伴うためである。左側への胸郭変位と体幹荷重の左側への偏りの関係が一般的であるが、右側への胸郭変位を呈する例や胸郭変位側とは反対側への荷重の偏りがある例は異常性があると捉えている。例えば、臨床的には腰痛症状を持つ例や腰部の構造破綻のある例などは右側への胸郭変位を呈していることが多い。結果を総合すると、姿勢や体幹機能評価で側方への胸郭変位や荷重の偏りなども考慮することは理学療法の効果判定に有効となると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果より、胸郭は左側への変位が多く、体幹の荷重は左側に偏りがあることが定量的に示された。これは姿勢や体幹機能評価などの理学療法評価や治療に有益な情報となると考える。

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