著者
長谷部 清貴 石井 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0704, 2012

【はじめに、目的】 膝関節は屈曲位から伸展する際に、スクリューホームムーブメント(以下SHM)と呼ばれる外旋運動が受動的に起こる。荷重位におけるSHMでは、大腿骨と脛骨の相対運動の差分として回旋角度が決定されるため、SHMの評価は大腿骨と脛骨の回旋運動のどちらに大きく影響を受けているのか明確にする必要性がある。しかし、SHMに関する研究は非荷重位のものが多く、荷重位におけるSHMに関する報告は少ない。本研究の目的は、スクワット動作中の大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度を調査し、荷重位でのSHMの特性を明らかにすることである。【方法】 対象は、下肢に整形外科的、神経学的疾患のない健常成人15名(男性:10名、女性:5名)、平均年齢22.5±3.3歳とした。計測課題は、両下肢の間隔を肩幅とした立位姿勢から膝関節を約90°屈曲し、再び立位まで戻るスクワット運動とした。課題動作の計測には、三次元動作解析装置VICON612(VICON-PEAK社製)を使用した。赤外線反射標点の貼付位置は、体表面上の所定の位置に計21個の標点を設置し、課題動作中のマーカーの位置を計測した。計測によって得られた標点の三次元座標データを用いて、課題動作中の膝関節屈曲伸展角度、大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度、および大腿骨・脛骨回旋角度から膝関節回旋角度を算出した。課題動作は5回測定し、その平均値を算出した。なお、関節角度の算出には、歩行データ演出用ソフトVICON Body Builder(VICON-PEAK社製)を使用しオイラー角を算出した。データの解析区間は、各被験者の膝関節屈曲60°から最終伸展位とした。膝関節屈曲60°での全ての回旋角度を0°と規定し、外旋方向をプラス、内旋方向をマイナスとした。データの解析は、膝関節が伸展していく間に膝関節が外旋する外旋群と内旋する内旋群とに分類した。二群間の大腿骨回旋角度及び脛骨回旋角度の平均値の差の検定にはt検定を用いた。膝関節の回旋運動と大腿骨及び脛骨の回旋角度との関連性を調査するために、Pearsonの相関係数を用いた。なお、統計学的有意水準は危険率p<0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施された。また全被験者に研究の趣旨および内容について十分に説明を行い、研究参加の同意を得てから研究を実施した。また、個人情報は本研究以外で使用しない旨を説明し、情報管理に配慮した。【結果】 SHMに関して、膝関節伸展時に膝関節外旋が生じる外旋群は9名(男性6名、女性3名、平均回旋角度3.5°±1.4)、膝関節内旋が生じる内旋群は6名(男性4名、女性2名、平均回旋角度-2.9°±1.2)であった。SHM中の大腿骨回旋角度の平均値は内旋群が4.9°±1.2、外旋群が-1.2°±2.4である。内旋群では大腿骨が外旋し、外旋群では大腿骨が内旋していた。群間の大腿回旋角度の相違は、統計学的に有意であった(p<0.01)。一方で、SHM中の脛骨回旋角度は内旋群が2.0°±1.0、外旋群が2.3°±1.5と全例外旋を示し、群間に有意差を認めなかった。また、大腿骨回旋角度と膝関節回旋角度において有意な負の相関関係が認められた(r=-0.94 p<0.001)、つまり大腿骨が内旋する被験者ほど、膝関節が外旋する傾向が統計学的に有意であったが、脛骨回旋角度と膝関節回旋角度との相関関係に有意差は認めなかった。【考察】 本研究において、SHMは膝関節伸展に伴い、膝関節が外旋する外旋群、内旋する内旋群の2パターンに分かれた。膝関節伸展運動中の脛骨回旋角度は両群ともに外旋を示したが、大腿骨回旋角度では群間に有意差を認めた。さらに膝関節回旋角度と大腿骨回旋角度は有意に高い相関関係を示しており、荷重位でのSHMは脛骨より大腿骨の回旋運動に影響を受けることが明らかになった。膝関節の運動は、大腿骨上の脛骨の運動(tibial-on-femoral)と脛骨上の大腿骨の運動(femoral-on-tibial)の2種類があるとされ、スクワットのような荷重位の運動は脛骨上の大腿骨の運動である。このため、荷重位でのSHMは大腿骨の運動量が大きく、大腿骨回旋角度に左右される可能性がある。大腿骨回旋角度の差異に関しては、骨盤からの運動連鎖、上半身重心の影響が考えられる。骨盤後傾は大腿骨外旋、骨盤前傾は大腿骨内旋のように、骨盤角度は大腿骨回旋に運動連鎖を引き起こす。したがって、スクワット動作中の骨盤前後傾の差異や股関節周囲筋の活動の差異が、今回の大腿骨回旋角度に影響を与えている可能性が推察される。今後、骨盤の運動解析および筋電図計測を含めて分析を行う必要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より、臨床において荷重位でのスクリューホームムーブメントを誘導する際には、大腿骨の動きを誘導することの重要性が示唆された。

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荷重位でのスクリューホームムーブメントと大腿骨及び脛骨回旋運動の三次元動作解析 ✅SHMは膝関節伸展に伴い、膝関節が外旋する外旋群、内旋する内旋群の2パターン ✅膝関節伸展運動中の脛骨回旋角度は両群ともに外旋 ✅荷重位では脛骨より大腿骨の回旋運動に影響を受ける https://t.co/9kITa9bDo5
SHM:スクリューホームムーブメント https://t.co/SvHFAisLAE

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