著者
佐野 晴男 瀬畑 宏 伊藤 弘通 山崎 統資 海野 雅浩 久保田 康耶
出版者
Japanese Cleft Palate Association
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.41-47, 1978

口蓋裂患者の手術はそのほとんどが乳幼児期に行われている.しかも慢性の上気道感染を有しているものが多く,手術野が気道の入口と一致しているため,術後に重篤な呼吸器系合併症に発展することも稀ではない。われわれは過去5年間のうちで,口蓋形成術後に重篤な呼吸器系合併症をきたして,術後数日にわたる呼吸管理を余儀なくされた2症例を経験したので,その経過の概要を報告するとともに,考察ならびに反省を加えた.<BR>第1例は1才9カ月の男児で,術後に声門下浮腫を発生した症例である.術前2,3日前より咳,鼻汁がみられたが,発熱はなく,聴診,打診ならびに胸部X線像にも異常を認めなかったので気管内吸入麻酔のもとに手術を行った.術後,覚醒は良好であったが,帰室後約1時間半も経過してから喘鳴,奇異呼吸がみられ,チアノーゼを呈したので再挿管した.その後,酸素テント内に収容して加湿を図り,ステロイドホルモンならびに抗生物質の投与など,5日間にわたる呼吸管理を行った.以後回復に向い,術後13日目に無事退院させることができた.<BR>第2例は1才7カ月の女児で,術後に無気肺に陥った症例である.手術の4口前に38.9℃,3日前に38.5℃ の発熱があり,解熱剤の投与で平熱となったが,咳と鼻汁は依然としてみられていた.手術の延期を考えたが,術者からの強い要望もあって,手術を強行したものである.術中は特別なこともなく経過し,手術終了後覚醒であったので抜管したところ,直後より喘鳴が聴取され,努力性呼吸をし始めた. そこで直ちに再挿管して,気管内洗浄ならびに分泌物の吸引を繰り返し,再挿管1時間後には改善をみたので再び抜管して帰室させた.しかし次の日になり再びチアノーゼが出現したので,再び挿管して,気管内洗浄,吸引し,吸入ガスの加湿を行ない,薬物投与も併行させた.このように厳重な呼吸管理のもとで全身状態の回復をはかった結果,術後4日目に再び抜管したが,何らの異常も示さなかった.以後順調に回復し,術後18日目には無事退院させることができた.<BR>本報告の2症例ともに術前に風邪に罹患している症状がみられていたにもかかわらず,気管内麻酔のもとに術後の呼吸器系合併症を続発させた.いかに術者からの強い要望があったにせよ,このような患者では当然,手術を延期すべきであったと深く反省している.

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