著者
片岡 竜太
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.204-216, 1988-12-26 (Released:2013-02-19)
参考文献数
49
被引用文献数
3

臨床応用可能な開鼻声の定量的評価法を確立するために,口蓋裂あるいは先天性鼻咽腔閉鎖不全症による開鼻声患者18例と健常人17例の発声した母音/i/について声道伝達特性を観察するためにケプストラム分析を行い,得られたスペクトルエンベロープに1/3オクターブ分析を加え,開鼻声の周波数特性を求めた.次に20人の聴取者による開鼻声の聴覚心理実験を行い,得られた主観評価量と声道伝達特性を表わす物理量の関連を検討したところ次の結果が得られた.1)開鼻声のスペクトルエンベロープの特徴は健常音声のスペクトルエンベロープと比較して第1,第2フォルマント間のレベルの上昇と,第2,第3フォルマントを含む帯域のレベルの低下であった.2)開鼻声の聴覚心理実験を行い得られた5段階評価値を因子分析したところ,開鼻声を表現する2次元心理空間上に2つの因子が存在し,第1因子は全聴取者に共通した聴覚心理上の因子であり,第2因子は聴取者間の個人差を表わす因子であると考えられた.そのうち第1因子を主観評価量とした.3)開鼻声の主観評価量と1/3オクターブ分析から得られた物理量の相関を検討したところ,第1フォルマントの含まれる帯域から2/3-4/3オクターブ帯域の平均レベル(物理評価量L1)および第1フォルマントの含まれる帯域から9/3-11/3オクターブの帯域の平均レベル(物理評価量L2)と主観評価量に高い相関が認められた.
著者
山下 夕香里 道 健一 今井 智子 鈴木 規子 吉田 広
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.204-216, 1983-12-24 (Released:2013-02-19)
参考文献数
37

いわゆる粘膜下口蓋裂を含めた先天性鼻咽腔閉鎖不全症(Congenital Velopharyngeal Incompetence以下CVPI)のなかには,著しい開鼻声を伴う構音障害,心奇型などの合併奇型に加えて精神発達の遅れを伴う症例が多いとされているが詳細な報告はほとんどみられない.そこでわれわれはCVPIの診断基準を定義した上で,鼻咽腔形態・機能および顔貌に関する客観的な計測結果が明らかとなっているCVPI15例,対照群として唇顎口蓋裂症例18例(Cleft Lip and Palate以下CLP)を対象症例とし,4才2ヶ月-13才2ヶ月時に,WPPSIまたは,WISC-R,ITPA言語学習能力診断検査,Frostig視知覚発達検査(DTVP)を行い,鼻咽腔形態による分類型、Calnanの3徴候,特徴的顔貌所見別に精神発達について比較検討を行った.その結果,顔貌所見別では特徴的顔貌群はその他の群およびCLP群に比べ1%水準で有意に低い値を示した.鼻咽腔形態による分類型別では軟口蓋の長さと咽頭腔の深さとの関係が不均衡なII型群が低い値を示し,Calnanの3徴候別では無徴候,1徴候群が低い値を示した.以上の結果より特徴的顔貌所見を有する症例とその他の症例との間には精神発達に著しい相違がみられ,さらに鼻咽腔形態、Calnanの3徴候と精神発達との関連性も示唆された.われわれは従来より鼻咽腔形態,顔面形態の客観的分折によりCVPIの中の1つのカテゴリーとしての特徴的顔貌の存在を証明し報告してきたが,今回はさらにこれらの特徴的顔貌を呈する症例において精神発達の遅れが認められ疾患としての独立性が0層明らかとされた.これらのことよりわれわれは先天性鼻咽腔閉鎖不全,特徴的顔貌,精神発達の遅れなどの所見がみられる症例を新しい症候群として一括して扱うことを提唱したい.
著者
杉本 修一
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.343-357, 1989-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
50

妊娠母体の貧血が,口唇,口唇裂発生に及ぼす影響について検討するために,口唇,口蓋裂自然発生疾患モデルマウスであるA/J系,CL/Fr系マウスに遺伝性貧血モデルマウスであるC57BL6/J-Wv/+系マウスの貧血遺伝子を導入してA/J-Wv/+/AG,CL/Fr-Wv/+/AG2系統のコンジェニックマウス系統を開発してその血液性状,吸収胚数,死亡胎仔数,口唇,口蓋裂発現率を追及し,以下の結果を得た。1.新開発疾患モデルマウスの妊娠前の血液性状は,貧血遺伝子供給源であるC57BL6/J-Wv/+系マウスと類似し,貧血を示していた。また本疾患発生に最も影響すると考えられる妊娠10日の血液性状も,貧血遺伝子供給源であるC57BL6/J-Wv/+系マウスと類似し,貧血を示していた。2.新開発疾患モデルマウスの生存胎仔数,吸収胚数,死亡胎仔数は,おのおの源系統であるAIJ系,CL/Fr系マウスとの比較において有意な差を認めなかった。3.A/J-Wv+/AG系マウスは源系統のA/J系マウスと同様に口唇裂単独は皆無であったが,片側性口唇・口蓋裂と口蓋裂は有意差をもって発現率が上昇した。CL/Fr-Wv/+/AG系マウスは源系統のCL/Fr系マウスに比し口唇裂単独の発現率に有意差を認めなかったが,口唇・口蓋裂の合計と口蓋裂は有意差をもって発現率が上昇した。4.以上より,母獣の貧血は口唇裂単独の発現率に関連を認めないが,口蓋裂の発現率を上昇させることが示唆された。
著者
松村 香織 笹栗 正明 光安 岳志 新井 伸作 辻口 友美 中村 誠司
出版者
Japanese Cleft Palate Association
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.217-223, 2014

1998年1月から2007年12月までの10年間に九州大学病院顎口腔外科を受診した口唇裂口蓋裂患者一次症例を対象に臨床統計的観察を行い,以下の結果を得た。<br>1.10年間に当科を受診した口唇裂口蓋裂一次症例は228名であった。受診患者数に増減はあるが増加傾向にあった。<br>2.裂型別では,228名中口唇(顎)裂が70例,口唇口蓋裂 70例,口蓋裂 69例,粘膜下口蓋裂 18例,正中唇裂 1例であった。<br>3.裂型別性差については,いずれの裂型も男女間に有意差は認めなかったものの,口唇口蓋裂は男性,口蓋裂は女性に多かった。<br>4.初診時年齢は,生後1ヶ月以内の患者が90%を占めており,2001年以降は出生当日の初診症例が増加していた。<br>5.患者の居住地域は福岡市およびその近郊が大部分を占めていた。<br>6.紹介元施設は,九州大学病院外の産科が最も多く(42.6%),次いで院外の小児科(14.1%),院内の周産母子センター(10.1%)であった。<br>7.出生前カウンセリング件数は計18件,出生直後の産科への往診件数は63件であった。年間の出生前カウンセリング件数および往診件数は徐々に増加していた。
著者
高田 訓 根本 隆一 滝沢 知由 沼崎 浩之 大野 朝也
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.35-41, 1996-01-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20

これまで高齢者の未手術口蓋裂の鼻咽腔閉鎖機能を検索した報告は少なく,更に無歯顎者の鼻咽腔閉鎖不全症患者に発音補整装置を装着し治療を行った報告は殆どない.今回我々は,78歳の女性で無歯顎の口蓋裂未手術例に対し,スピーチエイドに類似した全部床義歯を装着し,装着前後の鼻咽腔閉鎖機能について検索した.その結果,1)Blowingでは呼気流量で約50%,呼気流出時間で約25%,最大呼気流量速度(PF)では約63%増加した.2)ファイバースコープ所見では,子音の一部で鼻咽腔閉鎖が認められるようになった.3)語音発語明瞭度は29.0%から58.0%に改善し,患者の十分な満足を得ることができた.
著者
宮崎 正 小浜 源郁 手島 貞一 大橋 靖 高橋 庄二郎 道 健一 待田 順治 河合 幹 筒井 英夫 下里 常弘 田代 英雄 田縁 昭 西尾 順太郎
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.191-195, 1985-12-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1

昭和56年-57年の口唇裂口蓋裂の発生率について全国15都道府県の1009産科医療機関を対象に調査を行い,以下の結果を得た.1.調査施設における全出産数(死産も含む)は384,230名で,そのうち口唇裂口蓋裂児は701名で発生率は0.182%であった.2.各裂型ごとの発生率は口唇裂0.052%,口唇口蓋裂0.086%,口蓋裂0.037%であった.3.調査地域を東日本と西日本に区分し,地域別発生率を比較すると,西日本の方がやや高率に本症が発生する傾向が見られた.
著者
佐野 晴男 瀬畑 宏 伊藤 弘通 山崎 統資 海野 雅浩 久保田 康耶
出版者
Japanese Cleft Palate Association
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.41-47, 1978

口蓋裂患者の手術はそのほとんどが乳幼児期に行われている.しかも慢性の上気道感染を有しているものが多く,手術野が気道の入口と一致しているため,術後に重篤な呼吸器系合併症に発展することも稀ではない。われわれは過去5年間のうちで,口蓋形成術後に重篤な呼吸器系合併症をきたして,術後数日にわたる呼吸管理を余儀なくされた2症例を経験したので,その経過の概要を報告するとともに,考察ならびに反省を加えた.<BR>第1例は1才9カ月の男児で,術後に声門下浮腫を発生した症例である.術前2,3日前より咳,鼻汁がみられたが,発熱はなく,聴診,打診ならびに胸部X線像にも異常を認めなかったので気管内吸入麻酔のもとに手術を行った.術後,覚醒は良好であったが,帰室後約1時間半も経過してから喘鳴,奇異呼吸がみられ,チアノーゼを呈したので再挿管した.その後,酸素テント内に収容して加湿を図り,ステロイドホルモンならびに抗生物質の投与など,5日間にわたる呼吸管理を行った.以後回復に向い,術後13日目に無事退院させることができた.<BR>第2例は1才7カ月の女児で,術後に無気肺に陥った症例である.手術の4口前に38.9℃,3日前に38.5℃ の発熱があり,解熱剤の投与で平熱となったが,咳と鼻汁は依然としてみられていた.手術の延期を考えたが,術者からの強い要望もあって,手術を強行したものである.術中は特別なこともなく経過し,手術終了後覚醒であったので抜管したところ,直後より喘鳴が聴取され,努力性呼吸をし始めた. そこで直ちに再挿管して,気管内洗浄ならびに分泌物の吸引を繰り返し,再挿管1時間後には改善をみたので再び抜管して帰室させた.しかし次の日になり再びチアノーゼが出現したので,再び挿管して,気管内洗浄,吸引し,吸入ガスの加湿を行ない,薬物投与も併行させた.このように厳重な呼吸管理のもとで全身状態の回復をはかった結果,術後4日目に再び抜管したが,何らの異常も示さなかった.以後順調に回復し,術後18日目には無事退院させることができた.<BR>本報告の2症例ともに術前に風邪に罹患している症状がみられていたにもかかわらず,気管内麻酔のもとに術後の呼吸器系合併症を続発させた.いかに術者からの強い要望があったにせよ,このような患者では当然,手術を延期すべきであったと深く反省している.
著者
高戸 毅 朴 修三 北野 市子 加藤 光剛 古森 孝英 須佐美 隆史 宮本 学
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.57-65, 1994-04-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
47

現在,口蓋裂は手術法の進歩,言語管理の徹底により,その多くが鼻咽腔閉鎖機能を獲得し,正常な構音発達を遂げている.初回手術のみで鼻咽腔閉鎖機能を獲得するものは90%前後とする報告が本邦では多い.残りの数%は,初回手術後も十分な鼻咽腔閉鎖機能が獲得できず,その多くは二次手術が必要となる.その際われわれは,鼻咽腔閉鎖機能改善を目的として,咽頭弁手術を行ってきた.鼻咽膣閉鎖機能不全が疑われる症例には,4~5歳に発音時にセファログラムおよび鼻咽腔ファイバースコープ下の鼻咽膣運動の評価を行い,鼻咽腔閉鎖機能不全症を最終的に判定し,咽頭弁手術を施行している.今回われわれは,就学前に咽頭弁手術を施行し,5年以上経過観察を施行した37症例について,術後の合併症および言語成績に関し検討を加えた.その結果,1年後に全例に開鼻声の減少などの改善を認め,日常会話レベルでも鼻咽腔閉鎖機能に問題が無くなったのは,二次手術例で約83%,5年後では約92%と良好な結果を示した.咽頭弁術後も閉鎖機能不全を残した症例で,術式による差は特に認められなかった.むしろ,こうした症例の多くに精神発達遅滞や,心奇形など,他に奇形を伴っていることが特徴的であった.合併症として,鼻閉・口呼吸が術後1年目で7例に,5年目でも4例に認められた.術後,呼吸困難や睡眠時無呼吸症を呈した症例はなかった.また術後5年目までに鼻咽腔閉鎖機能不全を再発した症例はなかった.今回の調査では,重篤な合併症は認められなかったが,扁桃肥大や小顎症などに対しては術前に睡眠時ポリグラフ検査などが必要と考えられる.また術後の顎発育抑制についても,慎重な経過観察が今後とも必要と考えられる.
著者
松島 芳文 大根 光朝 入野 孝男 桜井 昌彦 牧 睦
出版者
Japanese Cleft Palate Association
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.93-97, 1992

CF#1マウス3系統(CF#1/0hu,CF#1/Jms,およびCF#1/Jah)における自然発症の裂奇形について検索した.対照としてA/JマウスおよびSM/Jマウスを用いた.その結果は以下のようであった.<BR>1.CF#1の3系統はいずれも口蓋裂の単独自然発症を示し,発症率は約3%であった.唇顎口蓋裂および唇の発生は1例も認められなかった.対照のA/Jでは,口蓋裂が2.2%,唇顎口蓋裂が6.5%認められた.<BR>SM/Jでは,裂奇形は1例も認められなかった.<BR>2.CF#/1に発現した裂型は硬軟口蓋裂であった.A/Jでは硬軟口蓋裂と唇顎口蓋裂であった.<BR>3.CF#1における口蓋裂単独自然発症はヒト口蓋裂の遺伝的な発現様態との一致性を示唆した.<BR>したがって,CF#1マウスは口蓋裂遺伝子の解明に有用なモデル動物と考えられた.
著者
鵜飼 美穂 井藤 一江 石田 真奈美 藤田 有子 松浦 誠子 川野 広巳 山内 和夫
出版者
Japanese Cleft Palate Association
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.155-163, 1992
被引用文献数
1

広島大学歯・学部附属病院矯正科における治療段階と咬合状態を把握するために,1968年4.月から1989年3月までの21年間に診断用資料を採得した口唇口蓋裂患者532名(男子288名,女子244名)を対象に統計的調査を行い,以下の結果を得た.<BR>1.治療段階は,1991年3月の時点で,治療前・治療中が34.0%,保定中・保定後が37・8%,転出・中止が26.8%であった.<BR>2.保定中・保定後の患者186名の動的治療終了時の咬合状態は,前歯部・臼酋部ともに良好なもの(GOOD)が55.9%,前歯部または臼歯部に2歯以上連続してcross biteまたはopen biteがあるもの(POOR)が12.4%,それらの中間のもの(MEDIOCRE)が31.7%,であった・MEDIOCREのうち,顎裂部の骨欠損のために多少の不正はあるものの,現時点での治療の限界であると考えられる症例をGOODに含めると,71.0%は良好な結果が得られていた.<BR>(1)口唇裂,唇顎裂ではPOORはなかったが,片側性唇顎口蓋i裂の18.1%,両側性唇顎口蓋裂の12・5%,口蓋裂の7.7%はPOORであった.<BR>(2)1981年度以降に限ると,GOODと判定された症例の割合は59.9%に増加した.<BR>3.保定法を確認できた200名の上顎の保定装置は,レジン床122名,bonded lingual retainer38名,レジン床または舌側弧線装置とbonded lingual retainerの併用23名,その他の保定装置12名,保定装置なし5名であった.<BR>4.保定中にPOORに変化したのは,動的治療終了時がGOODの19.3%,MEDIOCREの29・2%であった.<BR>5.上顎の補綴法が確認できた61名の補綴装置は,ブリッジ24名,メタルプレート16名,ブリッジとメタルプレートの併用7名,その他14名であった.また,補綴処置を行わず終了した患者が19名あった.<BR>6.補綴後咬合が悪化したのは,補綴物(接着ブリッジ)が脱落した1名と,下顎の成長により前歯部と臼歯部の関係が悪化した2名であった.
著者
西原 一秀 後藤 尊広 宮本 昇 佐藤 範幸
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.33-40, 2021

2011年から2019年までの9年間に琉球大学病院歯科口腔外科を受診した口唇裂・口蓋裂一次症例183名について臨床統計学的解析を行った。また,2014年から開始した産科の往診システムの効果を検討し,以下の結果を得た。<br>1.9年間に当科を受診した一次症例は183名であった。<br>2.裂型別患者数では183名中,口唇(顎)裂が82名(44.8%),口唇口蓋裂が59名(32.2%),口蓋裂が42名(23.0%)であった。<br>3.男女比は,男性92名,女性91名で1.01:1とほぼ同数であった。<br>4.初診時年齢は,61名(33.3%)が生後7日未満に受診していた。<br>5.出生時体重は,平均2,978.4gで,3,000g〜3,499gが71名(39.4%)と最も多かった。<br>6.母親の出産時年齢は,平均31.5歳で,30歳から34歳が49名(29.3%)と最も多かった。<br>7.先天異常を合併した患者は,22名(12.0%)に認められた。<br>8.手術総件数は554件で,手術内訳は口唇形成術が130件(22.3%)と最も多かった。<br>9.2014年から開始した往診数は45件で,その活動は患者家族の精神的負担を軽減できた。
著者
石川 保之 田坂 康之 川野 通夫 本庄 巖
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.199-205, 1986-12-26 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14

口蓋裂例における鼻副鼻腔疾患の実態を調べるため, 口蓋裂患者101例を対象として, 前鼻鏡, レントゲン撮影(単純, 断層), 鼻腔通気度, 嗅裂内視鏡等の諸検査を行い, さらに, 鼻疾患と中耳の関係をみるために, 耳鏡検査, 標準純音聴力検査, インピーダンスオージオメトリーも行ったところ以下の結果を得た.1)唇顎口蓋裂は鼻中隔蛮曲症, 下甲介肥大を高率に伴う.2)口蓋裂患者は副鼻腔炎を高率に伴い, これは中耳疾患の病因の一つである可能性がある.3)副鼻腔炎の頻度は口蓋裂の裂型や鼻中隔蛮曲の有無とは相関がない.4)口蓋裂に高率に伴う副鼻腔炎, 鼻中隔蛮曲, 下甲介肥大は口蓋裂患者の鼻腔抵抗を高めている.5)口蓋裂患者の嗅覚障害は軽度で, この主因は副鼻腔炎による嗅裂の閉塞にあると思われる.
著者
佐藤 研一 今井 裕 石山 信之 小林 操 金沢 春幸
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.70-76, 1981-07-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
33

今回,われわれは極めて稀れ(本邦で9例)な奇形とされている下顎正中裂および下口唇正中裂の症例を経験したので報告した.患児は生後3ケ月女児,2児中第2子で同胞に異常は認められない.両親に血縁関係はなく,家系中にも異常を認めない.母親は妊娠2ケ月頃,転倒により腰部を打撲したことを除き,妊娠経過は順調であった.全身的には栄養発育状態は良好で,他部合併奇形などの異常を認めない.局所的には下口唇が正中で縦裂し,さらにその破裂下端部より願部にいたる腫瘤が認められたという(但し出産病院で腫瘤は切除) .下顎骨も正中離開し,そのため左右の下顎は個別に可動性を有していた.また,舌尖は下顎離開部を越え,その前方に附着し固定されていた.X線的には下顎骨正中離開を示すも,歯胚数の異常や舌骨の欠損は認められなかった.両親ならびに患児の染色体数は正常で,生後4ケ月目にZ-plastyによる下口唇形成術および舌小帯伸展術を施行した.術後経過は良好で現在に至っている.下顎裂に対する処置は,今後充分な観察の下に,下顎の発育を待ったうえ行う予定であり,併せてその論拠にっいての考察を附して報告した.
著者
河野 紀美子 鈴木 陽 渡辺 美恵子 近藤 由紀子 向井 陽 大溝 法孝 高濱 靖英
出版者
Japanese Cleft Palate Association
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.159-170, 1989

九州大学歯学部附属病院矯正科における口唇裂口蓋裂患者の実態を把握するために,昭和45年8月の当科開設以来昭和63年末までに受診した口唇裂口蓋裂患者996名(男性525名,女性471名)を対象に臨床統計的観察を行い以下の結果を得た。<BR>1.初診時年齢のピークは3歳時であった。<BR>2.口唇裂口蓋裂の裂型別頻度は,唇裂6.0%,唇顎裂17.4%,唇顎口蓋裂59.8%,口蓋裂16.8%であった。<BR>3.裂の発生部位は左側53.4%,右側27.6%,両側18.6%であった。<BR>4.性差は唇裂で男性が女性の約1.4倍,唇顎裂では男女ほぼ同率,唇顎口蓋裂では男性が女性の約1.5倍,ロ蓋裂では女性が男性の約2.4倍であった。<BR>5.生下時の平均身・体重・低出生体重児の頻度は日本人一般平均と有意差は認められなかったが,早期出産傾向は有意に認められた。母親の年齢の影響は認められなかった。<BR>6.初診時における同胞数は2人が最も多く,出生順位は高位の者が多かった。末子である比率は66.9%であった。<BR>7.片側性唇顎口蓋裂患者の上顎歯列弓セグメントの接触状態は,接触型81.4%,遊離型11.8%,重複型6.8%であった。<BR>8.1歯以上の反対対咬(いわゆるクロスバイト)がある者は84.6%であった。反対対咬は前歯と破裂部位に隣接する歯牙に高頻度であった。乳歯列より永久歯列の方が反対対咬を呈する歯牙が多かった。<BR>9.当科受診後,矯正治療を受けなかった者の割合は,唇裂患者の23.3%,ロ蓋裂患者の21.6%,唇顎裂患者の16.7%,唇顎裂患者の11.8%であった。
著者
高橋 庄二郎
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.49-61, 1990-07-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
80

口唇裂'口蓋裂は世界のすべての民族にみられる,最も頻度の高い顎顔面の先天奇形であり,日本人は理由は明らかでないが,口唇裂・口蓋裂の発生頻度の最も高い民族である.口唇裂・口蓋裂の発生機序と発生原因に関する最近の考え方が述べられた.口唇裂'口蓋裂の成因は異質性であり,そのため発生機序も複雑である.一般に,一次口蓋の破裂である口唇裂は内側鼻突起と外側鼻突起の下方端における癒合不全によって,二次口蓋の破裂である口蓋裂は口蓋板の接触不全によって生じると考えられている.口唇裂・口蓋裂に関連する症候群を除く通常の口唇裂・口蓋裂は一般に多因子しきいモデルで説明されている.日本人における口唇裂・口唇顎口蓋裂と単独口蓋裂を発端者とする家系調査の結果は多因子遺伝の予言によく一致し,前者の分離比分析の結果は弧発例の84.6%が単純な劣性遺伝様式で説明されえないことを示した.一方,実験動物において口唇裂・口蓋裂を誘発する環境因子が数多く見い出されている.ヒトでは妊娠母体の風疹ウイルス感染とステロイド剤および抗てんかん剤の服用が注目されるべきである.
著者
室伏 道仁 岡藤 範正 倉田 和之 近藤 昭二 杠 俊介 栗原 三郎
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.293-301, 2006-10-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18

上顎骨の著しい劣成長を伴う両側性口唇口蓋裂二症例において,REDシステムによる上顎骨延長術を施術した際の,上顎骨および上顎骨に対する歯の移動様相を明確にするために検討を行ったので報告する.症例1は手術時年齢11歳6か月の女子.症例2は手術時年齢16歳8か月の女子.両症例とも顎裂部自家腸骨細片移植術を行った.また,症例2は延長終了22日後に下顎後退術を併せて施術した.骨延長術はREDシステムを応用し,延長装置を上顎歯列に固定した後,Le Fort I型骨切り術を施術し,朝夕0.5mmずつ1.Omm/日の割合で延長を行った.上顎骨と歯の移動様相を正確に評価するため,Le Fort I型骨切り術中にインプラントピンを骨切り線上下に計4本埋入し,骨内マーカーとした.術前から延長終了後2年までの側面セファロトレース上で検討を行った.延長終了時,上顎骨の延長量は症例1で前方11.2mm,下方1.3mm,症例2で前方7.5mm,下方2.6mmであった.延長後変化量は,症例1で-1.8mm(-16.0%)認められたが,症例2では,延長術後も+1.Omm(+13.3%)の前方移動が認められた.術中の歯の移動は両症例とも,水平方向より垂直方向への移動が多く認められた.
著者
北野 市子 朴 修三 加藤 光剛
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-7, 2009-04-30 (Released:2012-03-07)
参考文献数
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22q11.2欠失症候群児の鼻咽腔閉鎖機能不全に対する初回手術として,咽頭弁形成術を施行した症例の,術後成績を左右する要因について,鼻咽腔閉鎖機能の改善および発話の改善の2点から検討した。対象および方法:粘膜下口蓋裂9例,先天性鼻咽腔閉鎖機能不全症16例であった。このうち鼻咽腔閉鎖機能(以下VPと略す)改善群は19例,VP非改善群は6例であった。また発話改善群は9例,発話非改善群は16例であった。これらそれぞれ2群間の手術年齢,知能,心疾患の有無,合併症の数,定頸,始歩,始語,術前に鼻孔を閉鎖して破裂音を産生することが可能であったか否か,について検討した。結論:鼻咽腔閉鎖機能の改善群・非改善群には各項目で統計的有意差は見出せなかった。しかし発話の改善については,知能,合併症の数,定頸月齢,術前に鼻孔を閉鎖して破裂音が産生可能であったか否か,などの項目で統計的有意差を認めた。咽頭弁形成術後の予後に,これらの要因が影響している可能性が示唆された。