著者
松村 香織 笹栗 正明 光安 岳志 新井 伸作 辻口 友美 中村 誠司
出版者
Japanese Cleft Palate Association
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.217-223, 2014

1998年1月から2007年12月までの10年間に九州大学病院顎口腔外科を受診した口唇裂口蓋裂患者一次症例を対象に臨床統計的観察を行い,以下の結果を得た。<br>1.10年間に当科を受診した口唇裂口蓋裂一次症例は228名であった。受診患者数に増減はあるが増加傾向にあった。<br>2.裂型別では,228名中口唇(顎)裂が70例,口唇口蓋裂 70例,口蓋裂 69例,粘膜下口蓋裂 18例,正中唇裂 1例であった。<br>3.裂型別性差については,いずれの裂型も男女間に有意差は認めなかったものの,口唇口蓋裂は男性,口蓋裂は女性に多かった。<br>4.初診時年齢は,生後1ヶ月以内の患者が90%を占めており,2001年以降は出生当日の初診症例が増加していた。<br>5.患者の居住地域は福岡市およびその近郊が大部分を占めていた。<br>6.紹介元施設は,九州大学病院外の産科が最も多く(42.6%),次いで院外の小児科(14.1%),院内の周産母子センター(10.1%)であった。<br>7.出生前カウンセリング件数は計18件,出生直後の産科への往診件数は63件であった。年間の出生前カウンセリング件数および往診件数は徐々に増加していた。
著者
佐野 晴男 瀬畑 宏 伊藤 弘通 山崎 統資 海野 雅浩 久保田 康耶
出版者
Japanese Cleft Palate Association
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.41-47, 1978

口蓋裂患者の手術はそのほとんどが乳幼児期に行われている.しかも慢性の上気道感染を有しているものが多く,手術野が気道の入口と一致しているため,術後に重篤な呼吸器系合併症に発展することも稀ではない。われわれは過去5年間のうちで,口蓋形成術後に重篤な呼吸器系合併症をきたして,術後数日にわたる呼吸管理を余儀なくされた2症例を経験したので,その経過の概要を報告するとともに,考察ならびに反省を加えた.<BR>第1例は1才9カ月の男児で,術後に声門下浮腫を発生した症例である.術前2,3日前より咳,鼻汁がみられたが,発熱はなく,聴診,打診ならびに胸部X線像にも異常を認めなかったので気管内吸入麻酔のもとに手術を行った.術後,覚醒は良好であったが,帰室後約1時間半も経過してから喘鳴,奇異呼吸がみられ,チアノーゼを呈したので再挿管した.その後,酸素テント内に収容して加湿を図り,ステロイドホルモンならびに抗生物質の投与など,5日間にわたる呼吸管理を行った.以後回復に向い,術後13日目に無事退院させることができた.<BR>第2例は1才7カ月の女児で,術後に無気肺に陥った症例である.手術の4口前に38.9℃,3日前に38.5℃ の発熱があり,解熱剤の投与で平熱となったが,咳と鼻汁は依然としてみられていた.手術の延期を考えたが,術者からの強い要望もあって,手術を強行したものである.術中は特別なこともなく経過し,手術終了後覚醒であったので抜管したところ,直後より喘鳴が聴取され,努力性呼吸をし始めた. そこで直ちに再挿管して,気管内洗浄ならびに分泌物の吸引を繰り返し,再挿管1時間後には改善をみたので再び抜管して帰室させた.しかし次の日になり再びチアノーゼが出現したので,再び挿管して,気管内洗浄,吸引し,吸入ガスの加湿を行ない,薬物投与も併行させた.このように厳重な呼吸管理のもとで全身状態の回復をはかった結果,術後4日目に再び抜管したが,何らの異常も示さなかった.以後順調に回復し,術後18日目には無事退院させることができた.<BR>本報告の2症例ともに術前に風邪に罹患している症状がみられていたにもかかわらず,気管内麻酔のもとに術後の呼吸器系合併症を続発させた.いかに術者からの強い要望があったにせよ,このような患者では当然,手術を延期すべきであったと深く反省している.
著者
松島 芳文 大根 光朝 入野 孝男 桜井 昌彦 牧 睦
出版者
Japanese Cleft Palate Association
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.93-97, 1992

CF#1マウス3系統(CF#1/0hu,CF#1/Jms,およびCF#1/Jah)における自然発症の裂奇形について検索した.対照としてA/JマウスおよびSM/Jマウスを用いた.その結果は以下のようであった.<BR>1.CF#1の3系統はいずれも口蓋裂の単独自然発症を示し,発症率は約3%であった.唇顎口蓋裂および唇の発生は1例も認められなかった.対照のA/Jでは,口蓋裂が2.2%,唇顎口蓋裂が6.5%認められた.<BR>SM/Jでは,裂奇形は1例も認められなかった.<BR>2.CF#/1に発現した裂型は硬軟口蓋裂であった.A/Jでは硬軟口蓋裂と唇顎口蓋裂であった.<BR>3.CF#1における口蓋裂単独自然発症はヒト口蓋裂の遺伝的な発現様態との一致性を示唆した.<BR>したがって,CF#1マウスは口蓋裂遺伝子の解明に有用なモデル動物と考えられた.
著者
鵜飼 美穂 井藤 一江 石田 真奈美 藤田 有子 松浦 誠子 川野 広巳 山内 和夫
出版者
Japanese Cleft Palate Association
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.155-163, 1992
被引用文献数
1

広島大学歯・学部附属病院矯正科における治療段階と咬合状態を把握するために,1968年4.月から1989年3月までの21年間に診断用資料を採得した口唇口蓋裂患者532名(男子288名,女子244名)を対象に統計的調査を行い,以下の結果を得た.<BR>1.治療段階は,1991年3月の時点で,治療前・治療中が34.0%,保定中・保定後が37・8%,転出・中止が26.8%であった.<BR>2.保定中・保定後の患者186名の動的治療終了時の咬合状態は,前歯部・臼酋部ともに良好なもの(GOOD)が55.9%,前歯部または臼歯部に2歯以上連続してcross biteまたはopen biteがあるもの(POOR)が12.4%,それらの中間のもの(MEDIOCRE)が31.7%,であった・MEDIOCREのうち,顎裂部の骨欠損のために多少の不正はあるものの,現時点での治療の限界であると考えられる症例をGOODに含めると,71.0%は良好な結果が得られていた.<BR>(1)口唇裂,唇顎裂ではPOORはなかったが,片側性唇顎口蓋i裂の18.1%,両側性唇顎口蓋裂の12・5%,口蓋裂の7.7%はPOORであった.<BR>(2)1981年度以降に限ると,GOODと判定された症例の割合は59.9%に増加した.<BR>3.保定法を確認できた200名の上顎の保定装置は,レジン床122名,bonded lingual retainer38名,レジン床または舌側弧線装置とbonded lingual retainerの併用23名,その他の保定装置12名,保定装置なし5名であった.<BR>4.保定中にPOORに変化したのは,動的治療終了時がGOODの19.3%,MEDIOCREの29・2%であった.<BR>5.上顎の補綴法が確認できた61名の補綴装置は,ブリッジ24名,メタルプレート16名,ブリッジとメタルプレートの併用7名,その他14名であった.また,補綴処置を行わず終了した患者が19名あった.<BR>6.補綴後咬合が悪化したのは,補綴物(接着ブリッジ)が脱落した1名と,下顎の成長により前歯部と臼歯部の関係が悪化した2名であった.
著者
河野 紀美子 鈴木 陽 渡辺 美恵子 近藤 由紀子 向井 陽 大溝 法孝 高濱 靖英
出版者
Japanese Cleft Palate Association
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.159-170, 1989

九州大学歯学部附属病院矯正科における口唇裂口蓋裂患者の実態を把握するために,昭和45年8月の当科開設以来昭和63年末までに受診した口唇裂口蓋裂患者996名(男性525名,女性471名)を対象に臨床統計的観察を行い以下の結果を得た。<BR>1.初診時年齢のピークは3歳時であった。<BR>2.口唇裂口蓋裂の裂型別頻度は,唇裂6.0%,唇顎裂17.4%,唇顎口蓋裂59.8%,口蓋裂16.8%であった。<BR>3.裂の発生部位は左側53.4%,右側27.6%,両側18.6%であった。<BR>4.性差は唇裂で男性が女性の約1.4倍,唇顎裂では男女ほぼ同率,唇顎口蓋裂では男性が女性の約1.5倍,ロ蓋裂では女性が男性の約2.4倍であった。<BR>5.生下時の平均身・体重・低出生体重児の頻度は日本人一般平均と有意差は認められなかったが,早期出産傾向は有意に認められた。母親の年齢の影響は認められなかった。<BR>6.初診時における同胞数は2人が最も多く,出生順位は高位の者が多かった。末子である比率は66.9%であった。<BR>7.片側性唇顎口蓋裂患者の上顎歯列弓セグメントの接触状態は,接触型81.4%,遊離型11.8%,重複型6.8%であった。<BR>8.1歯以上の反対対咬(いわゆるクロスバイト)がある者は84.6%であった。反対対咬は前歯と破裂部位に隣接する歯牙に高頻度であった。乳歯列より永久歯列の方が反対対咬を呈する歯牙が多かった。<BR>9.当科受診後,矯正治療を受けなかった者の割合は,唇裂患者の23.3%,ロ蓋裂患者の21.6%,唇顎裂患者の16.7%,唇顎裂患者の11.8%であった。
著者
中島 龍夫
出版者
Japanese Cleft Palate Association
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.259-268, 2013

著者の片側唇裂初回手術にたいするこだわりは1)横方向の縫合線を避け,人中稜に沿った直線にする。2)出生後早期の手術で出来るだけ多くの問題を解決する。3)後日再手術がやりにくくなるような複雑なデザインは避ける。4)鼻筋,口輪筋の正確な同定縫合による口唇外鼻の形態改善。5)初回手術時と同時に行う外鼻形成術。などである。この趣旨に沿うべく今回報告した方法は1)鼻翼基部周囲の皮弁の内脚隆起後方への移動。2)Vermillion borderの上部で皮弁を利用せず被裂縁に弓状の組織欠損を作成し互いに縫合する。3)鼻筋の同定と矯正位への固定。4)外鼻形成。の4点に要約される。今回報告した方法によると術後の縫合線は人中稜の走行に沿った直線となり,長期の経過観察例でも縫合線は目立ちにくく,外鼻と鼻翼部の形態も良好であった。手術法を具体的に解説し本法を行うに至ったいきさつと中期的手術結果を報告し,これまでの手術法にたいする著者の考えを述べる。
著者
須賀 賢一郎 内山 健志 坂本 輝雄 吉田 秀児 村松 恭太郎 渡邊 章 澁井 武夫 田中 潤一 中野 洋子 高野 伸夫
出版者
Japanese Cleft Palate Association
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.320-325, 2009-10-30
被引用文献数
1

顎間骨が位置異常を示す両側唇顎口蓋裂術後患者に対して,唇側からの顎間骨の骨切りと顎裂部の骨移植を同時に行う顎間骨整位術の有用性を本学会雑誌の21巻2号に報告した。しかし,この到達法は,顎間骨部への血行の考慮と骨切り操作の点において検討の余地があることが判明した。そこで,1996年4月から2009年3月までの13年間に,同様の症状を呈した17名の両側唇顎(口蓋)裂術後患者に対し,口蓋側から顎間骨への到達と骨切りを行なったところ,以下の結論を得た。<br>1.全症例とも本到達法と骨切りは安全かつ容易に行えた。<br>2.切歯歯根尖より充分距離をおいた顎間骨の骨切りが可能であった。<br>3.顎間骨移動時の骨干渉部の削合も頭部の後屈で容易に行えた。<br>4.以上のことから,顎間骨整位術を施行する場合,顎間骨部への到達と骨切りは口蓋側から行うべきであることを推奨する。