著者
佐藤 敏彦 佐藤 康仁 平尾 智広
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.141-150, 2009

保健医療政策の優先順位付けを行なうために疾患別の疾病負担データは重要である。さらに,今後の政策を策定するには現状の疾病負担のみならず,その将来予測もまた重要となる。本研究では,保健医療政策の施策に資するデータを提供することを目的に,わが国の官庁統計データを用いて回帰モデルにより傷病別の患者数および死亡数の将来推計を行った。その結果,年齢別推計総死亡数は,2010年は116万人,2020年は134万人,2030年は142万人と増加し,85歳以上の死亡割合はそれぞれ38%,51%,59%と顕著な増加を示した。傷病別の死亡数は2005年と同様,将来推計においても,新生物,循環器疾患,呼吸器疾患の順であり,新生物,呼吸器が男女とも大幅な増加を示したが,循環器疾患は心疾患が増加するものの脳血管疾患が減少するためにほぼ横ばいの結果となった。患者調査の入院率と国民生活基礎調査の通院率を用いて推計した全患者数は2005年に4,273万人であるのに対し,2010年,2020年,2030年には,それぞれ4,417万人,4,556万人,4,480万人であった。65歳以上の割合は2005年からそれぞれ,40%,44%,53%,56%と2020年以降は総患者の過半数を占めた。患者調査データを元にした傷病別推定患者数において2005年から2030年に増加を示したのは感染症(32%増),気管・気管支・肺がん(98%増),糖尿病(38%増),認知症(105%増),統合失調症(32%増),神経系疾患(138%増),高血圧(25%増),肺炎(210%増),脊柱障害(51%増),腎疾患(51%増),前立腺肥大(111%増)等であった。一方,減少を示したのは胃がん(58%減),虚血性心疾患(67%減),脳血管疾患(49%減)となった。国民生活基礎調査の通院率より推計した傷病別患者数はいずれも患者調査に基づく推計値を大幅に上回ったが,糖尿病,認知症,高血圧,脳血管疾患が2~3倍であるのに対し,通院率を用いた推計では増加傾向を示した狭心症・心筋梗塞は4倍~10倍以上にまで,その差が広がる結果となった。その原因として,実際には多くの患者は自己中断や延期をすることや,計算式に用いる平均診療間隔が実態と乖離していることなどがあるものと思われた。

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