著者
植野 和文
出版者
The City Planning Institute of Japan
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:1348284X)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.76-76, 2003

本稿では明石海峡大橋の開通(平成10年4月)が津名町民の余暇活動に及ぼした影響を分析した。ここでの影響とは、本州への交通がより便利な陸上ルートに切り替わったことに住民の余暇活動がどのように反応したか、そしてその結果を彼らはどのように評価したのか、ということである。 調査は開通の4ヶ月前の平成9年12月と、開通の1年9ヶ月後の平成12年1月に、いずれも20歳以上の住民400人を対象に郵送調査法で行われた。設問では余暇活動の場所として提示した23地区から活動の領域ごとに重要な地区を複数(最多3つ)選ばせたうえで、それらを地理的条件、交通条件、余暇活動機会などを考慮して7地域(津名町、津名町を除く淡路地域、神戸・阪神、京阪地域、西・北地域、徳島県、その他全国)にグループ化した。活動の9領域における回答を地域ごとに合算し、それらをいずれかの領域で余暇活動を行っている有効回答者数で除した値を余暇活動水準とした。得られた知見は以下のとおりである。 第一に開通後の活動水準の変化でみる限り、大橋の影響はあまり大きくはない。それでも開通後に余暇活動が「神戸・阪神」「その他全国」で活発になり、「津名町」「京阪地域」を除く地域では活動水準の個人差が広がった。さらに余暇活動環境(神戸・大阪へのアクセス、公共交通サービス、余暇活動の利便性、余暇生活)のすべてにおいて満足水準が上昇した。ただし活動圏が地域的に分散する傾向はみられなかった。 第二に大橋を多用する人はそうでない人に比べると、島外での余暇活動が活発で、かつ活動水準の個人差も大きく、さらに活動圏が一層地域的に分散している。そのうえ余暇生活の満足水準が高い。 第三に大橋を多用する人でも活動圏が拡大した人はそうでない人に比べると、本州の一部地域で余暇活動が活発で、かつ活動の個人差も大きいが、活動圏の地域的な分散では差はみられなかった。さらに余暇活動環境のすべてにおいて満足水準が高い。 第四に余暇活動が本州で活発になっても、島内での活動水準と活動の地域分布は安定しており、活動が島外に流出して島内の活動が低迷するという現象はみられなかった。最 後に大橋は多くの地域で余暇活動水準の個人差を広げたが、このことは影響が住民均等に及ぶのではなく、余暇活動に対する彼らの態度や生活状件に依存することを示している。 同時にいくつかの課題も残された。第一に今回の分析では9領域の余暇活動を統合したデータを用いたが、余暇活動の領域によって活動圏や大橋利用の必要性が異なるため、余暇領域ごとの実践者を対象にした分析が必要である。 第二に今回の知見の一つは大橋が余暇活動の個人差を拡大することであった。これが住民一般を対象にした開通前後の影響分析で明瞭な結果が得られなかった理由の一つと考えられる。属性、生活条件、大橋の利用パターンなどをもとに調査対象を選別して影響分析を行う必要がある。 第三に余暇活動への影響には大橋の出現が活動を誘発する側面と、開通にともなって整備された島内外の余暇資源が活動を誘発する側面がある。いずれも長期的な観察が必要であるが、今回は開通後2年足らずの短期的な影響を分析したに過ぎない。得られた知見を仮説として継続的な調査と研究が必要である。 第四に調査で得られたデータの数が少なかったことが、いくつかの統計的検定を難しくし、影響分析の結果に曖昧さを残したことは否めない。上記の課題に応えるためには、十分なデータの確保に努める必要がある。

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