著者
福島 秀晃 三浦 雄一郎 布谷 美樹 鈴木 俊明 森原 徹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0600, 2007

【目的】肩関節疾患患者が肩甲骨挙上筋群の過剰収縮と前鋸筋の収縮不全によって、肩関節屈曲初期より肩甲骨の不安定性を呈することを頻繁に経験する。そのため理学療法では前鋸筋の筋力強化や筋再教育、肩甲骨挙上筋群の抑制が必要となる。前鋸筋の筋力強化は諸家の報告により様々な方法が紹介されているが、これらの方法を有疾患患者に適応した場合、肩甲骨挙上筋群の過剰収縮を招きやすく本来の目的を達成しているかは疑問を感じる。本研究目的は、肩関節屈曲運動にて運動肢位を変化させた時の僧帽筋上部・下部線維、前鋸筋下部線維の筋活動を筋電図学的に分析し、肩甲胸郭関節の安定化に対する運動療法を再考することである。<BR>【方法】対象は健常男性5名両側10肢(平均年齢30.2±4.3歳、平均身長177.8±8.7cm、平均体重76.2±8.5kg)。対象者には事前に本研究の目的・方法を説明し、了解を得た。測定筋は僧帽筋上部線維、下部線維、前鋸筋下部線維、三角筋前部線維とし、筋電計myosystem1200(Noraxon社製)を用いて測定した。具体的な運動課題は座位、背臥位の各肢位にてそれぞれ肩関節を0°、30°、60°、90°、120°、150°屈曲位を5秒間保持させ、それを3回施行した。分析方法は座位での肩関節屈曲0°位の筋電図積分値を算出し、これを基準に各肢位、各角度での筋電図積分値相対値(以下、相対値)を算出した。各筋の相対値を各角度にて座位と背臥位間で対応のあるt検定を行った。<BR>【結果】僧帽筋上部線維の相対値は屈曲60°~150°間にて座位と比べ背臥位にて有意に減少した。僧帽筋下部線維および前鋸筋下部線維の相対値は屈曲30°では座位と比べ背臥位にて増加傾向を示したが、90°~150°間では有意に減少した。三角筋前部線維の相対値は屈曲30°では座位と比べ背臥位にて有意に増加し、60°~150°間では有意に減少した。<BR>【考察】背臥位での肩甲帯は胸郭に対し平面位となり、僧帽筋上部線維の活動は重力の影響が軽減される肢位である。肩関節屈曲60°より肩甲骨は上方回旋することから、屈曲60°以上での活動減少は、背臥位という運動肢位が僧帽筋上部線維の活動を発揮させにくい肢位であることが示唆された。三角筋前部線維の相対値は背臥位での屈曲30°にて有意に増加した。これは肩関節屈曲30°で生じる肩関節への力学的な伸展モーメントは背臥位の方が増大することから、これに抗するための筋活動増加であると考える。三角筋前部線維の活動は、肩甲骨と上腕骨の連結を行い、その伝達された力は浮遊骨である肩甲骨に不安定性を生じさせる。背臥位での屈曲30°で僧帽筋下部線維、前鋸筋下部線維の相対値が増加傾向を示したのは、肩甲骨の不安定性に対する制動の役割が座位よりも大きいことが示唆された。

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