- 著者
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関屋 曻
山崎 弘嗣
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2007, pp.A0870, 2008
【目的】車椅子ウィリーのスキルは、身体障害を持つ患者、特に脊髄損傷による対麻痺患者のための重要なスキルの一つである。その重要性にもかかわらず、このスキルに関する基礎的な研究は極めて少ない。McInnes(2000)は、静止ウィリーのための視覚の重要性を示し、Bonarparte(2001)はproactive strategyが静止ウイリーの遂行のために使われていることを示唆した。これらの研究は圧中心をメジャーとしたものであるが、このスキルの理解のためには、他の運動学的パラメータが適切である可能性がある。そこで、本研究では、車椅子ウイリー動作の生体力学的計測を行い、その遂行メカニズムを明らかにし、このスキルを評価するための適切なパラメータを選定することを目的とした。<BR>【方法】 この研究は昭和大学保健医療学部倫理委員会の承認を得て実施された(承認番号12)。10人の健常女子学生(平均年齢20.9(sd=1.8))を対象とし、この研究に関する十分な説明の後に同意を得た。全ての被験者は、2分間の静止ウイリー技能を既に獲得していた。運動課題は、標準型車椅子に乗り、90×120cmの枠の中(60×90cmの床反力計2枚)で、1分間の静止ウイリーを遂行することであった。被験者の身体と車椅子に反射マーカーを貼り付け、3次元動作解析装置VICON370システム(Oxford Metrics)でキネマティクスを、床反力計(Kisler)で床反力を計測した。得られたデータから、定常状態と判断された20秒間のデータについて解析を行った。計測パラメータとして、床反力前後分力(F)、圧中心(COP)、車椅子車軸位置(D)、車椅子傾斜角(Ang)、傾斜角速度(Vel)、傾斜角加速度(Acc)、重心位置(COG)を用いた。<BR>【結果】全ての被験者が、指定された範囲の中で静止ウイリーをすることができた。COPはCOGおよびDとともに前後に大きく変位し、その中で、COPとDは同様の動きを示した。COP位置は、COG位置との関係では、COGを中心として前後に周期的に動いたが、COP位置そのものとAngとの関係は時間とともに弱くなった。COP、COGおよびAngの関係では、車椅子が後方傾斜するときにCOPはCOGの前方に、前方傾斜のときには後方に動いた。この動きはバランスの回復ではなく、逆に転倒に働く動きであった。AngとFの関係は、車椅子が前方に傾斜する場合にはFが前方で、車椅子が後方傾斜のときにはFが後方であり、両者は強い関連を示した。<BR>【考察】以上の結果より、COPは車椅子ウイリーのバランス制御を詳細に理解するための適切なパラメータではないと考えられた。一方、床反力前後成分は、車椅子傾斜と強い関連を示し、また、バランスの回復を示す向きに働くものであり、より適切なパラメータであることが示唆された。