著者
武田 尊徳 山崎 弘嗣 田代 英之 中村 高仁 星 文彦
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.62-67, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
13

本研究は歩行中の重心移動のパターンを評価するための基礎的な指標を得ることを目的とし,jerk最小モデルから予測される運動軌道との差を検討した。対象は健常成人女性8名とし,3次元動作解析装置を用いて歩行時の重心移動を計測した。jerk最小モデルを用いて計算される1歩行周期の重心移動の最適軌道を基準とし,軌道波形のピークの位置から定性的な一致度を調べ,前後,左右,上下の3方向で実測値との差の実効値を算出した。前後,左右方向の実測軌道と最適軌道は波形が類似しており,上下方向においては軌道のパターンの差が顕著であった。重心変位の最大値で正規化した実効値は左右方向15.7%,前後方向2.4%,上下方向70.1%であった。左右,前後の2方向において健常成人における実測軌道は予測した最適軌道に近似し,本研究で示した数値を用いて歩行動作の機能的制限を定量化することが可能である。本研究は歩行動作における重心移動解析の基礎的資料となり得る。
著者
池田 俊輔 蛯名 麻衣 平野 祥代 大野 駿人 山崎 弘嗣
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.H4P2359, 2010

【目的】応用歩行の獲得は理学療法の重要な目標の一つであるが、応用歩行が運動学的にどのような歩行であるのか基礎的な理解に乏しい。本研究の目的は健常成人の歩行者交通流(集団での歩行中)での個人の運動学的変数とりわけ空間的変数の特徴が、自由歩行における特徴とどのように異なるかを明らかにすることである。<BR>【方法】運動器系及び神経系に障害のないのべ60名(実質47名、男性20名、女性27名、年齢21.6±2.6歳)の大学生を対象とし、6種類の条件でのすれ違い歩行(3つの人数条件×2つの床面設定条件)を行った。3つの人数条件(10人、20人、30人)共に同人数に分かれた2集団が幅1.28mの平坦な廊下を相対する向きに歩行し(counterflow)、他人に衝突しないようにすれ違い所定の距離を歩くことが課題である。集団は16m離れた向かい合う開始線から歩き出す床面設定(プランA)と、2集団が直接対面した状態で歩行を開始する床面設定(プランB)との2通りで1cm四方の目盛りが刻まれた歩行路上を歩いた。各条件10名(のべ30名、実質25名、男性10名、女性15名、年齢21.5±1.2歳)の立脚足踵部の座標をデジタルビデオカメラで撮影し歩幅と歩隔、歩行速度を計測した。<BR>【説明と同意】全ての対象者に本研究の目的と実験方法について説明を行い、書面で同意を得た。<BR>【結果】プランAでは集団人数の増加と共に歩行速度は1.08±0.31(m/s)、1.03±0.11(m/s)、0.78±0.12(m/s)と低下し、プランBでも1.06±0.11(m/s)、0.86±0.10(m/s)、0.67±0.13(m/s)と低下した(p<0.01)。プランAでの歩幅は集団人数の増加と共に55.6±17.8(cm)、54.0±20.2(cm)、44.8±22.5(cm)と狭小化し、プランBでも58.8±16.4(cm)、49.2±20.0(cm)、38.8±24.0(cm)と狭小化した(p<0.01)。歩幅の標準偏差は人数増加に伴い増加する傾向にあった。プランAの歩隔は平均で9.80±7.87~10.9±8.35(cm)にあり、プランBでは10.3±7.67~12.3±10.2(cm)にあった。<BR>【考察】歩行者交通流の集団人数の増加に伴う歩行速度の低下は複数の先行研究の結果と一致した。歩行速度は集団の人数の関数であることが示唆された。本研究は、その歩行速度の低下が、個人の歩幅の減少と対応していることを示した。しかし歩幅は自由歩行に比べて狭く、そのばらつきも大きく、もはや歩行運動を代表する周期変数としての特徴を失っていた。つまり単に前進運動として歩行するのではなく衝突回避を行うための進行方向変更あるいは移動停止や加速を含めた運動調節を行うために下肢の運動を調整していることを反映していると考えられる。殊にcounterflowにおいては、自由歩行で仮定している周期的な歩行運動から逸脱する運動であるために、歩行速度の低下と歩幅の減少の関係は、歩行率を介する関係式(歩行速度=歩幅×歩行率)から予測できるものではない。今後は歩行周期(時間的変数)の変動との関連を明らかにすることが必要であろう。<BR>【理学療法学研究としての意義】歩行者交通流における個人の歩行の運動学的特徴は、平均的には自由歩行にくらべて遅い歩行速度と狭い歩幅である。しかしそれらは、例えば10m歩行テストによって明らかになるような周期変数としての特徴は区別されるべきであり、応用歩行の運動学的特徴は自由歩行あるいは自然歩行の延長線上に位置づけられない。応用歩行の特徴は、非周期的な強制歩行の特徴として記述される可能性がある。<BR><BR>
著者
関屋 曻 山崎 弘嗣
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A0870, 2008

【目的】車椅子ウィリーのスキルは、身体障害を持つ患者、特に脊髄損傷による対麻痺患者のための重要なスキルの一つである。その重要性にもかかわらず、このスキルに関する基礎的な研究は極めて少ない。McInnes(2000)は、静止ウィリーのための視覚の重要性を示し、Bonarparte(2001)はproactive strategyが静止ウイリーの遂行のために使われていることを示唆した。これらの研究は圧中心をメジャーとしたものであるが、このスキルの理解のためには、他の運動学的パラメータが適切である可能性がある。そこで、本研究では、車椅子ウイリー動作の生体力学的計測を行い、その遂行メカニズムを明らかにし、このスキルを評価するための適切なパラメータを選定することを目的とした。<BR>【方法】 この研究は昭和大学保健医療学部倫理委員会の承認を得て実施された(承認番号12)。10人の健常女子学生(平均年齢20.9(sd=1.8))を対象とし、この研究に関する十分な説明の後に同意を得た。全ての被験者は、2分間の静止ウイリー技能を既に獲得していた。運動課題は、標準型車椅子に乗り、90×120cmの枠の中(60×90cmの床反力計2枚)で、1分間の静止ウイリーを遂行することであった。被験者の身体と車椅子に反射マーカーを貼り付け、3次元動作解析装置VICON370システム(Oxford Metrics)でキネマティクスを、床反力計(Kisler)で床反力を計測した。得られたデータから、定常状態と判断された20秒間のデータについて解析を行った。計測パラメータとして、床反力前後分力(F)、圧中心(COP)、車椅子車軸位置(D)、車椅子傾斜角(Ang)、傾斜角速度(Vel)、傾斜角加速度(Acc)、重心位置(COG)を用いた。<BR>【結果】全ての被験者が、指定された範囲の中で静止ウイリーをすることができた。COPはCOGおよびDとともに前後に大きく変位し、その中で、COPとDは同様の動きを示した。COP位置は、COG位置との関係では、COGを中心として前後に周期的に動いたが、COP位置そのものとAngとの関係は時間とともに弱くなった。COP、COGおよびAngの関係では、車椅子が後方傾斜するときにCOPはCOGの前方に、前方傾斜のときには後方に動いた。この動きはバランスの回復ではなく、逆に転倒に働く動きであった。AngとFの関係は、車椅子が前方に傾斜する場合にはFが前方で、車椅子が後方傾斜のときにはFが後方であり、両者は強い関連を示した。<BR>【考察】以上の結果より、COPは車椅子ウイリーのバランス制御を詳細に理解するための適切なパラメータではないと考えられた。一方、床反力前後成分は、車椅子傾斜と強い関連を示し、また、バランスの回復を示す向きに働くものであり、より適切なパラメータであることが示唆された。