著者
佐倉井 紀子 古閑 さやか 芦田 朋子 佐倉 伸夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.B0665, 2008

【はじめに】重症心身障害児(者)の緊張の緩和、体幹や下肢のストレッチを行う場合、対象者の姿勢としては背臥位で頭部と体幹を床につけたまま臀部を挙上する、または腹臥位を取ることが多い。しかし、臀部挙上では、伸展パターンの強い障害者は緊張が増してストレッチが難しく、また腹臥位を取る方法では、酸素吸入中、人工呼吸器装着中、体が大きい、骨粗鬆症などの障害者にとっては体位変換が困難で、すぐさま行いにくい。そこで背臥位でプラットフォームより膝下を下垂する肢位を取ってアプローチをしたところ、全身の緊張が軽減し、体の左右対称度も増していることに気がついた。更に股関節外転位の蛙状変形についても、正中方向へのストレッチ効果があった。そこで、筋緊張の非対称によって体幹下部、股関節に変形が生じている重症心身障害児(者)に対して、背臥位から膝下下垂肢位を取った場合の対称性の改善率をみて比較検討を行うこととした。<BR>【対象】重症児(者):大島分類1;21名 (風に吹かれた股関節;14名、 蛙状肢位;7名)<BR>【方法】対象者の床上での背臥位と、膝下下垂肢位の6点評価を行い、各測定角度の左右非対称性の改善率を出して効果をみた。風に吹かれた股関節の測定では両角の平均値からの差を偏位とし、蛙状肢位の股関節部は90度との差を偏位として次の式にて改善率を計算した。改善率(%)={(背臥位の偏位-膝下下垂の偏位)/背臥位の偏位}×100<BR>【結果】膝下下垂肢位にて対象者全員に非対称改善の効果が見られ、背臥位と比較して風に吹かれた股関節の体幹下部は約47%、股関節部は約56%、蛙状肢位の股関節部は約52%の改善を認めた。<BR>【考察】単に膝下を下垂する姿勢をとるだけで、体幹と股関節の非左右対称性が50%ほどに改善する。腹臥位姿勢での管理は体幹部の非対称性改善に効果的であるといわれているが、膝下下垂肢位においても対称性が改善される理由として、背臥位では屈曲位になりがちな股関節を腹臥位と同様に伸展するためと考える。股関節屈筋群が足の重みで無理なく伸張されて、全身の対称性も増し、背面にかかる圧力も均等化されるためリラックスを得やすい。人工呼吸器装着中の方にも取り入れやすく、膝下下垂したまま上肢のアプローチを行えば体幹と上下肢を同時にストレッチすることになり効率も良い。更に対称性が改善されることで治療姿勢として次のような有効性がある。1)風に吹かれた股関節の下側下肢のストレッチが行いやすい2)風に吹かれた股関節のねじれ型も下肢正中位でもねじれが増さない3)蛙状肢位の腰椎後彎を前彎方向にストレッチしやすい4)座位姿勢への移行も良好である5)伸展パターンが抑制されアプローチしやすい6)下肢の交叉が強い場合も寝返りできる。膝下下垂肢位を日常的なポジショニングとして使用し、経時的な変化を見ていくことが今後の課題である。

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