著者
向井 公一 三谷 保弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1088, 2011

【目的】Functional Reach Test(以下、FRT)は、動的バランス能力を評価できるとされている。しかし、中村らは、FRTでの最大リーチ距離と足圧中心移動距離には相関が見られないことを報告し、対馬らは、FRTの結果は、関節運動戦略によりリーチ距離や重心の前後移動距離、重心動揺面積が変化することを報告するなど、評価指標としての妥当性について、疑問を投げかける報告が散見されている。今回の研究では、FRTによる重心移動とリーチ距離との関係を明らかにすることを目的とした。<BR><BR>【方法】整形外科的および神経学的疾病を有しない健常男子大学生14名(平均年齢20.6±0.8歳、平均身長171.7±7.2cm、平均体重61.9±5.4kg、平均足長25.2±1.2cm)を対象とした。<BR>被験者は、足位を閉脚とした静止立位にて一側上肢を水平挙上した状態を開始肢位とし、3秒の静止後、合図と共に上肢を出来る限り前方へリーチし3秒間保持する。この際に、1:特に動作に規定を行わず、自由に行わせる(FRT1)、2:開始肢位よりも殿部が後方へ移動しないように制限する(FRT2)という2種類を運動課題とした。両課題共に、動作中は足底全面が設置していることとし、3回計測を施行した。FRT2の施行に際し、殿部後方に棒を設置して動作中に棒に触れた場合は課題の再施行とした。測定器具として、リーチ距離は超音波式距離計測装置(マイゾックス社製P-13)を用いて計測した。また、重心移動距離は重心動揺計(アニマ社製G5500)を用いた。重心移動距離の算出は、安定してほぼ静止している状況では本来の体重心の軌跡とCOPが一致すると仮定し、機器により算出される足圧中心軌跡長(以下、COP)を身体重心の軌跡とした。これに基づき、3秒間の静止立位における前後方向の平均値から、最大リーチ時の前後方向の平均値を差分し、FRT時の重心移動距離とした。尚、リーチ距離および重心移動距離は、身体特性による影響を取り除くため、身長および足長で各々正規化した。統計学的解析は、ピアソンの相関係数、対応のあるt検定を用い、危険率5%とした。<BR><BR>【説明と同意】本研究に際して、実験における意義や目的について十分に説明し、書面にて同意を得た。説明は、本研究の意義、目的、研究参加に伴う不利益や個人情報保護などについて行った。尚、本研究は四條畷学園大学倫理委員会において認証されている。<BR><BR>【結果】各試行の最大リーチ距離は、FRT1は38.1±6.1cm、FRT2が26.2±7.8cm(mean±SD)となり、FRT1が FRT2に比べ有意に長い結果であった(p<0.05)。FRTにおけるCOP移動距離は、FRT1は36.2±7.7%、FRT2が36.6±10.9%(mean±SD)であり、各条件による有意差は認められなかった(p<0.05)。また、リーチ距離とCOP移動距離の関係は、FRT1がr=0.461、FRT2はr=0.354となり、何れも弱い相関関係であった。<BR><BR>【考察】Duncanらの報告では、リーチ距離とCOP移動距離には相関を認めている。今回の結果も相関を認めているものの弱いことから、重心移動をFRTが反映しているとはいい難い。また、FRTの運動戦略として重要と考えられる、股関節戦略を制限したFRT2において、制限を加えなかったFRT1とCOP移動距離には差は認められないが、リーチ距離には差を認めている。この理由として、動作による重心移動は、基底面内での最大前方移動は身体の各重心の位置関係によらず決定するため、股関節戦略を制限したとしても有意な差とはならなかったと考えられた。一方リーチ距離は、関節の自由度によって決定されるため、股関節戦略を制限された場合自由度が少なくなることから、結果として有意に減少したと考えられた。従って、特に異なる股関節運動戦略を用いたFRTを行った場合、リーチ距離の差によって重心移動能力を判定することが必ずしも妥当ではないことを示したと考える。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】FRTは、理学療法の対象者に対する動的バランスの評価として広く使用されている。しかしながら、動的バランスの評価とする場合、重心移動と相対的な関係性が認められる必要があると考えられるが、検証が十分でない。今回の研究で評価指標としての妥当性について明示できたことは、よりよい評価指標へ改善する一助となると考えられる。

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こんな論文どうですか? Functional Reach Testの動的バランス評価としての妥当性(向井 公一ほか),2011 https://t.co/fFhqDrzCjW 【目的】Functional Reach Test(以下、FRT)は、動…
こんな論文どうですか? Functional Reach Testの動的バランス評価としての妥当性(向井 公一ほか),2011 https://t.co/fFhqDrzCjW 【目的】Functional Reach Test(以下、FRT)は、動…

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