- 著者
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湯田 健二
石井 慎一郎
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2010, pp.CaOI2038, 2011
【目的】<BR>我々は第45回日本理学療法学術大会にて、大腿骨前捻角度(以下前捻角)の違いが歩行立脚期中の膝関節運動に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、歩行立脚期における膝関節内外反、膝関節内外旋、大腿内外旋、下腿内外旋の角度を調査し、前捻角が大きくなるほど立脚初期の下腿内旋角度と立脚後期の膝関節外反角度が増加することを報告した。今回は歩行立脚期中の股関節内外旋角度及び骨盤回旋角度を調査項目に加えることで、前捻角の違いが歩行立脚期中の膝関節運動に及ぼす影響を更に明確にすることを目的とした。<BR>【方法】<BR>対象は、本研究の主旨に同意の得られた中枢神経疾患、整形外科疾患既往のない健常成人20名(男性11名、女性9名、26±6歳)とした。分析課題は定常歩行とし、三次元動作解析装置VICON(Vicon-peak社製)を用いて計測した。マーカー添付位置は両側上前腸骨棘・両側上後腸骨棘の中央・大転子・大腿骨内外側上顆・脛骨内側顆・腓骨頭・脛骨内果・腓骨外果とし、それぞれの座標系を用いオイラー角を算出した。三次元動作解析装置から得られたデータをBodyBuilder(Vicon-peak社製)を用いて計算式を導入した上で、1)膝関節内外反、2)膝関節内外旋、3)股関節内外旋、4)骨盤回旋、5)大腿内外旋、6)下腿内外旋の角度を算出した。立脚初期の膝関節内反角度ピーク値及び立脚後期の外反角度ピーク値を膝関節内外反角度の代表値とし、膝関節内外反角度ピーク値出現時の上記2)~6)の値をそれぞれの代表値とした。前捻角はCraigテストを用いて計測し、上記1)~6)の角度との関係を調べた。統計処理はそれぞれの平均値を解析値としてPeasonの積率相関係数を用いて検定をし、有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>研究参加者に対し本研究の目的・方法を十分に説明した上で、「ヘルシンキ宣言」に基づいたインフォームド・コンセントを行い、同意書を用いて本研究への参加協力の同意を得た。<BR>【結果】<BR>前捻角と股関節内外旋角度の関係では、前捻角と立脚初期の股関節内外旋角度に有意な相関が認められ(r=0.508、p<0.05)、前捻角が大きくなるほど立脚初期の股関節内旋角度が増加する傾向がみられた。前捻角と骨盤回旋角度及び大腿骨回旋角度には相関は認められなかった。前捻角と膝関節内外反角度の関係では、前捻角と立脚後期の膝関節外反角度に有意な相関が認められ(r=0.604、p<0.01)、前捻角が大きくなるほど立脚後期の膝関節外反角度が増加する傾向がみられた。また前捻角と立脚初期の下腿回旋角度に有意な相関が認められ(r=0.529、p<0.01)、前捻角が大きくなるほど下腿の内旋角度が増加する傾向がみられた。前捻角と膝関節回旋角度には相関は認められなかった。<BR>【考察】<BR>分析結果として、前捻角が大きくなるほど、立脚初期の股関節内旋角度と下腿内旋角度、さらに立脚後期の膝関節外反角度が大きくなるということが分かり、本研究により以下の内容が明らかになった。1.前捻角増加に伴い、歩行立脚初期の股関節内旋角度が増加し、大腿骨頭と寛骨臼の不適合を是正していることが考えられた。立脚初期に股関節の内旋角度を増加させるための、骨盤、大腿の回旋パターンは様々であり、その方略は多岐にわたっていた。2.前捻角の増加によって出現する、いわゆるknee-inアライメントは、立脚初期の下腿内旋運動及び立脚後期の膝関節外反運動によって作り出されるものであると考えられた。3.過剰な前捻角を有し、なおかつ立脚初期の股関節内旋方向への制動が欠如している場合においては、下腿内旋に対する制動が過剰に必要となり、脛骨-大腿骨の直立化による安定メカニズムが破綻し、膝関節には外反方向へのメカニカルストレスが発生する可能性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>変形性股関節症の一要因として過度な前捻角があげられる。本研究は前捻角の違いが歩行立脚期中の膝関節運動に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、前捻角の違いが膝関節内外反角度、膝関節内外旋角度、股関節内外旋角度、骨盤・大腿・下腿の回旋角度に及ぼす影響を調査した。変形性股関節症に随伴して発症する変形性膝関節症(coxitis knee)は、有病率の高さが指摘されながらも、その発生機序や頻度に対する報告は散見し未だ明らかにされていない。Kinematicsやkineticsを元にそのメカニズムを明確にしていくことによりcoxitis kneeへの対策とその予防的アプローチを検討していくことが必要であり、本研究はその一助になると考える。