著者
山田 洋一 堀本 ゆかり
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.GbPI1476-GbPI1476, 2011

【目的】理学療法士(以下PT)養成校での教育目標は、「ある程度の助言の下で基本的理学療法が行えるレベル」とされ、卒業後、所謂「一人前」と言われるレベルまでの教育は、所属施設を中心に行われている。しかし、臨床現場における教育方法に、決められた手法はない。養成校教育での教育目標はブルームによる「認知領域」、「精神・運動領域」、「情意領域」の3つの領域「Taxonomy」に分けられているが、卒後教育ではあまり使用されることはない。特に、「情意領域」は、臨床実習で重要視されている反面、卒後教育では個性として解釈されるように思われる。今回の調査では、多項選択肢、自由記載等による無記名「自己認識アンケート」と「PRESIDENT版ゴールドバーグ性格検査」を医療施設に勤務するPTに行い、臨床現場で働くPTの意識調査を行い、「性格特性」との関連に知見を得たので報告する。<BR>【方法】静岡県内の医療施設を無作為に抽出し、そこに勤務するPTに郵送で調査を行った。調査期間は平成22年10月18日から10月22日までとし、5施設67名から回答を得た(回収率:100%)。対象者の内訳は、平均年齢29.5±6.5歳、平均経験年数6.4±5.7歳(男性42名、女性25名)最終学歴は、大学院1名、大学6名、短大1名、4年生専門学校23名、3年生専門学校36名である。統計解析は(株)日本科学技術研修所 JUSE StatWorks Ver.4.0を使用し、数量化1類で解析した。<BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言に準拠し、対象者には本研究の意義を説明し、同意を得たうえで実施した。<BR>【結果】まず、「免許取得後、一人前と判断する経験年数」は、経験年数に関係なく、概ね10年前後と回答しているものが多かった。「自己意識で治療技術と学術面のいずれの重要度が高いか」の質問では、経験年数が低いほど「治療技術向上」の重要度が高いと回答した。さらに「論文等への興味の有無」で層別化したところ経験年数が上がるにしたがい、「興味がない」と回答した者は「治療技術向上」の重要度が増加し、「興味がある」と回答した者は「学術的向上」が増すという傾向を示していた。<BR>「PRESIDENT版ゴールドバーグ性格検査」の結果では、「神経症傾向」が高い者のほうが「治療技術」の重要度が高い傾向がみられた。また、今後の自己課題の内容を問う設問では、臨床能力・問題解決能力・教育力・折衝力・リーダーシップ力・マネジメント力のうち「外向性」が低い者ほど「問題解決能力」が課題であると回答していた。さらに、目的変数を「一人前と判断する経験年数」とし、相関係数行列で関係性の強い変数を選択し数量化1類で解析したところ、今後必要とされる要因では「教育力」、「治療技術」、「マネジメント力」、性格特性では「外向性」が選ばれた(重相関係数 0.752)。選ばれた変数の中でも特に「教育力」の分散比が大きい傾向であった。<BR>【考察】ノーマンは人間の性格特性を「神経症傾向」、「外向性」、「開放性」、「調和性」、「誠実性」の因子に収斂されるとした。この性格特性と職業適性の間には高い相関性があるとしている。我々の業務の中心は患者と向き合い、理学療法を通して医学的側面から患者の社会適応性を高めることである。しかし、それ以外に日常的にそれぞれのポジションによる管理業務や調整、採算の効率化、教育なども行っていかなければならない。今回の回答で、解析上、PTが「一人前」になるための条件として「教育力」が選択されたことは、治療技術向上だけではPTとしての完成形ではないという意識の現れであると思われる。卒後教育に多くを依存する治療技術の習熟にはある程度のトレーニング期間が必要である。日常業務の中で上質な治療技術を提供し、患者貢献に役立てたいと思う若手の焦りは当然であろう。しかしながら、専門理学療法士制度にも垣間見るように理学療法は科学的根拠に基づく治療技術のスタンダード化を求められている。根拠のある治療技術の習得の基盤は学術的実績の積み重ねであることを認識することが重要と思われる。<BR>また、若手の教育では性格特性を踏まえて、教育法を選択しキャリア構築することが重要と思われる。中堅職員の育成に向け、早期に臨床的技術・学術・性格という3要素を考慮し、職場内教育を展開することは、組織の戦略上重要な課題であると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】専門理学療法士制度では、臨床技術・学術の双方の能力が求められている。この数年急増している若手職員の教育の如何では、PTの質の低下は加速する事が懸念される。さらにそれは彼らが教育する臨床実習生にも波及していく。若手のリテラシーの低下が懸念されるなか、より効率的な若手教育に向け意識や要因を分析し、教授方法を検討することは急務であると考える。

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こんな論文どうですか? 医療施設に勤務する理学療法士の自己認識と性格特性の関係について:自己認識アンケートとゴールドバーグ性格検査より(山田 洋一ほか),2011 https://t.co/1depuwfbYH

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