- 著者
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新井 智一
- 出版者
- 人文地理学会
- 雑誌
- 人文地理学会大会 研究発表要旨
- 巻号頁・発行日
- vol.2008, pp.301-301, 2008
1.はじめに 東京大都市圏郊外に位置する多摩地域西部では2000年以降,ショッピング・モール,大規模スーパーマーケットやホーム・センターの進出が著しい.従来の商業地理学では,いわゆる大店法の改正や大店立地法の成立に見られるような,流通規制緩和に伴う大規模商業施設の進出についての研究は数多いものの,商業施設の進出をより大きな政治的背景から検討したものは少ない.そこで本研究は,多摩地域西部における大型ショッピングセンターの進出について概観し,このうち西多摩郡日の出町の「イオンモール日の出」開業の政治的背景について明らかにすることを目的とする. 2.多摩地域西部における大型ショッピングセンターの進出 多摩地域西部において,2000年以降に開業した主な郊外型大規模商業施設は,アウトレット・モール,ショッピング・モール,大規模スーパーマーケット,大規模ホーム・センターに分けられる.また,開業前の土地利用に着目すると,自動車・自動車部品メーカーの工場閉鎖,百貨店の物流センターの再配置,製造業による都市開発事業への展開,銀行の福利厚生施設売却,などの背景が大規模商業施設の用地を供給していることがわかる. 3.イオンモール日の出の開業と秋留台開発計画 こうした経済的背景の一方で,多摩ニュータウンにある三井アウトレットパーク多摩南大沢などは,不動産会社などが都有地を買取するなどして開業させたものであり,東京都の多摩ニュータウン開発からの撤退という政治的背景も見られる.こうした政治的背景について,日の出町のイオンモール日の出を事例とし,さらに検討する. イオンモール日の出のある地区は秋留台地に含まれる.東京都や秋留台地域の自治体は,1984年に首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の整備が表面化して以降特に,秋留台の開発をうたってきた.これを受けて1993年に東京都都市計画局は,「秋留台地域総合整備計画」(以下,秋留台計画)を策定した. 秋留台計画は,「多摩地域の自主性を高めるための先端技術産業の導入と就業の場の確保」を目的とし,旧秋川市を中心として68,000人の人口増加と36,000人が働く産業を誘致するとした.また,秋川市・五日市町・日の出町の合併を暗に促進した.その結果,秋川駅周辺において「あきる野とうきゅう」を中心とした商業施設の集積が進んだ.また,いくつかの工業団地造成や土地区画整理が進んだ.しかし,計画策定後の深刻な景気低迷により,目標に遠く及んでいない. 秋留台計画においてイオンモールのある三吉野桜木地区は当初工業・住宅地区として,また3市町合併の際には行政地区として開発される計画であったが,未開発地区として取り残されていた.そうした状況の下でイオンがショッピング・モールの進出を日の出町に打診し,全面的な賛同を得た.しかし,この地区と秋川駅との距離は1kmほどしかなく,2007年の開業前後から数多くの店舗が秋川駅周辺の商業施設を離れ,イオンモールに移転するという問題が生じている. イオンモールの進出は秋留台計画の変更を伴うものであったものの,都や秋留台地域自治体の議会では秋留台計画についてほとんど議論されていない.秋留台計画頓挫の後処理を進めるために,都や秋留台地域の自治体がこの計画を省みないことによって,イオンモール日の出は開業に至ったと考えられる. このように,多摩地域西部では,上位スケールの政治的・経済的背景が新たな商業空間の創出を促していると結論づけられるのである.