著者
井上 孝
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.308, 2008

一般に,社会的地位,収入,学歴等のステイタスがより高い者と結婚することを上方婚または上昇婚,その逆を下方婚または下降婚という。周知のとおり,先進国,途上国を問わず,女子のほうがより強く上方婚を志向する傾向がある。また,この傾向は国内どうしの結婚,国際間の結婚のいずれにも現れるが,とくに後者の場合は,結婚しようとする2人の個人的なステイタスの違いに加えて,その2人が属する国の経済水準の違いが大きく関わる。すなわち,経済水準のより高い国の相手との結婚を志向する傾向は,女子の方が相対的に強いといえる。本研究では,国際結婚におけるこうした傾向を論じるにあたって,経済水準のより高い国の国籍をもつ者との結婚を上方婚,その逆を下方婚と定義する。<BR> 本研究で定義した,国際結婚における上方婚と下方婚については,多くの研究において言及がなされている。しかし,管見ではそのような国際結婚に注目しその動向を定量的に示した研究はほとんどない。そこで本研究は,任意の二国間の国際結婚において,上方婚と下方婚の量的差異またはその変化にどのような法則性があるかを,近年の日韓間の国際結婚を事例にして検証することを目的とする。この検証にあたっては次のような3つの仮説を設けて議論を進める。<BR> 以下では,任意の2か国(A国とB国)の間の国際結婚を考える。このとき,A国におけるB国人との結婚またはB国におけるA国人との結婚に関して,妻からみた上方婚の件数の,夫からみた上方婚の件数に対する比率をWH比と呼ぶこととする。ここで,<BR><B>仮説1</B>:A国におけるB国人との国際結婚に関するWH比とB国におけるA国人との国際結婚に関するWH比は等しい,<BR><B>仮説2</B>:仮説1で示した2つのWH比は,いずれも,A国とB国の経済格差の短期的変動の影響を受けない,<BR><B>仮説3</B>:A国におけるB国人との国際結婚件数の,B国におけるA国人との国際結婚件数に対する比率は,過去のある時点におけるA国とB国の経済格差に連動する,<BR>という3つの仮説を設ける。<BR> 上述の仮説を近年の日韓間の国際結婚に適用した結果は以下のとおりである。2000~2006年における両国間の国際結婚件数については,日本における対韓の件数にはあまり変化がないが,韓国における対日の件数は2002年以降上昇傾向にある。この期間におけるWH比を日韓のそれぞれについて算出すると,これらのWH比はいずれの年も近似しており,また2.5前後の比較的安定した値をとっていることがわかった。これにより仮説1と仮説2は日韓の国際結婚に関して支持された。また,日本における対韓の国際結婚件数と韓国における対日の国際結婚件数の比率を2000~2006年について算出し,1995年以降の日韓の1人あたりGDPの比率と比較すると,4年間のタイムラグをおいてこれらの比率が連動していることが示された。すなわち,ある年の日韓の1人あたりGDPの比率が4年後の国際結婚件数の比率をよく説明している。したがって,日韓の国際結婚に関しては仮説3も支持される形となった。

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「上方婚」「下方婚」という言葉がスラングじゃなくて学術用語としても存在することを知って戦慄した https://t.co/ur6qkscu6O
https://t.co/gj7ldYBaMD 「周知のとおり,先進国,途上国を問わず,女子のほうがより強く上方婚を志向する傾向がある」 と前提として言われるほどということはそういうのがあるものだと考えると、東京医科大の件もそれに合わせようという動きと(いいか悪いかはともかく)言うこともできなくはない。

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