著者
鄭 暁静 大竹 美登利
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

1.目的 今日、家族・家庭生活には様々な課題があり、日本と韓国はこれらの状況が類似している。家庭科教育はこうした家族・家庭生活に関する課題を主に扱っており、どのような内容を取り上げどのように学ばせるかは、教師の家族・家庭生活意識に影響されることも多い。また、その授業内容や方法によって生徒の学びは相違し、生徒の家族・家庭生活意識に与える影響は大きいと考えられる。そこで、本研究においては、日本と韓国の家庭科教師を対象に、教師の家族・家庭生活意識及び授業実態を調査し、日本と韓国の家族・家庭生活領域の教育の実態の違いを明らかにすることを目的とした。2.研究方法 (1)調査方法:日本の普通科高等学校(2000校)と韓国の一般系高等学校(1500校)の家庭科教師宛にアンケート用紙を郵送し、返送してもらった。 (2)調査期間:韓国は2013年3月上旬発送、日本は5月上旬発送し、それぞれ3週間後を締め切りとして返送してもらった。 (3)調査対象:有効回収数、韓国209名、日本570名であった。 (4)調査内容:学校の雰囲気、男女平等意識、結婚・家族生活意識及び授業の内容など。3.結果 (1)学校の雰囲気は家庭科教師自身の男女平等意識や家庭生活観に影響を与えるものと考えられる。そこで、学校の雰囲気について「周囲と違う意見を言いにくい雰囲気がある」など、9つの項目について尋ね、「全くそう思わない」(1点)、「そう思わない」(2点)、「そう思う」(3点)、「とてもそう思う」(4点)の4選択肢の中から1つを選ばせ、4段階評定尺度によって平均値を出し得点化した。その結果、「教員間の意思疎通がうまく取れている」、「教員会議などで活発な議論が交わされている」、「男性教員の方が女性教員より管理職から信頼されている」の項目においては韓国の方が得点が高く、日韓の間に1%水準で有意な差があった。一方、「新しいことをはじめにくい雰囲気がある」の項目は日本の方が得点が高く、日韓の間に1%水準で有意差があった。 (2)男女平等意識をはかるため、「能力や適性は男女で異なる」など、11の項目について、4段階評定尺度によって得点化した。その結果、「女性の校長、教頭を増やした方がよい」という項目において、日本の方が得点が高く、日韓の間に1%水準で有意差があった。 (3)結婚生活に求めるものの重要度について「精神的な親密さ」など、10の項目について尋ね、4段階評定尺度によって得点化した。その結果、「経済的な安定」以外の全ての項目において韓国の方が得点が高く、中でも「性的満足度」、「子どもを生み育てること」、「趣味が同じであること」、「社会的な地位を築くこと」、「同じ人生観、価値観を持っていること」、「親や周囲の期待に応えられること」の項目で1%水準で有意差があった。 (4)家庭科の授業内容の中で、現在、重点をおいて教えている内容について、複数回答で尋ねた。その結果、韓国は「配偶者の選択と結婚」が75.0%、「妊娠と出産」が63.0%、「家族の関係と家庭の機能」が54.2%など、結婚・家族に関しての内容が多く扱われていた。一方、日本は「食事と健康」が91.7%と突出して多かった。また、今後、重点をおいて教えたい内容について、複数回答で訪ねた結果、日本と韓国両国とも1位は現在と変わらないが、韓国は「高齢者・障害者の問題」、「共生社会と福祉・社会的支援」が、日本は「職業・キャリア教育」、「生活設計」が新たに注目されていた。

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