著者
早川 宗志 下野 嘉子 赤坂 舞子 黒川 俊二 西田 智子 池田 浩明 若松 徹
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.124-131, 2014

国内生物の地域区分に関して,これまでにいくつかの植生地域区分等が示されている(環境省・国土交通省 2008)。例えば,日本植物区系(前川 1974),林業種苗法種苗配布区域(http://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/kokuji/pdf/k0000559.pdf),生物多様性保全のための国土区分(環境庁 1997; 環境省 2001),植生帯エリア(国土技術政策総合研究所 2002)がある。このような植生,地質,地史,気候などに基づく地域区分の他に,管理単位(Management Unit; MU)や進化的重要単位(Evolutionary Significant Unit; ESU)といった系譜関係に基づいた地域区分の提唱がなされている(Moritz 1994)。管理単位とは,集団が他集団と移住による交流をほとんどもたず他と遺伝的に明瞭に識別可能であるもの,進化的重要単位とは,オルガネラDNAにおいて単系統であり,核DNAの対立遺伝子頻度も著しく異なるグループ(Moritz 1994)として提言され,進化の歴史において同種の別集団から長期の隔離状態にあるものをいう(Avise 2000)。遺伝子系列の分布パターンは過去の分散や移入の歴史を反映しているため,現在の地理的分布がどのような歴史的過程により生じたのかを系統関係から解明することが可能である(三中 1997; Avise 2000)。日本在来植物を用いた解析では,木本植物(Tomaruら 1997; Fujiら 2002; Ohiら 2002; Okaura・Harada 2002; Aokiら 2004; Sugaharaら 2011),高山植物(Fujiiら 1997,1999; Fujii・Senni 2006; 藤井 2008),琉球列島に分布する植物(Kyoda・Setoguchi 2010; 瀬戸口 2012)などにおける先行研究がある。このような植物の種内系統の分析結果をもとに,小林・倉本(2006)は進化的重要単位(ESU)の考え方に基づいて日本国内における在来木本植物を18区域へ試作的に区分し,その移動許容範囲として100-200kmを推奨している。さらに,10種の広葉樹に関して種苗の移動に関する遺伝的ガイドラインも示されている(森林総合研究所 2011)。それに対して,広域分布する草本性パイオニア植物の研究事例はイタドリ(Inamuraら 2000,稲村 2001)やヨモギ(Shimonoら 2013a)などの報告があるのみで少ないのが現状である。そのため,木本植物とは生態的特性が大きく異なるススキなどの草本性パイオニア植物における移動許容範囲は未提示であり,系統地理学的研究が必要である。日本全国に分布するススキは,開花時期に関して北方系統が早く,南方系統が遅いという緯度に沿った勾配があるため,生態的に異なる地域系統が存在することが指摘されている(山田 2009)。その一方,日本産ススキの生育地を網羅するような遺伝的解析による系統識別は,著者らが研究を始めた2008年の段階では行われていなかった。そこで,ススキの産業利用時に問題となりうる導入系統と在来地域系統間の遺伝的かく乱リスクを回避するための移動許容範囲の策定を目的として,著者らはススキの日本国内における系統地理学的研究を行ってきた。これまでに得られた著者らの結果を中心に,本論文では広域分布の草本植物ススキがどのような地理的遺伝構造を持つのか,ならびに地域を超えて導入する場合の問題点と地域系統の保全について考察していきたい。

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