著者
西田 智子 黒川 俊二 柴田 昇平 北原 徳久
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.59-66, 1999-04-30
被引用文献数
5

現在, 草地・飼料畑で大きな問題になっている外来雑草の侵入経路の一つとして, 雑草種子の混入した輸入濃厚飼料が家畜に採食され, 糞が堆厩肥として圃場に還元される過程で, 生存したままの種子が圃場に散布されることがあげられている。家畜の消化作用ではすべての種子を死滅させることは不可能なため, 堆肥製造過程で雑草種子を死滅させることが, 外来雑草を蔓延させないために必要である。堆厩肥中の雑草種子は, 堆肥の最高温度が約60℃以上になれば, 発芽力を失うことが明らかにされているが, 温度の持続時間と種子の死滅率の詳細は不明である。そこで, 本実験は, 55及び60℃において, 雑草種子がそれらの温度にさらされる時間と死滅率との関係について調査した。10種類の畑雑草種子(ワルナスビ, アメリカイヌホオズキ, イチビ, ヨウシュヤマゴボウ, ハリビユ, ホソアオゲイトウ, オオイヌタデ, オオクサキビ, イヌビエ及びメヒシバ)を, 15℃暗条件で24時間吸水させた。種子の吸水率は6〜60%の範囲であった(Table 1)。これらの種子について, 55℃皮び60℃の処理で, 死滅率が100%となる時間を調査した。イチビを除く9種類の雑草は, 55℃で72時間, 60℃で24時間処理すれば全ての種子が死滅した。イチビ(休眠率80%)については, 55℃では120時間, 60℃では30時間の加熱が必要であった(Table 2)。調査した10種類の雑草の加熱耐性を, 短時間の熱処理に対する耐性(SDHT)と, 長時間の熱処理に対する耐性(LDHT)とを組み合わせて分類した。SDHTは60℃3時間処理での生存率により, 50%を境に低及び高耐性の2群に分けた。LDHTは, 60℃処理において1%の有意水準で生存率0%と差が無くなるまでにかかった処理時間により, 低, 中, 高耐性の3群に分類した。その結果, SDHT, LDHTともに低いオオイヌタデ, メヒシバ及びイヌビエ(第1群), SDHTが低くLDHTが中位のハリビユ及びオオクサキビ(第2群), SDHTが高くLDHTが中位のワルナスビ, アメリカイヌホオズキ, ヨウシュヤマゴボウ及びホソアオゲイトウ(第3群), SDHTが低いがLDHTの高いイチビ(第4群)の4群に分かれた(Table 3)。第1, 2及び4群は, 短時間の熱処理で高い死滅率を示すが, 100%の種子が死ぬまでにかかる時間はそれぞれ異なるといえる。また, 第3群は, 短時間の熱処理では生存率が高いが, 100%の種子が死ぬまでにかかる時間はそれほど長くない群である。調査した10種類の雑草種子を死滅させるための時間はイチビ種子の死滅を目安として設定すればよいと考えられたので, イチビについて, プロビット法によりLD_<90>となる時間の95%信頼区間を計算した。その結果, 55℃では42〜58時間, 60℃では10〜17時間となった(Fig. 1)。本実験の結果と既往の堆厩肥の発酵温度に関する報告とからみて, 堆厩肥が順調に発酵した場合は, イチビを含むすべての種子が死滅する温度と時間を確保できるといえる。
著者
早川 宗志 下野 嘉子 赤坂 舞子 黒川 俊二 西田 智子 池田 浩明 若松 徹
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.124-131, 2014

国内生物の地域区分に関して,これまでにいくつかの植生地域区分等が示されている(環境省・国土交通省 2008)。例えば,日本植物区系(前川 1974),林業種苗法種苗配布区域(http://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/kokuji/pdf/k0000559.pdf),生物多様性保全のための国土区分(環境庁 1997; 環境省 2001),植生帯エリア(国土技術政策総合研究所 2002)がある。このような植生,地質,地史,気候などに基づく地域区分の他に,管理単位(Management Unit; MU)や進化的重要単位(Evolutionary Significant Unit; ESU)といった系譜関係に基づいた地域区分の提唱がなされている(Moritz 1994)。管理単位とは,集団が他集団と移住による交流をほとんどもたず他と遺伝的に明瞭に識別可能であるもの,進化的重要単位とは,オルガネラDNAにおいて単系統であり,核DNAの対立遺伝子頻度も著しく異なるグループ(Moritz 1994)として提言され,進化の歴史において同種の別集団から長期の隔離状態にあるものをいう(Avise 2000)。遺伝子系列の分布パターンは過去の分散や移入の歴史を反映しているため,現在の地理的分布がどのような歴史的過程により生じたのかを系統関係から解明することが可能である(三中 1997; Avise 2000)。日本在来植物を用いた解析では,木本植物(Tomaruら 1997; Fujiら 2002; Ohiら 2002; Okaura・Harada 2002; Aokiら 2004; Sugaharaら 2011),高山植物(Fujiiら 1997,1999; Fujii・Senni 2006; 藤井 2008),琉球列島に分布する植物(Kyoda・Setoguchi 2010; 瀬戸口 2012)などにおける先行研究がある。このような植物の種内系統の分析結果をもとに,小林・倉本(2006)は進化的重要単位(ESU)の考え方に基づいて日本国内における在来木本植物を18区域へ試作的に区分し,その移動許容範囲として100-200kmを推奨している。さらに,10種の広葉樹に関して種苗の移動に関する遺伝的ガイドラインも示されている(森林総合研究所 2011)。それに対して,広域分布する草本性パイオニア植物の研究事例はイタドリ(Inamuraら 2000,稲村 2001)やヨモギ(Shimonoら 2013a)などの報告があるのみで少ないのが現状である。そのため,木本植物とは生態的特性が大きく異なるススキなどの草本性パイオニア植物における移動許容範囲は未提示であり,系統地理学的研究が必要である。日本全国に分布するススキは,開花時期に関して北方系統が早く,南方系統が遅いという緯度に沿った勾配があるため,生態的に異なる地域系統が存在することが指摘されている(山田 2009)。その一方,日本産ススキの生育地を網羅するような遺伝的解析による系統識別は,著者らが研究を始めた2008年の段階では行われていなかった。そこで,ススキの産業利用時に問題となりうる導入系統と在来地域系統間の遺伝的かく乱リスクを回避するための移動許容範囲の策定を目的として,著者らはススキの日本国内における系統地理学的研究を行ってきた。これまでに得られた著者らの結果を中心に,本論文では広域分布の草本植物ススキがどのような地理的遺伝構造を持つのか,ならびに地域を超えて導入する場合の問題点と地域系統の保全について考察していきたい。
著者
浅井 元朗 黒川 俊二 清水 矩宏 榎本 敬
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-10, 2007-03-30
被引用文献数
7

輸入穀物に由来する海外からの雑草種子の非意図的導入とその耕地への拡散が大きな問題となっている。1993〜95年にかけて鹿島港に入港したムギ類,ナタネ等冬作穀物中の混入雑草種子を調査した。21科92種が識別された。81種群,29検体を対象とした除歪対応分析による序列化の結果,アメリカ合衆国産,カナダ産,ヨーロッパ産(ドイツおよびフィンランド),オーストラリア産の調査検体がそれぞれ特徴的な混入種組成を有することが判明した。アブラナ類が最多の25検体から検出され,シロザが23,カラスムギが21,ソバカズラが20,エノコログサおよびタデ類が18,グンバイナズナが17検体から検出された。アブラナ類は5ケ国全ての検体に混入しており,北米,特にカナダ産検体への混入数が多かった。高緯度産(カナダ,ヨーロッパ)検体には日本の温暖地以西では夏生一年草である草種が混入していた。生産国の主要雑草種と検体中の混入草種とはおおむね一致した。日本でも近年ムギ作の難防除雑草となっているカラスムギ,ライグラス類は輸入ムギ類に大量に混入していること,また生産国における輪作作物の自生雑草化に由来すると考えられるアブラナ類が最も多量に混入していることを確認した。
著者
西田 智子 黒川 俊二 柴田 昇平 北原 徳久
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.59-66, 1999-04-30 (Released:2009-12-17)
参考文献数
20
被引用文献数
7 7

現在, 草地・飼料畑で大きな問題になっている外来雑草の侵入経路の一つとして, 雑草種子の混入した輸入濃厚飼料が家畜に採食され, 糞が堆廐肥として圃場に還元される過程で, 生存したままの種子が圃場に散布されることがあげられている。家畜の消化作用ではすべての種子を死滅させることは不可能なため, 堆肥製造過程で雑草種子を死滅させることが, 外来雑草を蔓延させないために必要である。堆廐肥中の雑草種子は, 堆肥の最高温度が約60℃以上になれば, 発芽力を失うことが明らかにされているが, 温度の持続時間と種子の死滅率の詳細は不明である。そこで, 本実験は, 55及び60℃において, 雑草種子がそれらの温度にさらされる時間と死滅率との関係について調査した。10種類の畑雑草種子 (ワルナスビ, アメリカイヌホオズキ, イチビ, ヨウシュヤマゴボウ, ハリビユ, ホソアオゲイトウ, オオイヌタデ, オオクサキビ, イヌビエ及びメヒシバ)を, 15℃暗条件で24時間吸水させた。種子の吸水率は6~60%の範囲であった (Table 1)。これらの種子について, 55℃及び60℃の処理で, 死滅率が100%となる時間を調査した。イチビを除く9種類の雑草は, 55℃で72時間, 60℃で24時間処理すれば全ての種子が死滅した。イチビ (休眠率80%) については, 55℃では120時間, 60℃では30時間の加熱が必要であった (Table 2)。調査した10種類の雑草の加熱耐性を, 短時間の熱処理に対する耐性 (SDHT) と, 長時間の熱処理に対する耐性 (LDHT) とを組み合わせて分類した。SDHTは60℃3時間処理での生存率により, 50%を境に低及び高耐性の2群に分けた。LDHTは, 60℃処理において1%の有意水準で生存率0%と差が無くなるまでにかかった処理時間により, 低, 中, 高耐性の3群に分類した。その結果, SDHT, LDHTともに低いオオイヌタデ, メヒシバ及びイヌビエ (第1群), SDHTが低くLDHTが中位のハリビユ及びオオクサキビ (第2群), SDHTが高くLDHTが中位のワルナスビ, アメリカイヌホオズキ, ヨウシュヤマゴボウ及びホソアオゲイトウ (第3群), SDHTが低いがLDHTの高いイチビ (第4群) の4群に分かれた (Table 3)。第1, 2及び4群は, 短時間の熱処理で高い死滅率を示すが, 100%の種子が死ぬまでにかかる時間はそれぞれ異なるといえる。また, 第3群は, 短時間の熱処理では生存率が高いが, 100%の種子が死ぬまでにかかる時間はそれほど長くない群である。調査した10種類の雑草種子を死滅させるための時間はイチビ種子の死滅を目安として設定すればよいと考えられたので, イチビについて, プロビット法によりLD90となる時間の95%信頼区間を計算した。その結果, 55℃では42~58時間, 60℃では10~17時間となった (Fig. 1)。本実験の結果と既往の堆廐肥の発酵温度に関する報告とからみて, 堆廐肥が順調に発酵した場合は, イチビを含むすべての種子が死滅する温度と時間を確保できるといえる。
著者
黒川 俊二
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.31-38, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
21

アレチウリは北米原産の一年生ウリ科植物で,つる性で旺盛な生育をするため世界各地の強害雑草となっている.しかし,原産地では大豆の雑草として問題となるものの非農耕地での問題は報告されていない.日本では各地の河川敷や堤防法面,農耕地で問題となっており,生態系等への悪影響から特定外来生物に指定されている.河川敷や川に近い氾濫原が主な生育地となるが,日本では山間部の畜産飼料畑でも多く発生している.これは輸入飼料を介して侵入しているためと考えられている.侵入・分布拡大メカニズムについては,輸入飼料を介して畜産地帯にまん延した後,水系で拡散し,河川敷や水田地帯に流れ込んでいると考えられる.対策に関しては,一旦まん延させると防除が難しいことから,侵入防止を優先する必要がある.そのため,輸入飼料依存型の畜産からの脱却や輸入検疫体制の整備など,侵入源を絶つ対策が求められる.また,最初に到達する飼料畑での対策によって拡散源を絶つこと,水系での分布拡大メカニズムに基づいたリスクマップづくり,リスクが高い場所における集落全体での管理体制の構築などが必要である.