著者
池田 浩明
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.243, 2020 (Released:2020-12-24)
参考文献数
25
被引用文献数
1

農業による生物多様性の損失を低減させるためには、生物多様性に配慮した農業を普及させる必要がある。この普及のためには、環境に配慮した農業の取り組みによる生物多様性の保全効果を定量的に評価する手法を開発し、農地における生物多様性の「見える化」を図ることが有効である。これを受けて2012年に、農業に有用な指標生物(天敵など)を用いた生物多様性の評価手法を構築した。しかし、この手法は、指標生物がクモ類、昆虫類、カエル類で構成され、その訴求力や評価の簡易さの部分に改善する余地が残されていた。そこで新たに、訴求力が高く視認性も高い鳥類を指標生物に加え、絶滅危惧種などの希少種を加点する水田の簡易評価手法に改良した。 改良した評価手法は、包括的に生き物の生息環境を指標する生物1種類(サギ類またはその餌生物から選択)と栽培方法の指標生物2種類(クモ・昆虫類から1種類を選択、本田・畦畔の指標植物は必須)の個体数または種数をスコア化し、その合計スコアで総合評価する。ここで、スコアの基準となる個体数と種数は地域別(一部は農事暦や栽培方法・降水量で異なる)に定めた。また、環境省または都道府県のレッドリストにおける準絶滅危惧種以上の水鳥、絶滅危惧種のカエル類・植物(本田・畦畔)を加点(3種類の分類群ごとに+1点)できることとした(調査は任意)。最終的な評価は合計スコアを用い、環境保全型農業の取り組みによる保全効果を4段階(S?C、Sが最高ランク)で評価した。 本手法で全国6地域の調査水田(207圃場)を評価した結果、最高ランクのS評価となった圃場は、有機栽培で46%、特別栽培で13%、慣行栽培で3%だった。また、加点対象の希少種のうち、植物とカエル類は有機栽培の水田に、水鳥は特別栽培の水田が卓越する地点(グリッド)によく出現した。これらの結果から、水田における環境保全型農業の取り組みが希少種を含む生物多様性の保全に有効であることが示唆された。
著者
早川 宗志 下野 嘉子 赤坂 舞子 黒川 俊二 西田 智子 池田 浩明 若松 徹
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.124-131, 2014

国内生物の地域区分に関して,これまでにいくつかの植生地域区分等が示されている(環境省・国土交通省 2008)。例えば,日本植物区系(前川 1974),林業種苗法種苗配布区域(http://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/kokuji/pdf/k0000559.pdf),生物多様性保全のための国土区分(環境庁 1997; 環境省 2001),植生帯エリア(国土技術政策総合研究所 2002)がある。このような植生,地質,地史,気候などに基づく地域区分の他に,管理単位(Management Unit; MU)や進化的重要単位(Evolutionary Significant Unit; ESU)といった系譜関係に基づいた地域区分の提唱がなされている(Moritz 1994)。管理単位とは,集団が他集団と移住による交流をほとんどもたず他と遺伝的に明瞭に識別可能であるもの,進化的重要単位とは,オルガネラDNAにおいて単系統であり,核DNAの対立遺伝子頻度も著しく異なるグループ(Moritz 1994)として提言され,進化の歴史において同種の別集団から長期の隔離状態にあるものをいう(Avise 2000)。遺伝子系列の分布パターンは過去の分散や移入の歴史を反映しているため,現在の地理的分布がどのような歴史的過程により生じたのかを系統関係から解明することが可能である(三中 1997; Avise 2000)。日本在来植物を用いた解析では,木本植物(Tomaruら 1997; Fujiら 2002; Ohiら 2002; Okaura・Harada 2002; Aokiら 2004; Sugaharaら 2011),高山植物(Fujiiら 1997,1999; Fujii・Senni 2006; 藤井 2008),琉球列島に分布する植物(Kyoda・Setoguchi 2010; 瀬戸口 2012)などにおける先行研究がある。このような植物の種内系統の分析結果をもとに,小林・倉本(2006)は進化的重要単位(ESU)の考え方に基づいて日本国内における在来木本植物を18区域へ試作的に区分し,その移動許容範囲として100-200kmを推奨している。さらに,10種の広葉樹に関して種苗の移動に関する遺伝的ガイドラインも示されている(森林総合研究所 2011)。それに対して,広域分布する草本性パイオニア植物の研究事例はイタドリ(Inamuraら 2000,稲村 2001)やヨモギ(Shimonoら 2013a)などの報告があるのみで少ないのが現状である。そのため,木本植物とは生態的特性が大きく異なるススキなどの草本性パイオニア植物における移動許容範囲は未提示であり,系統地理学的研究が必要である。日本全国に分布するススキは,開花時期に関して北方系統が早く,南方系統が遅いという緯度に沿った勾配があるため,生態的に異なる地域系統が存在することが指摘されている(山田 2009)。その一方,日本産ススキの生育地を網羅するような遺伝的解析による系統識別は,著者らが研究を始めた2008年の段階では行われていなかった。そこで,ススキの産業利用時に問題となりうる導入系統と在来地域系統間の遺伝的かく乱リスクを回避するための移動許容範囲の策定を目的として,著者らはススキの日本国内における系統地理学的研究を行ってきた。これまでに得られた著者らの結果を中心に,本論文では広域分布の草本植物ススキがどのような地理的遺伝構造を持つのか,ならびに地域を超えて導入する場合の問題点と地域系統の保全について考察していきたい。
著者
相田 美喜 伊藤 一幸 池田 浩明 原田 直國 石井 康雄 臼井 健二
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究. 別号, 講演会講演要旨 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
no.42, pp.46-47, 2003-04-19

水田除草剤のベンスルフロンメチル(BSM)が、絶滅危惧種とされる水生シダのサンショウモ、オオアカウキクサ、デンジソウおよびミズニラの生育に及ぼす影響を野外試験により検討した。また、サンショウモとオオアカウキクサの現生育地における出現状況とBSM濃度の消長を調査するとともに、現生育地において想定される低濃度域のBSMに対するサンショウモとオオアカウキクサの感受性を室内試験により検討した。