著者
美馬 達哉
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.7-18, 2015

「治療を超えて」生物医学的テクノロジーを健常人に対して用いることで、認知能力や運動能力を向上させようとする試みは、「エンハンスメント(Enhancement)」として1990年代後半以降から社会学や生命倫理学の領域で注目を集めている。とくにスポーツの分野では、新しいトレーニング手法、エンハンスメント、ドーピング、身体改造などの境界は問題含みの混乱状況にある。本稿では、医療社会学の観点から、まず、カンギレムの『正常と病理』での議論を援用して、正常、異常、病理、アノマリーなどの諸概念を整理し、正常/異常が文化的・社会的な価値概念であることを明確化した。 次に、スポーツと身体能力のエンハンスメントに力点を置いて、エンハンスメントをめぐる生命倫理学での議論を概観した。病者への治療(トリートメント:treatment)と健常者へのエンハンスメントを対比して、前者を肯定し後者を否定して線引きする伝統的な議論では不十分であることを、具体的実例を挙げて示した。また、資質と努力の賜物としての達成(アチーブメント:achievement)とエンハンスメントを対比して、前者の徳としての重要性を指摘する議論を紹介した。加えて、本稿は、エンハンスメントの根本問題とは何かという点で、現代社会のテクノロジーによる人間的自然の支配こそが再考されなければならないという視点に立って、エンハンスメントを超える展望を提示した。

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美馬さんのもざっと読む。少し毛色が違うのかな。医療社会学の枠に収めると穏当すぎる感じ。やはり哲学畑の人のものの方が本格的に感じる。 https://t.co/Zf0oZEfHrJ

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