著者
石原 豊一
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.59-70, 2010

<p> グローバル化に伴うスポーツの世界的拡大の中、野球も資本との関わりの中、北米トップ・プロリーグMLBを核とした広がりを見せている。本稿ではその拡大における周縁に位置するイスラエルに発足したプロリーグであるイスラエル野球リーグ(IBL)の観察から、スポーツのグローバル化をスポーツ労働移民という切り口から探った。<br> IBLの現実はプロ野球という言葉から一般に想像されるような華やいだ世界ではない。ここで展開されているのは、ひとびとが低賃金で過酷な労働を強いられている周辺の世界である。しかし、IBLの選手の姿は、搾取される低賃金労働者というイメージともすぐには結びつかない。それは、彼らが自ら望んでこの地でのプレーを選んだことに由来している。特に先進国からの選手の観察からは、本来労働であるはずのプロとしてのプレーが、一種のレジャーや社会からの逃避に変質を遂げている様さえ窺えた。<br> この新たなプロリーグに集った選手たちへのインタビューを通じた彼らのスポーツ労働移民としての特徴の分析は、スポーツのグローバル化が経済資本の単一的な広がりというよりは、選手個々の背景や動機が絡んだモザイク的な拡大と浸透の様相を呈している現状を示している。<br> 従来の世界システム的観点から見たスポーツの地球的拡大の文脈においては、プロアスリートの国境を越えた移動もその要因を経済的なものに求めがちである。アスリートの移籍理由を経済的要因以外に求める研究もなされてはいるものの、本稿での事例分析の結果得られた「プロスペクト」型、「野球労働者」型、「バケーション」型、「自分探し」型というスポーツ移民の分類のうち、先進国からの「バケーション」型、「自分探し」型は従来の研究の枠組みには収まりきらないものである。このことはスポーツのグローバル化がもたらした人間の移動要因の変質という点において、今後のグローバリゼーション研究に新たな地平を開拓する可能性を持つ。</p>

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