著者
江森 健太郎 北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.38, 2016

判別分析は事前に与えられているデータが異 なるグループに分かれる場合、新しいデータ が得られた際に、どちらのグループに入るの かを判別するための基準を得るための正規分 布を前提とした分類の手法である。応用範囲は幅広く、病気の診断、スパムメールフィルター等にも応用されている。宝石分野では、ルビー、サファイア、パライバトルマリンの産地鑑別、HPHT 処理の看破(Blodgett et al, 2011)や ネフライトの産地鑑別(Luo et al, 2015)といった 研究例がある。 <br>本研究では、LA-ICP-MS によるアメシストの 微量元素分析データを用いた判別分析を行い、天然・合成の鑑別の可能性について検討 を行った。 <br>アメシストの天然・合成を鑑別する手法としては、内包物およびカラー・ゾーニングの観察、 双晶の有無、赤外分光分析等が伝統的に利用されてきたが、今なお判別の困難な合成石 の流通が多く、より精度の高い鑑別法の確立 が求められている。 <br>宝石鉱物は天然の場合、母岩や産出状況と いった地質的な環境情報を保持するのに対し、合成宝石はその製造方法に関する微量元素 に特徴を持っている。そのため、高精度の微 量元素の分析とデータ解析は宝石の天然・合 成の鑑別にきわめて有効である。<br>分析に用いた試料は、天然アメシストとして、ザンビア、ブラジル、ニュージーランド、日本産を含む計 50 個と、合成アメシストとして 49 個である。 LA-ICP-MS 装置はレーザーアブ レーション装置として NEW WAVE UP-213、 ICP-MS装置としてAgilent 7500aを使用した。 分析の結果、<sup>7</sup>Li, <sup>9</sup>Be, <sup>11</sup>B, <sup>23</sup>Na, <sup>27</sup>Al, <sup>39</sup>K, <sup>45</sup>Sc, <sup>47</sup>Ti, <sup>66</sup>Zn, <sup>69</sup>Ga, <sup>72</sup>Ge, <sup>90</sup>Zr and <sup>208</sup>Pb を用いた判別分析は天然、合成アメシストの鑑別によい指標となることがわかった。 <br>また、天然・合成の鑑別とは異なるが、ザン ビア産とブラジル産のエメラルドに対し、同じ 元素の組み合わせで判別分析を用いたところ、両者を明確に区別することができた。 <br>宝石鉱物は産地や製法を反映した複数の 微量元素を含む。判別分析はそれら複数の 微量元素濃度を一度に取り扱うことができる手法であり、今後も宝石分野でも様々な応用が 期待できる。

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