著者
津田 宏治
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.993-997, 2014

私の製薬業界に関する知識は非常に限られたものであるが,日本の製薬業界の競争力は必ずしも高くないように見える.特に,医薬関係で膨大な貿易赤字を計上している点からもその傾向はうかがえる.一般に日本企業は,欧米企業に比べて情報解析力,特に独自のアルゴリズムを開発する能力に劣り,このことは競争力低下の一因となっているのではないだろうか.ビッグデータという言葉に代表されるように,薬学・分子生物学を巡るデータの量は急激な増加を続け,計算機とアルゴリズムなしには,到底対処できない.データ解析力を高めなければ,世界にごしていくことはできないのではという危機感が最近ようやく高まってきたようである.しかし私の意見では,そのような軽い危機感では全く不十分であり,データ解析力が国力を大きく左右する時代がきたのではないかと考えている.<br>2006年,マイクロソフトのJim Grayは,著書の中でデータ中心科学という概念を提唱した.これは,経験科学,理論科学,計算科学に次ぐ,第四の科学的パラダイムである.単純化して言うと,これまでの科学では経験や知識に基づいて仮説を想起し,その仮説を極めて限られた量のデータを生み出す実験によって検証する形で,発見が行われてきた.それに対し,21世紀の科学であるデータ中心科学では,仮説を決める前に網羅的に大量のデータを取得する.そのデータを解析アルゴリズムにかけた結果を見て仮説を生成し,従来のように検証実験を行うという流れになる.言うまでもなく,大きな違いは解析アルゴリズムが科学的発見のフローの中に組み込まれている点であり,その優劣が最終的な発見の量と質を決定する.このような方法論の変化は,生物学・薬学のみで起こっているわけではない(図1).化学・物理学・マクロ経済学・スマートグリッド・環境エネルギーなど,あらゆる分野から膨大なデータが生み出され,それを解析できる人材が求められている.

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