著者
井田 仁康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

地理教育の観点からみた防災教育の課題<br>この課題の一つとして、災害から身を守るべくハザードマップが十分活用されていない、もしくは活用できないことがある。ハザードマップは、自分自身の身を守る「助かる」だけでなく、他の人を「助ける」ためにも有用であり、さらには地域全体としての防災をどうすべきかを考えるうえでも重要である。しかし、そのハザードマップが活用できていないことが多々あるのである。その要因は、地図を読むスキルが不足しているという読み手の問題と、ハザードマップをみてもどう活用できるのかわかりにくという地図作成側の問題とがある。いずれも、地図を読む、意図のはっきりした読みやすい地図を作成するといった地図活用のスキルの不十分さが指摘できる。学校教育としての地理教育だけでなく、社会教育としての地理教育を考えていかなければならない。<br>地域の観察と防災教育<b><br> </b>矢守氏の「防災といわない教育」、この視点は地理教育でも極めて重要と思われる。津波や地震などに襲われたとき、ハザードマップを見ながら逃げるわけにはいかない。つまり、ハザードマップが頭にはいっていなければならないことになる。その際、ハザードマップだけでなく日頃の地域に関する自分の認知と地図が一体化し、瞬時に判断していかなくてはならない。自分の家の周りを散歩するだけでも、どこが坂となっていて、どちらのほうにいけば高台にいけるかはわかる。さらには、土地の起伏や住宅の密集度などを観察して散歩していれば、日頃から様々な地域の情報がはいってくる。このようにして得られた情報と、自分があまり意識しない近隣地域も範囲となっているハザードマップを見慣れていると、何か起こった時、瞬時の判断の最適な判断材料となろう。 ハザードマップが適切な情報を提供していない場合もなくはない。その場合も、住民の経験による地域認識とハザードマップが一致しているのか、一致していないとすればどこに問題があるのか、考えながら地域を歩くことで地域の見直しができる。それにより、より適切なハザードマップができ、新たな見方を習得することができるようになろう。このようなことは、学校教育の社会科、地理の学習活動としても可能である。防災を目的とした地域調査であろうと、異なった目的の地域調査でも、防災に関する情報を、実地で収集することができる。このような地域調査に基づき、既存のハザードマップを修正したり、行政機関に修正を依頼したりすることもできよう。このような学習は、社会参画にかかわる学習となり、市民として何ができるか、何をしなくてはいけないかといった市民教育ともつながっていく。さらには、持続可能な社会を構築していくことにもつながる。<br>国際協力と防災教育<br> 防災教育をめぐる国際協力の在り方を指摘した桜井氏は、今後の地理教育を考えるうえで新しい示唆を与えてくれた。高等学校までの防災教育は、「自助・共助・公助」という観点があるが、国内での防災教育が前提となっている。特に教科教育の国際発信は、理数教育が注目され、海外から需要も高い。しかし、防災教育のカリキュラムを国際的に発信すれば、国際協力にもつながっていくように思われる。高等学校までの防災教育、とくに地理で行われる教育は国内を対象としている。一方で、世界各地での災害をみれば、地震による都市での災害、津波による災害、噴火による災害など日本との共通点も多く見出すことができる。日本では、多くの災害を経験し、教育にも国内を中心とした防災教育をとりいれてきた。こうした教科としての防災教育は、共通性の高い災害の起こりやすい他国でも参考になるし、情報を共有することで、一層質の高い防災教育をすることにつながる。日本の大学や大学院で、国内外の学生が地理教育を通しての防災教育学び、その成果を海外発信することは、世界が日本の地理教育、防災教育に期待することの一つとなろう。<br>地理教育における防災教育<br> 次期学習指導要領(小学校2020年、中学校2021年、高等学校2022年実施予定)では、高等学校では地理が必履修化される可能性が高い「地理総合(仮称)」では、防災が一つの主要な柱となっている。また、中学校、小学校でも防災教育は行われるだろう。地理教育における防災教育は、地域調査などを通して地域の特性を深く学び、防災に関する課題を見出し、主体的にその解決策を見出そうとし、お互いの考えなどを討論して、不足している知識を習得し、実現可能な解決策に近づけることがもとめられる。こうした学びは、習得、活用、探究といった学びのプロセスを踏むだけでなく、アクティブラーニングンの概念も踏襲している。さらにこのような防災教育にかかわる地理教育は、そのカリキュラムを海外へ発信することで、国際協力にも貢献できる可能性を秘めている。

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