著者
桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<b>I 研究の背景・目的</b><br> 近年,晩婚化の進展と,団塊世代の高齢化などを背景として,単身世帯が大きく増加するとともに,その割合も増大してきている(藤森2010).単身世帯増加の傾向は大都市圏においてより顕著であり,学生や新社会人などをはじめとする若年層だけではなく,より高い年齢層の単身世帯が増加し,単身世帯の年齢は多様化している.大都市圏における単身世帯の大幅な増加の地理的な側面として,1990年代後半から続く都心部での人口回復現象(宮澤・阿部2005)や,女性の単身世帯の都心居住志向の強さ(中澤2012)など,都心部における増加がこれまでに指摘されている.<br> 一方で,マクロな視点からの分析は不足しており,大都市圏全体からみた単身世帯増加の地理的な動向にはまだ不明な点が多い.また,単身世帯に関する地域統計は少なく,単身世帯増加の要因としての人口構造以外の地理的な背景については十分には明らかにされていない.<br> そこで,本発表では,日本の三大都市圏を対象として,近年,単身世帯の年齢の多様化が進展している地域を市区町村単位で把握したうえで,単身世帯に関する詳細な小地域統計が利用できる1995年と2000年の2時点の分析から,単身世帯の年齢の多様化の地理的な背景を明らかにすることを試みる.<br><b>II 市区町村単位での分析-1990~2010年-</b><br> まず,すべての市区町村について,年齢階級別の単身世帯数を把握できる1990年から2010年の国勢調査結果を利用して,総務省の定義による2010年時点の三大都市圏のうちで単身化が進展する地域を世代ごとに把握する.<br> 単身化を捉える指標として,コーホート単位で,年齢階級別人口に占める単身世帯比率の変化率と,年齢階級別単身世帯数の増加率を求めた.年齢階級別人口に占める単身世帯の比率は,いずれの年齢階級,年次,大都市圏においても,都心部ほど高く,郊外に向かうにつれて低くなる傾向であり,若いほど都心部で若干高くなることを除けば,年齢階級による地域差は明確ではない.コーホート単位での年齢階級別単身世帯比率の変化から,三大都市圏ともに,郊外での中高年層の比率の高まりと,1995年以降の都心部における若年層の比率の高まりが確認された.都心部では,若年層の増加率も高く,単身世帯の大幅な流入による絶対的な増加が進んだものと考えられる.一方,郊外の中高年層の増加率はそれほど高くはなく,中高年層の単身化の速度は若年層に比べて緩やかであるといえる.<br><b>III 小地域単位での分析と若干の考察-1995~2000年-</b><br> 年齢階級別単身世帯数が把握できる1995年と2000年の町丁・字単位の小地域統計を用いて,2000年における単身世帯の年齢構成を類型化し,年齢構成ごとの地域特性から単身世帯の年齢の多様化の背景を検討する.類型化は,一般世帯総数に占める単身世帯比率や単身世帯の年齢階級別構成比などをもとに,SOM(自己組織化マップ)を用いて行った.SOMによって要約された指標値に基づき,さらに6クラスターに分類し,クラスターごとの年齢階級別単身世帯数・配偶関係別人口,住宅の建て方・所有別世帯数,DID化の時期について整理した.<br> 都心部に広がる若年・単身卓越クラスターでは,2000年に20~24歳になる単身世帯および未婚者の増加が顕著である.また,郊外に広がる青年・壮年クラスターにおいて,中高年・高齢層(2000年に50歳以上)の単身世帯の大きな増加のほか,若年・青年層(同25~39歳)の単身世帯の増加傾向も確認でき,郊外では単身世帯の年齢の多様化が進んでいることがわかる.次に,青年・壮年クラスターは,持ち家や一戸建が多い地域であるものの,1995年から2000年の間に6階建以上の共同住宅に住む世帯が大きく増加し,若年・単身卓越クラスターと類似した変化を示した.一方,郊外に分布する中高年クラスターは,青年・壮年クラスターと同様に一戸建に住む世帯が多いものの,世帯数の増加は大都市圏全体と比べて低調である.DID化の時期との関係をみれば,青年・壮年クラスター,中高年クラスターについては,1960年代後半~1970年代後半に市街化された地域に多く分布することが示された.開発から20~30年が経過し,高齢化と単身化が同時に進行してきたことがうかがえる.<br> 単身世帯の年齢の多様化が生じてきたのは,三大都市圏ともに,1960年代後半~1970年代後半に市街化された郊外である.郊外でも高層共同住宅の供給が多い地域では,若年の単身世帯の増加が目立ち,増加傾向を示す単身世帯が中高年・高齢を中心とする地域と,若年も含まれる地域とに二分されている.今後は,詳細なメカニズムの解明に向けて,よりミクロな視点による分析を進める予定である.<br>

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