- 著者
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野中 健一
新井 綾香
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2016, 2016
本研究は,ベトナム北部山岳地域に居住するタイ族,ザオ族の1年間の食事内容の記録の分析,また両民族への栄養摂取源に関する聞き取り調査を報告し,ベトナムの少数民族における動物性食物,植物性食物の摂取状況,貧困層と非貧困層の食物摂取の相違等を総合的に考察する. <br> 政府は農村においては月額400,000VND(約20ドル)以下の世帯を貧困層と位置付けており,ベトナムでは貧困層の70%を少数民族が占めるといわれており,その栄養改善が指向されている.少数民族の栄養改善は政府の政策の中でも最優先分野となっている。<br>調査の対象はイェンバイ省バンチャン郡の2コミューン(村)(ソンルアン/タイ族・ナムライン/ザオ族)であり,ハノイから北西部の山岳地帯に位置している.<br> 調査はソンルアン村にて90世帯(全体の13.0%),ナムライン村にて70世帯(全体の9.8%)を対象に実施した. 調査では各世帯が1日に食した食物(農産物及び非林野副産物)を種類別(肉魚類,昆虫類,穀類,野菜・果物類)に全て記録してもらい,1年間に食した頻度を記録する作業を行った.また,頻度の調査に加え,タイ族,ザオ族双方を対象としてフォーカルグループディスカッションを2度行い,年代における食事の変化や,特定の食物の種類など,日誌調査法や頻度の分析では得ることができない追加情報を得た.<br>調査の結果,動物性食物の摂取においては貧困層と非貧困層でその摂取状況に大きな差が出た.ザオ族の動物性食物摂取のうち,貧困層及び非貧困層の自然資源と農産物の比はそれぞれ29%・71%,16%・84%であり,動物性食物に関しては貧しければ貧しい程自然資源に栄養源を頼っていることが分かった.一方,植物性食物の摂取は貧困層,非貧困層に関わらず自然資源への依存度が非常に高い(41%~45%)結果となった.経済状況に関わらず,多くの野生副産物が食事に組み込まれており,微量栄養素の摂取源になっていることが示唆された. <br> さらに,①自然資源摂取状況,②植物性食物と動物性食物の摂取状況,③たんぱく源となる食物選択,④微量栄養素となる食物選択,⑤各食物の季節性の変化,⑥個人差の比較について分析と考察を進めていきたい。<br>