- 著者
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加藤 晶子
荻津 達
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2016, 2016
<br><br>長周期地震動(周期1秒以上)の地域的な差異 については、地下の地質構造に起因していると考えられている。千葉県では地震動の速度応答(建造物のゆれの大きさに対応する)の分布が、房総半島中央部で周期10〜12秒で周辺の地域より高い値を示すことがわかっており、地下構造探査で先新第三系上面深度が最も深い5000m以上と見積もられている地域とほぼ重なっている。本研究では、この先新第三系上面が深い地域において、地震の観測波形から、先新第三系の上面深度とゆれが大きくなりやすい周期の関係を明らかにするとともに、表層が沖積層や埋立層の場合に増幅・周期ののびの影響が生じるため、表層地質の異なる観測点の比較を行った。対象地域は房総半島中西部をとし、市原市ちはら台、同市有秋台(各々の先新第三系上面深度はおよそ3500m、5000m、表層地質は更新統下総層群、標高約40m)に速度計(測定範囲0.01~100秒)を、木更津市鎌足(先新第三系上面深度4500m、下総層群)に加速度計(測定範囲0.03~10秒)を設置している。また、沖積層上の地点として市原市牛久(先新第三系上面深度およそ4500m)、市原市沿岸部3カ所(先新第三系上面深度およそ3500m)の加速度計で観測した。対象とした地震は、最近2年間に観測されたものから、①大規模(マグニチュード5.5以上)-震央が遠いもの、②大規模-やや近いもの、③小規模-近いものを選定し、各観測点での波形データから速度応答スペクトルの解析を行った。①の大規模-遠い地震の場合、ゆれが大きくなる周期は、ちはら台2~2.5秒および9~10秒、有秋台2~3.5秒および9~10秒、鎌足2秒付近となっており、基盤深度の差が影響していると考えられる。加速度計では10秒程度の長周期地震動を観測できず、速度応答に反映されない。また、震央が遠い地震では、距離減衰が大きいく、地震動がより長周期側に出る沖積層上の観測点では記録が得られなかった。さらに、震源が浅く、ごく遠い海外の大規模地震では、減衰されにくい表面波のみが12秒前後の長周期地震動として観測された。②のやや近い大規模地震の場合には、ちはら台・有秋台ともに0.5秒前後で速度応答が大きくなっている。③近い小規模地震)の場合には、ちはら台で0.1~0.3秒、有秋台で0.3秒、鎌足で0.2~0.3秒、牛久で0.3~0.4秒、市原市沿岸部0.15~0.2秒にピークがあり、基盤深度の影響がみられる。これらのなかで比較的規模の大きい地震(マグニチュード5.2)では、0.5秒前後にピークがあるが、地震のエネルギー規模が大きくなるほど長周期の波が観測されるためと考えられる。これまでの結果では、表層地質の違いによる周期への影響は先新第三系の深度によるものより小さい。しかし、沖積層上の観測点では加速度計の記録であるため、周期2秒以上の速度応答が充分得られておらず、その周期域における解析はさらに必要と考えている。